第16話 初めての指名依頼

 フーリャスの家での食事会の後、余ったカースジェヌラの魔石等地竜の迷宮で魔物を討伐した際出て来た素材や、剥ぎ取った爪や牙と言った素材を売って冒険資金を得るべく、ギルドに向かっていた。


「ああ…… また食べたいなぁ…… カルネさんの料理。あれは美味しすぎていくら食べても食欲が無くならない。むしろ増大してる」


 確かにリニルシアの言う通りだ。カルネの作るワイバーンの肉をステーキみたいな大きさに切ってよく焼く料理とか、山で採ってきた謎の山菜を使ったサラダ等、彼女が出してきた料理には1つたりとも不味いものはなかった。


「お前が鬼のように食ったお陰で俺たちがロクに食えなかっただろうが。ちょっとは自重しろ」


「本当その細身の身体のどこにそんな量の食べ物が入るのか不思議ですよ。この食欲をどうにかしないと食費が……」


 あそこで止めなければ、そのままワイバーン1頭まるごと食べてしまいそうだった勢いのリニルシアに呆れているルスマス。


 どうやってこの底無しの食欲に対処するかの話し合いをしながらギルドに入り、魔物素材買取屋と言う魔物から出る物の買い取りを専門に行っている所に行って、今まで迷宮で得た素材を必要ない分だけ渡して買い取りをしてもらうことにした。


「すみません。素材の買い取りをお願いしたいのですが」


「はい。ではその素材を出していただけますか?」


 そう言われてルスマスが素材を持っていたバッグの中から机の上に全部出すと、大きさの割りに出て来る量があり得ない程多くて周囲に散らばってしまった。魔法か何かで中の空間が大きくなっているのだろうか。


「え~っと…… これって地竜の迷宮の下層に居るカースジェヌラの素材ですよね。それに、他の素材もどれも全部Aランクの魔物以上の物ばかり…… 貴方たちは一体……」


 買取屋の職員は、AやSランクの魔物素材が山になっているこの状況に絶句していた。出された物が高価で攻略難易度の高い迷宮の魔物素材ばかりなのだから、それも当たり前か。


「あ、すみません。それで買い取り金額ですが、呪獅子カースジェヌラの魔石は解呪の秘薬製作に必要な超レア素材なので2つで白金貨3枚です。他の素材との合計は…… 出ました。白金貨10枚と金貨7枚、銀貨9枚です」


「「「高っ!!」」」


 どうやら想定金額よりもかなり多く貰えたようで、3人は驚いていた。『これでご飯が食べ放題だぁ!』とリニルシアが興奮しながら言ったが、ルスマスに『お前が本気で食ったら金がすぐ消えるから駄目』と言われて意気消沈していた。これだけのお金がすぐ消える程の食欲とは一体どんなものなんだと少し気になった。


 そうして得たお金を持ってギルドから出ようとしたら、危ないから捜索依頼受けない方が良いと忠告してくれたあの時の冒険者が近づいて『あんたら本当に凄いなぁ!」と言って俺たちに握手を求めて来たのでそれを了承し、握手を仕返す。


「いやぁ、それにしてもたったの2日足らずで行方不明者を探し当てるだけでなく、沢山の魔物素材を得て来るとは驚きだ」


「まあ、宝物は無視していたし、それにルナのスキルと力が非常に役に立った。彼女がいなければ魔物素材はおろか、行方不明者を五体満足で救い出せたか分からなかったしな」


「銀髪で緑瞳の姉ちゃんの隣に居る娘がか? そんなに強いのか」


「ああ。カースジェヌラを5殺ったのはルナだしな。それに、ユーラだって素材になった魔物の半分くらい殺ってるしな。疑うなら力の片鱗をルナとユーラに見せてもらうが」


「「「……5体!? 薄金髪の娘強えぇ! それに銀髪姉ちゃんも強えぇ!」」」


 その場にいたあらゆる人にも聞こえるほどの声で喋るルスマスと、話しかけてきた冒険者。お陰でギルドに居た人たちに詰め寄られて俺は魔法を、ユーラは弓を使った技を見せる羽目になった。その後もなんだかんだで飲み会等に付き合うこととなり、宿に戻ったときにはもう既に夕方で、俺は色々な意味で疲れすぎて死にかけていた。


「……ルスマス、ちょっとは自重しようよ。自分で言うのも何だけど、僕の事言えないじゃん。ルナとかもう倒れそうな程だし」


「あれにはいくら何でも気づきましょうよ。私が気づいて動かなければルナに危ない人があれやこれや…… 恐ろしい」


「……すみません。弁解の余地もございません」


 そんな話をしながら宿に入る。まだ夕方ではあるが、色々あって疲れた俺は

 皆より先に寝ることにした。そして翌日、起きて下の食堂に行ってみると皆が先に座って待っていた。


「おはよう、ルナ。そう言えばお前が寝てる間にな、ギルドの方から俺たちを指名した依頼が来たんだよ」


 どういう事なのか俺が聞いてみると、何でも『あの地竜の迷宮から行方不明者を五体満足で助けた上、そこの魔物の素材を沢山持ってきたらしいじゃないか。そんな貴方たちルスマス冒険団に是非とも頼みたい事がある』とルトレーバのギルド支部長に言われたそうだ。昨日ギルド内で散々騒いだから、ギルド支部長の耳にでも入ったのだろう。


 で、依頼内容を聞いてみると、近々大きな影響力を持つ商人団体『アテン商団』が王都に行って王とのデカい商談をしに行くらしい。その際の道中に魔物や山賊等から守るための護衛とのこと。


「受けようと思うんだが、どうだろうか。長期間の依頼となるから、休憩日も用意してくれて、その間の行動は自由らしいぞ。まあ、複数の冒険団や単独冒険者たちとその日の護衛はローテーションするらしいが」


「その間って他の依頼って受けられるの?」


「護衛に影響しない程度なら良いみたいだぞ。近辺の採取とか雑魚魔物狩りの依頼とか」


 指名してまで俺たちを選んでくれたのか。正直嬉しいと思っている。それは皆も同じなようで、その指名依頼を了承する事に決めた。出発は3日後とのことなので、それまでこの町でのんびり過ごしながら待つことになる。


「俺たちにとって初めての指名依頼だぞ。これを成功させればもしかしたらランクだって上がるかもしれん。だとしたら俄然やる気が沸いてくるよな!」


「そうだね。僕たちが全員Sランクになる道に近づくんだから」


「あの…… 私まだEランクなんだけど、何かごめんね」


「謝んなくていいぞ。ルナは実力的には俺たちと同等かそれを超えてるんだからな。それに、仲間だしな」


「うん。ありがとう!」


 こうして、3日後に来るアテン商団の護衛依頼に向けて準備を進めることとなった。


 

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