第13話 地竜の迷宮 グラデルシア

 バルトレイ家の屋敷に着いた俺らは、案内衛兵にこの地方を治める領主の部屋に案内された。部屋に入ると、そこにはかなりの威圧感を放つ大男が椅子に座って書類とにらめっこしていた。少し経ち、俺たちに気づくとこちらに歩いてきた。


「お前たち、よく来たな。俺がガレット地方を治める貴族『イージア・バルトレイ』だ。ああ、そんなに畏まらなくても良い。正式な会談ではないからな。ちなみに俺の事は呼び捨てでも、そうでなくても構わんぞ」


「そうか。ならイージアと呼ばせてもらっても良いか?」


「もちろんだ。それで今回お前たちを呼んだ理由だが、どうやらエシュテールの馬鹿から逃げてきたみたいだな。その時奴がどんな事をしていたのか、覚えている限りの全てを話して貰いたかったからだ」


「成る程。実は……」


 ルスマスは、この町に来るまでの出来事を記憶の限り全てを話した。その話を聞いたイージアはあきれながら『ああ、やはりか…… というか遂に子供たちにまで手を出そうとしたのか……』と頭をかかえていた。


「よし、分かった。その子供たちは一旦保護しよう。その後の事は俺に任せて、お前たちは冒険の旅なり何なり行くと良い。ああ、そこの薄金髪の吸血鬼少女はルナと言ったか。安心しろ。俺は王に報告するつもりは無い。だが、俺の領地に紛れ込んでる王直属の捜索部隊が居るらしいからあまり目立たないように気を付けろ」


「ああ。忠告ありがとうなイージア」


 こうして、イージアとの会談を終えた俺たちは屋敷を出る。


「ずいぶん良さそうな貴族の人だったよね、ユーラ。あのエシュテールとは大違い!」


「確かにそうだったよねルナ。ああいう人ばかりだったら平和なのに……」


「そうだな。イージアみたいな貴族が増えてくればきっと平和になるだろう。あ、そうそう。昨日の宿代でとうとう残金が銀貨1枚という悲惨な事になったから、ギルドに行って依頼を受けて金を稼ぐぞ」


 銀貨1枚はそんなに少ないのか。ギルドに行く道中に、貨幣の価値についてユーラに聞いてみた。説明によるとこの世界で1番価値が低いのが青銅貨で、そこから順番に銅貨→銀貨→金貨→白金貨で1番価値が高いのが金剛貨

 で、家を買う時ぐらいにしか使われないとのこと。


 昨日の宿代が金貨2枚らしいので、そう考えると確かに財布の中身は悲惨な事になっている。依頼をこなして冒険費用を得ようとするのは当たり前だろう。


 そんな話をしていると、ルトレーバのギルド支部に到着していた。中に入ると、ティアネイドのギルド支部よりも遥かに多くの人々でにぎわっていた。その間をくぐり抜けながら受付を探してると、とある少女と少年の2人組がなにやら冒険者たちに頼み事をしているが、ことごとく断られているのが見えた。


 その2人は一通りギルドに居た人に聞いた後、俺たちの元に近づいてきた。


「あの…… どうかお願い出来ませんか!」


「お前たちとにかく落ち着け。落ち着かないと話にならんから、とにかく落ち着いてゆっくり話してくれないか?」


「うん。実は……」


 推定15か16歳少女が言うには、自分たちの親がとある迷宮ラビリンスに魔物討伐に行ったきり帰ってこないので、捜索して欲しいとお願いしているが、なかなか受けてくれる人が居ないとの事。


「で、その迷宮は何と言うんだ?」


「地竜の迷宮です。別名『グラデルシア』とも言います」


「「「グラデルシア!?」」」


 3人揃って非常に驚いていた。そんなに危険な迷宮なのだろうか。迷宮の名前からして最下層にドラゴンが主として居座っていそうだが、今回の依頼は行方不明の彼女たちの親の捜索である。彼女たちの親の討伐対象が迷宮の主でない限りは、関係無いだろう。


「グラデルシアって言ったら最下層に土属性を操るアースドラゴンが居て、そこまでの道中で来る敵もやたら強いと噂の迷宮だよね。攻略にはAランク以上の冒険団の実力が要るって言うあの……」


 俺の予想通り、最下層にはドラゴンが迷宮の主のようだ。


「そういえばさ、君たちの親のランクって何? そもそも何の魔物を討伐しに行ったのか教えてくれる?」


 リニルシアが彼女たちに問い掛けると、少年の方が答え始めた。彼によると、Aランクの彼女の父親『フーリャス』、昇格試験合格したばかりのSランクである彼の父親『シェーン』は、少年の妹に掛けられた呪いを解除するために必要なポーションの材料『呪の魔石』を得るために『カースジェヌラ』と呼ばれる獅子の魔物を討伐しに行ったらしい。


「カースジェヌラ…… 地竜の迷宮グラデルシア限定出現の魔物で、地下25階から最下層手前の地下34階までに出現する触れればが制限される呪いを振り撒くランクSの魔物だよね……」


「成る程。これは厳しい戦いになりそうだ。下手すれば死ぬかもしれん。だから、断っていただろう」


 それを聞いた彼女たちは一瞬落胆していたが……


「だがこちらには1人、心強い仲間が最近増えた。なので、この依頼を受けようと思う。ただし、危なくなったら撤退はするつもりだ。それでも良いなら受けよう」


 その言葉を聞いて、顔に笑顔が戻った彼女たち。ようやく受けてくれる冒険団が出てきてくれたので余程嬉しいのだろう。涙を流して互いに抱き合いながら喜んでいた。そんな雰囲気の中、とある冒険団らしき集団が口を挟んできた。


「おい、兄ちゃんら。本気なのか? あのエーシェ冒険団でさえ攻略に手こずった迷宮だぞ。道中の敵ですらそこらの下級や中級迷宮のボスと同等かそれ以上の強さで、アースドラゴンに至っては1頭で小国の軍を相手してもお釣りが来る位の強さって話だ。止めた方が良い」


「ああ、それほど危険であることは承知の上だ。それに、今回の目的はアースドラゴン討伐ではなく、行方不明者の捜索だから大丈夫だ。それに、こちらにはが用意してある。そう簡単にはやられはしない」


「なんだその切り札ってのは?」


「詳しくは言えん。ただ、夜にならないと使えない切り札とだけ言っておこう」


「夜専用の切り札…… まさか『始祖』の吸血鬼や悪魔、竜等の存在や、エーシェ冒険団にあてがあるのですか!?」


「まあな」


 恐らく…… いや、絶対ルスマスの言う切り札ってのは俺の事だろう。グラデルシアに着くタイミングを調整し、夜にする事で俺の全力を引き出して最悪アースドラゴンと対峙することになっても大丈夫なようにしたいと思われる。


 朝~夕方でも行けないことはないだろうが、迷宮の魔物の強さが分からない以上、全力が出せる夜に行った方が良いのは明白だ。


「ここから迷宮までどのくらい掛かる?」


「えっと…… 3時間程です」


「成る程。では、迷宮に着いた後急いで地下25階まで下り、そこからはルナの『完全探索パーフェクトサーチ』スキルを使いつつ、ゆっくり時間を掛けて階層の隅々まで捜索するぞ。その際邪魔になる魔物だけ討伐、その方針で行こう。リニルシア、ルナ、ユーラ行けるか?」


「「「勿論行けるよ!」」」


 こうして、少女と少年の親の捜索の為に地竜の迷宮に出発した。そこまでの道中でも多少の魔物が出現したが、スライムやオークと言ったそれなりの装備と強さがあれば問題ない魔物であったので、特に苦労する事もなかった。


 そして、少し時間が掛かり4時間後、地竜の迷宮グラデルシアの入り口に到着した時には日が沈み始めていた。



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