第8話 悪徳貴族エシュテール家

「さて、ルナの冒険者登録も終わったことだし、今日はこの町で一泊するぞ。ここの所ロクに寝れてないからな」


「「「はーい」」」


 どうやら俺と出会う前、ルスマスたちは魔物の討伐とやらが忙しくてロクに休めていなかったようだ。俺は元気なので早く冒険したい気持ちはあるが、自分勝手に決めるわけにはいかないので、その気持ちを抑えて時々提案するくらいにしておこうと心の中で決めた。


 そして、ルスマスの一声で宿を探そうと外に出る準備をしていたら、ギルドの入り口から血相を変えた男が息を切らしながら入ってきた。


「はぁ、はぁ。お前ら大変だ! あと1時間くらいで『エシュテール家』の面々がこの町に来るらしいぞ!!」


 その男がそう言うと、賑やかだった休憩所が一瞬にして静まり返った。


「何だと!? おい! それは本当なのか!?」


「ああ。衛兵が今町中に知らせて回ってる。もうすぐここにも来るだろう」


 そんな会話を彼らがしていたその時、数人の衛兵がギルド内に入ってきてこう言った。


「皆の者聞け! 今から1時間後、『リーア・エシュテール』様とその一家がこの町に視察に来られる為ここに居る皆でもてなすのだ! 無礼のないように!」


 それを伝えてきた衛兵たちは去っていった。


「やっぱりお前の言うことは本当だったんだな。ちくしょう、ついてねぇなあ!!」


「何で俺らがもてなさなきゃいけないんだよ。衛兵共がやっときゃいいだろうに」


「エシュテール家ですか。ロクな噂聞きませんね。長男のキーラは暴君、長女のシュティンは桁外れのわがままお嬢様、奥さんのラタルは盗癖が酷いらしいです。次男のヴァレンはそんな環境の中どういうわけかまともらしいですが……」


「特にリーア・エシュテールとか言う奴、受付のおっさんに聞いたんだが、ある程度若い女性なら結婚してようが関係なく誰でも狙う生粋の変態くず野郎らしいぞ。それでもって腕っぷしも強いらしい。奥さん居るのに何て奴だよ……」


「だが、運良くここにはあの野郎の狙いそうな娘は居な……」


 そう言いかけた男たちは、俺とユーラの方を見て叫ぶ。


「「「居たぁぁぁ!!」」」


 叫んだ人たちの内1人、酒を飲みまくって怒られていたドワーフの爺さんの奥さんが近寄ってきて話し掛けてきた。


「あんたたち、2人で冒険を?」


「いえ、隣のルスマスって人の冒険団に入って一緒に冒険してます」


「私もそうだよ!」


 そう言って俺とユーラは、ルスマスたちの方を指差す。


「成る程。ルスマスとやら。悪いことは言わない。早くこの娘らを連れてさっさと逃げな。あの糞一家が来ると面倒事に巻き込まれるよ!」


「勿論、貴女方の話を聞いてからそうするつもりでした。リニルシア、もちろん良いよな?」


「当たり前だよ。仲間が危険な目にあうかもしれない危険を犯してまで僕は居ようとも思わないし」


「だよな。婆さん、忠告ありがとう。俺たちはここから逃げるが、婆さんたちも無事でいてくれ」


「もちろんだよ!」


「よし。ああ、そうだ。ルナのスキルの項目にあった『完全探索パーフェクトサーチ』って奴使ってみてくれないか? 仮に外に領主関係の人物がいた場合、逃走は出来ないからな」


「はーい。任せて」


 それで俺は、逃走の障害となる敵が居ないかチェックする為、スキル『完全探索』を最大距離で使用した。すると、いくつかの情報が大まかに入ってきた。



『探索結果』 逃走の障害となる隠蔽スキル使用中の衛兵65名を発見。ギルドを中心として規則的に監視している模様。その中でも魔力が大きく危険な人物が1名存在。詳しい情報を開示しますか?


(はい)


 そう心の中で返事を返すと、その危険な人物とやらの大まかな能力が頭に入ってきた。


『魔導師メル』 種族 ハーフエルフ


 攻撃力 C 防御力 C 魔法攻撃力 S 魔法防御力 A 素早さ B


『通常スキル』 探索妨害 隠蔽 風魔法 氷魔法 光魔法


『固有スキル』風神の加護


(何だか風神の加護って厄介そうなスキルがあるぞ)


 流石に危険な人物が持つスキルの詳細までは分からなかったが、バレずに逃走するのはほぼ不可能と言うことが分かっただけでも大収穫だ。


「ルナ、どうだった?」


「えっとね、誰にもバレずに逃走するのは無理だと思う。だって65人もの衛兵が隠蔽スキル使用してるし、その中にメルっていう強いハーフエルフの魔導師が居るからね」


「マジかよ…… そのメルって奴の強さとか皆に見えるように表示出来るか?」


「うん。出来るよ」


 そうして俺は手のひらに魔方陣を展開、そこからプロジェクターのように光を壁に放射して、スキルで得た情報を表示した。


「65人隠蔽スキル使用中…… これ詰んだな。確かにバレずに逃走するのは無理だ」


「どうにかならないのルスマス?」


「済まんリニルシア、正直思い付かん。俺たちはこの辺の地理に詳しくないからエシュテール一家の権力が及ばない町が何処にあるか分からんからな」


 いい案が浮かばずに困っていると、俺が冒険者登録をした時に対応してくれたギルド職員がこっちに来て、筒状に巻かれた紙をルスマスに渡していた。渡されたルスマスはそれを開いて見た。すると、何かとんでもない事でも書かれていたのか、食い入るようにそれを見ていた。


「こ、これは!? 何と言う精巧な地図なんだ! こんな良い物を一体どこで…… それに、今こちらが欲しい情報が全部揃ってる……」


「それはですね、私の知り合いに地図を書いたり何かを調べたりするのが大好きな冒険家が居まして、その人がで書いたやつらしいです。それにしては出来が良かったので、思わず役に立つかもって思って貰えないか頼んだら、『こんなんで良きゃやるよ』とか言って貰った地図です」


「え!? これが暇潰しで適当に作った地図なんですか!? ギルドで貰う地図よりも品質が高いですよこれ。しかも、地図に載ってる町や村の最新情報付きとは…… 下手なガイドブックよりも役に立つでしょうね」


 どうやらその筒状の紙は、巨大なこの周辺の地図らしい。気になって見せて貰うと、あらゆる現時点での最新情報がこれでもかと詰め込まれていた。エシュテール家についても事細かに記されている。一体どうやってこんなにも細かく調べれるのだろうか? それ専門のスキルが存在するのだろうか?


「よし! 仕方ないが、強行突破して王国三大貴族のバルトレイ家が治める『ガレット地方』の町の一つ『ルトレーバ』まで逃げるぞ。ユーラとルナが、変態野郎の餌食にされるわけにはいかないからな」


 こうして、エシュテール家の面々から逃げるために、衛兵たちを蹴散らしてルトレーバの町まで逃げることに決定した。


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