第6話 手合わせ

「ルナ、すまん。俺が適当な事を言ったばっかりにこんな事になって……」


「ううん。私は気にしてないから、全然大丈夫だよ」


いきなり沢山の人が居る前であんなことを大声で言われればそう慌ててしまうのも分かる。下手すればその場で社会的に抹消されていた可能性が高いからだ。


「ねえ、ルスマス。これから手合わせするゼナって人について教えてくれる?」


「勿論だ。じゃあ今から俺が知っている限りの情報を伝えるぞ」


説明によるとゼナと言う男は、冒険者界隈かいわいで有名なAランク以上の冒険者が集まる『エーシェ冒険団』に所属するAランクの冒険者らしい。魔法と剣術を組み合わせた戦いが得意で、過去にはワイバーンと呼ばれる、下位ではあるが竜を3頭同時に相手して、瀕死になりながらもこれを討伐することに成功した事があるとのことだ。


「ワイバーン3頭同時に相手して討伐って、相当強い人だよね」


「ああ、ゼナはエーシェ冒険団の中でもそこそこ強い方なんだよ。まあ、そこの団長は1人で上位の竜であるドラゴンとまともに戦えるレベルで、ゼナよりもはるかに強いんだが」


それを聞いて、全力を発揮できない昼間に手合わせして大丈夫なのか、少し不安になるも、ここまで来てはしょうがないと割り切ってゼナの待つ屋外闘技場に行く。到着するとどういうわけか、周りには沢山の観客が居た。


「お待たせしました。ゼナさん、よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします。シャルナ嬢」


お互いに挨拶をして、手合わせを始める。


「では、こちらから行きます! 『アビリティーライズ』」


そうゼナが言うと、彼の魔力が増大するのを感じた。


「そして、『ディフュージョンファイア』」


放たれた大きい火球が大量の小さな火球となって俺に全方位から襲いかかって来る。その数は軽く100を超えているだろう。


「凄い数だけど、避けたり捌けないほどじゃない!」


前後左右から襲いかかる火球を避け、避け損ねた奴は魔法障壁で弾く。かなりの速度が出ていたはずだが、自分でも驚くほど華麗かれいに火球を避ける事が出来た。恐らく吸血鬼の身体能力・動体視力のたま物だろう。


「ダメージなしとは、ルスマスの言った通りやるじゃないか。次はもっと行くぞ!『火炎嵐ファイアストーム』!」


高温の熱風と火球の雨を降らせる魔法を放って来た。さっきの魔法よりも強力な火球が吹き付ける熱風と共に飛来してくる。夜のように全力を出せない為、熱風にあらがうのも大変なのにそれに加えて火球の雨も降ってくる。その為、数発は捌ききれずに被弾してしまう。


「あつっ! あーあ……」


ダメージ自体は問題なかったが、被弾した箇所の服が焼けて穴が開いてしまったが、幸い重要な部分は被弾しなかった。もし被弾していたら、いつの間にか増えていた観客の前で恥をかいてしまうところだった。


「あれ? ゼナはどこに……」


「吹きすさべ『風刃』」


荒れ狂う火炎の嵐を隠れみのにして、背後から風を纏わせた剣で一直線に斬りかかってくる。反応が遅れた為、咄嗟の防御は出来たものの、まともに喰らって吹き飛ぶ。


「くぅぅ~。止まれぇーー!」


地面に両手両足をめり込ませ、数十m吹き飛ばされたところで停止した。後もう少しで闘技場を飛び出してギルドに突っ込むところだった。


「危なかったぁ……」


ゼナの攻撃を防御した腕にはそこそこ大きな傷が出来たものの、戦闘に支障は無さそうだ。


「おぉぉ…… まさか純粋な防御力だけで防ぐとは、凄いなシャルナ嬢」


「ありがとうございます。今度はこちらから行きますね。魔法剣生成『アイシクルソード』」


魔力により氷の剣を2つ生成、両手にそれぞれ1つずつ持って身体能力任せで向かっていく。


「なんだこの娘、速い! だが、剣の腕は素人のようだ。これなら……」


ゼナも自身の持つ剣に風を纏わせて、俺のアイシクルソードと打ち合う。


「ほいっ! それっ!」


「うおっ! そら!」


俺には剣を戦闘で扱える程の腕は無いが、吸血鬼の高い身体能力と動体視力のお陰で何とか互角まで持ち込めていた。


「想像以上のパワーとスピードだ…… これでは相手が素人だろうと勝てないし、彼女の氷剣の力が強すぎて俺の剣がボロボロだ。こうなったら、次で決める!」


そう言うとゼナは、俺と距離を取って魔法を唱え始める。


「全てを焼き尽くす炎よ。邪を打ち払う神光よ。我が元に集い、敵を滅せ!『ゴッドホーリーフレア』」


彼の元に集まった灼熱の炎と、まばゆい光が融合して巨大な白い炎となって俺の元に向かってきた。


「この威力の魔法は流石にまともに喰らえば不味い! 『魔法障壁』」


今のパワーダウンしていると状況でまともに喰らえば消滅必至レベルの威力だと判断した光と火の複合属性魔法を、魔法障壁で防御する。


「くっ! おぉぉぉぉ!」


とんでもない威力だ。障壁を張っていても熱が伝わってくる。それに光属性の魔力が障壁を一部すり抜けて入ってきて、俺の肌を焼く。その痛みに耐えていると、障壁にヒビが入ってきた。そして、とうとう耐えきれずに割れてしまったのできたる衝撃に備えて目を瞑り、防御態勢を取る。


そして、白い炎が俺に到達した瞬間、猛烈な痛みと共に体力が削られていく。15秒後、ゼナの魔法が終わるまでなんとか耐える事が出来た。障壁が威力を削ってくれたお陰だろう。


「ふぅー。はぁ。はぁ……」


ゼナの方を見ると、彼の方も魔力を使い果たしたらしく、完全に息があがっていた。」


「……ゼナさん。決着つけましょう」


「……」


「どうしました?」


「……」


よく見ると彼の視線が俺の身体に釘付けになっているように見えた。それだけじゃなく、観客たちの殆んどの視線も俺に集中していた。なんだか嫌な予感がしたが、見ないわけにはいかないので自分の身体を見てみた。すると案の定、着ていた服が全て燃えて素っ裸となっていた。


「……」


あまりの恥ずかしさに声すら上がらず、その場で固まっていると……


「ルナ!? 大丈夫…… じゃないよね。ひとまず更衣室に連れていくね!」


この惨状を見ていたユーラが、まるで人とは思えない速さで駆け寄ってきて俺をかかえてギルド内にあるという更衣室に向かって走り出す。途中で俺に向かってくる危ない考えを持つであろう人たちがほんの少し出てきたが、ユーラが『ルナにいやらしい事しようとした奴はぶっ殺す!!』と魔力全開かつ何処から取り出したか分からない物騒な武器を持ちながら全力で叫んで威嚇した為、無事に更衣室までたどり着く事が出来た。


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