第5話 自然豊かな町 ティアネイド
森の古塔内でルスマス冒険団の人達と出会った俺は、成り行きで一緒に冒険の旅に出ることになった。
「これから一緒に冒険するんだ。自己紹介をしとかないとな。俺はルスマス。冒険団の団長で、魔法剣士をやってんだ。よろしくな」
「僕はリニルシア。魔導師をやってるんだ。よろしくね」
「最後は私だね。名前はユーラ、弓使いやってるの。よろしくね!」
「ルスマスに、リニルシア、ユーラね…… 分かった! あ、私はシャルナって言うんだ。呼び方は好きにしていいよ!」
10歳前後相応の少女風の喋り方をするのは疲れるが、この見た目で男のような喋り方してたら違和感が半端ない事が予想されるので、仕方ない。その内慣れるだろう。そんな事を思っていると、リニルシアが話しかけてきた。
「日光浴びても平気な吸血鬼というかなり珍しい存在をこの目で見ることになるなんて、いまだに信じられないよ…… 」
「そんなに珍しいものなの?」
「うん。全く居ない訳じゃないけど、かなり珍しいよ。その中でも始祖の吸血鬼と言う存在に至っては、その希少さ・強力な魔力を持つ事から、僕たちの今居る『エールテス王国』を含むいくつかの国々は、見つけ次第戦力に組み込んで他国に対して優位に立とうと躍起になってる」
成る程。そう言うことなら少なくともこの王国では、昨日のような変に目立つ行動や、無駄に力を振るうことはしない方が良さそうだ。ただ、もう既にフォレスタスの町から派遣されてきたと言う昨日の2人とやり合ってしまったので、遅かれ早かれ俺の情報がエールテス王国の王に伝わるだろうが。
それにここは異世界だ。他にも俺の知らない常識があっても不思議ではない。これから楽しくなりそうな冒険に水を差さないようにこの世界の常識を少しは学んでおこうと、リニルシアに聞く。
(実はこことは別の世界から転生して来ましたとか、説明しても面倒なだけだから適当に話を作っておこう)
「そうなんだね。実は私、あそこにずっと
「うん。分かった。じゃあまずは……」
色々と教えてもらいながらフォレスタスの町方面とは反対方向に森の中を進むこと1時間半後、王国でも指折りの自然豊かな町だと言う『ティアネイド』に到着した。
「ようこそ! 自然豊かな町ティアネイドへ! ゆっくりしていって下さいね!」
町の入り口付近で掃除をしていた少女に元気な声で歓迎されながら、町の中を歩く。
「ねえユーラ。今どこに向かってるの?」
「ギルド支部だよ。シャルナの冒険者登録をしに行くためにね。一緒に冒険するから、その方が都合が良いでしょ?」
ユーラによると、国境を跨いだり特定の町や村に入る際に結構高い通行料を払わないと通れない。それに、討伐した魔物の素材を売却するのも冒険者または商人ギルドに所属していないと許可がほとんど降りないらしい。それらの理由から冒険者登録をした方がそう言う面で有利になるとのことだ。
「それに、身分証明にもなるからね。怪しまれて連れていかれそうになっても、登録して発行されるギルドカードを見せれば大抵は何とかなるし」
成る程。確かに連れていかれてしまって俺の正体がバレれば最悪、訳のわからん国の侵略戦争の為に、これまた訳のわからん国の兵士を殺すための道具として使われる事になってしまうだろう。そんなの冗談ではない。ルスマス冒険団や自分の身を守る以外に人を殺める真似はしないと決めたのだ。
そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にかギルド支部前に到着していた。
「……ここがギルド」
「そうだ。向こうに冒険者登録受付があるから行くぞ」
多種多様な人々が入り交じるこの場所に圧倒されつつも、ルスマスたちに案内されながら受付に向かう途中、1人の男が声を掛けてくる。
「おーい、ルスマス。久しぶりだな! こっちで一杯飲まないか?」
「ああゼナか。久しぶりで悪いんだが、今は用があるからまた今度な」
お酒を飲もうと声を掛けてきた知り合いであろうゼナという男の誘いをルスマスが断って行こうとすると、その男がとんでもないことを沢山の人が居るこの場所で言い始めた。
「良いじゃんか…… ん? その娘は誰なんだルスマス。さてはお前、遂に子供にまで手を出して……」
周囲の視線が一気にルスマスに集中する。
「ちげぇよ! 新しい仲間として迎え入れただけだからな。断じてゼナの想像してることじゃないぞ!」
「新しい仲間ね…… 本当にそうなのか? 実は俺の言った通りだったとか? て言うかそもそもその娘戦えるのか? 」
まだ疑っているのか、それともからかっているのかは分からないが、ルスマスに質問攻めをするゼナ。
「ああ、勿論だとも! 俺が1回手合わせをしたんだが、魔法も剣もそこらの並みの冒険者共よりは強い。だから、お前じゃ勝てんよ」
(ちょっと待て。俺はまだルスマスと手合わせなんてしたことないし、そもそも剣なんて前世でも現世でも扱ったことはないのだが……)
周囲の誤解を解こうとするあまり、適当な嘘を付きまくったルスマス。それによってこれから起こるであろう面倒な事を想像していると、ゼナが俺の方を向いて話しかけてくる。
「なあ、嬢ちゃん。名前は何て言うんだ?」
「……シャルナ」
「そうか。早速で申し訳ないが、シャルナ嬢。俺と手合わせしてくれ。魔法でも剣でも使って良いから頼む!」
今までの話の流れからそう来ると思っていたら、本当にそう来てしまった。正直フォレスタスの町からあまり遠くないこのティアネイドの町で目立ちたくはないが、もっと騒がれて一緒に冒険するルスマスやユーラ、リニルシアにこれ以上迷惑をかけられない。それに、ちょうど日が出ている時間帯にどれだけの力を発揮出来るか試せるチャンスでもある為、手合わせを承諾した。
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