第2話 森の古塔で目覚めし者

「ふぁぁ……」


 魔方陣に立ってからどれだけの時間が経ったのだろうか。


 目覚めた場所は、お城のお姫様が居るような豪華な装飾が施された部屋のベッドだった。まずは自分の姿を確認する為に、部屋に備え付けてある鏡の前に立った。


「マジかよ……」


 そこには、薄い金色に輝く髪、蒼い瞳、背中には綺麗な黒い羽を生やしている見た目10才前後の少女が存在していた。見た目相応に声も変わっている。


「想像してた吸血鬼と全然違うけど、まあ良いか」


その後、自身の背中にある羽をじっくり見ていて思ったのは……


「これ自力で空飛べるじゃん!」


 である。早速試そうとしたが、当然室内では満足に飛行することなど出来るわけがないので、窓から外に飛び出す。


「うぉっ…… 危ない危ない」


 初めての飛行、バランスを崩しそうになるも何とか立て直した。


「おぉぉ……本当に空を自分の力で飛んでいる!」


 憧れの吸血鬼となって異世界の空を自分の力だけで飛んでいるその事実に、俺は凄く感動した。


(まずはこの塔のある森の周辺で飛行と魔法の練習だな)


 そう思ったので、飛行練習を始める。そして3時間後……


「よし! 飛行は問題ないね。次は空中で魔法の練習だ」


 塔よりも遥か上空に行き、森を壊さないように魔法練習を始める。


「氷の球出でよ」


 そう唱えると、20cm程の氷の玉が生成され、前方に発射される。


「よし。魔力の流れは問題なし。次は……」


 女神から貰った『魔法創造マジッククリエイト』スキルを使用して、2つの魔法を創造した。1つは『アイシクルソード』。もう1つは『永遠のエターナル氷世界・アイス・ワールド』だ。女神の好意で俺にくれたスキルを使わないで放置するのは失礼な気がするのでしっかり使う。ただ、使った瞬間魔力がガクッと減り、力が少し抜けた。


(これは、使いどころを間違えると大変だな)


そんなこんなで作った魔法込みで練習をすること3時間半、ある程度の制御は出来るようになった。


「アハハ! 最高だよこれ!」


 この自分の置かれた状況が楽しくなりすぎて、大声で笑いながら空を飛んで魔法を練習……と言う名の乱射をしていた。そして、しばらくして気付いたら町の上空に居た。


「おっと危ない。あんまり目立つと大変だから帰ろう」


 そう思ったものの、落ち着いて考えてみれば大声で笑いながら町の上空で魔法乱射していた時点で物凄く目立っている。だが、今更気にしても仕方がないので帰ろうとしたその時、下から雷撃が複数飛んできた。大半は回避したものの、一部回避不可能な距離まで迫ってきていたので、魔法障壁で弾く。


「魔法障壁役に立って良かった~。いや、そんなこと言ってないで早く帰ろう」


 そして15分後、今現在の拠点である森の古塔に帰還する。4時間半の魔法と飛行の練習をして多少の疲れはあるが、吸血鬼だからだろうか。夜になっても眠気は全く無いので、部屋の窓から景色を眺めながらぐうたら過ごす。


(ただ、作ったは良いものの、永遠なる氷世界の使いどころが思い付かない。加減を少しでも間違えるとその辺全部凍るからな。今回は上手く行ったから良かったものの……)


 こうして、転生初日は6時間半ぶっ通しの魔法と飛行練習で幕を閉じた。



 ~森の古塔 近辺の森~


 1時間程前、森の古塔近くの町『フォレスタス』の警備をしていた俺達は、『誰かが上空で大声で笑いながら魔法を乱射している』との通報を受けて駆けつける。その場には隊長含め多数の魔導警備兵が雷撃を放っていたが、大半は回避され、一部命中するも障壁により弾かれていた。時間が経つと、対象が森の古塔方面に飛び去っていったので、隊長の指示により追跡をしていた。


「はぁ…… 何で俺らがやらねぇといけねぇんだよ。他の奴…… て言うか隊長がやりゃあ良かっただろ。町の上空に飛んでた奴、魔力の感じからして強力な吸血鬼だろ絶対。隊長が行けば直ぐ終わるのに何で俺に行かせるんだ…… ああ! もう面倒くせぇ」


「まあまあ、あの吸血鬼殺しヴァンパイアキラーの隊長様がバルツ君の実力を誉めて認めてくださってるんだから、頑張りましょう。ね?」


「簡単に言ってくれるけどな、シルバード。吸血鬼はその再生能力と怪力、魔力の高さが厄介で、オマケに夜になると全ての力があがるんだぜ? 警備兵の雷撃だってほとんど当たらなかっただろ? 当たったやつだって障壁にあっさり弾かれていたし、いくらあの隊長から直々じきじきに技術を仕込まれてるからって簡単には行かねぇよ」


「はいはい。分かってますよー」


 そんな会話をしつつ更に30分程歩くと、半径20m位の円形に切り開かれた場所に建っている森の古塔の前に着いた。


「結構デカいな。奴はここに居るよな? 魔力は感じるが……」


「私も魔力を感じるので恐らくこの塔の内部に居るものかと。ただ、中に何があるかは分かりません。トラップが仕掛けられているかもしれないので、外に吸血鬼の方に出てきてもらいましょう」


「どうするんだ?」


「こうします」


 そうしてシルバードが唱え始めたのは『音波増幅』の魔法だった。一体そんな魔法でどうするのかと思った次の瞬間……


「さっさとでてこいやぁーーーーーー!!」


 耳がおかしくなりそうな大声で叫び始めたシルバード。


「っおい! シルバード! その声やめろ!」


 俺が注意するも彼女は更に叫び続ける。


「こちとらお前のせいで来たくもない夜の森に来る羽目になってんだ! 大人しく私たちに捕まるか殺されろぉーー!!」


「だからその声やめろ! 俺の耳がおかしくなるだろうが! それに奴がぶちギレて手当たり次第破壊行動し出したらどうすんだ!」


 耳を押さえつつ、聞くに耐えない暴言を吐きまくるシルバードをたしなめていると、塔の1番上の窓が開き、そこから吸血鬼が飛行して降りてきた。その降りてきた奴の姿を見て俺は驚いた。月明かりに照らされて輝く金色の髪、宝石のような蒼い瞳、背中の美しい黒い羽、そして何より見た目がまるで10才前後の少女だったからだ。

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