第三部 プロローグ
「まもなく、体育祭です。皆さん、優勝できるようにがんばってくださいね」
莉愛の担当の先生が淡々と体育祭について説明をする。
それをぼんやりと聞き流す莉愛。
(高校の体育祭って両親が見に来たりとかできないんですよね……。せっかく健斗さんに良いところを見てもらおうと思ったのに……)
自分が活躍できない想像は全くせずに、ぼんやり頬杖をついていると、担当が予想外のことを告げてくる。
「えっと、その……、今年から……というより、君たちが卒業するまでは、だな。その、色々とあって、親族の方もお呼びすることになった。だから、神楽坂、しっかりとそのことを伝えておいてくれ。頼んだからな」
なぜか怯えている様子を見せる担当。
それをみて莉愛は、「またお父様が何かしたんでしょうね」と呆れ顔をしていた。
ただ、それとは別に健人にも見に来てもらえるという喜びも大きかった。
(やたっ、これは健人さんに良いところを見てもらえるように頑張らないといけませんね)
俄然やる気が出てきた莉愛だったが、そんなときに彼女に突っかかってくる人物がいた。
「あらっ、神楽坂さん、ずいぶんと楽しそうですね。おおかた、無理やり自分の親に来てもらえるようにして、偉ぶりたいのでしょうね」
「えっと、……あなたは?」
「
金髪の長い髪をツインテールにした、つり目気味の少女。
莉愛は彼女を見ながら記憶の糸を遡っていた。
(そういえばいつもちょっかいをかけてきた子がそんな名前だったような……)
そこまで気にしなかったので、正直あまり覚えていなかった。
莉愛が首を傾げていると西園寺は顔を真っ赤にして、更に言ってくる。
「くぅぅぅ……、親が大富豪だからっていい気になってません?」
「えっと、お父様はお父様ですよ? 私とは関係ないです」
「その余裕がむかつくんです。良いですわ、体育祭ではコテンパンに倒して差し上げますから覚悟して下さい!」
西園寺は指を突きつけて走り去っていった。
「変な人に絡まれちゃったね……」
「あっ、伊緒。伊緒は知ってる子?」
「うん、西園寺さんは神楽坂グループのライバル会社、西園寺グループの子なんだよ。それでずっと莉愛ちゃんをライバル視してたけど、莉愛ちゃんが全く興味を持っていなかったみたいだからそれで、あんな態度を取ってるみたいだね」
「そうなんだ……」
「それより、今年から体育祭、保護者も来るんだね。莉愛ちゃんだと有場さんが来るの?」
「う、うん……、帰ったらお願いしてみようかなって――」
「きっと来てくれるよ、有場さん。莉愛ちゃんのこと、大好きだもんね」
「え、えへへっ、そ、そうかな……」
「うんうん、大丈夫、私が保証するよ」
「ありがとう、伊緒。それじゃあ帰ったら早速頼んでみるよ」
「あっ、あと莉愛ちゃんのお父さんにもちゃんと言わないとダメだよ?」
「……うん、わかったよ」
今回保護者が見学できるようになったのは、莉愛の父である神楽坂勇吾の力によるものが大きい。
つまり既に今回のことを勇吾は知っているのだ。
(わざわざ言う必要はないと思うけど……)
ただ、伊緒がわざわざ言ってくるのだからなにか理由があるのだろう。
だからこそ、莉愛はそのまま頷いていた。
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