閑話 初給料の話(前半)
六月になり、初給料が振り込まれていた。
ただ、金額は今までの仕事から考えるととんでもない額だった。
手取りで十倍くらいの差がある。
今も生活に使う金がほとんどないのにな。これも溜まったままになるのか……。
せっかくなのでいつも世話になっている莉愛に何かプレゼントでも……と思って彼女に聞いてみた。
「何か欲しいもの……ですか?」
「あぁ、莉愛はどんなものが欲しいんだろうって思ってな」
「えっと……その……、私は有場さんと一緒にいられたらそれで……」
莉愛は恥ずかしそうに顔を染めながら言ってくる。
さすがにこれだといつもとしてることが何も変わらない。
別の案を出して欲しいところだな。
「できたら物で頼む」
「そうですね……、有場さんにもらえるものならなんでも嬉しいですよ」
にっこり微笑んでくれる莉愛。
たしかに彼女ならそう言ってくるであろうことは十分に想像できた。
ただ、その回答が一番困るんだよな……。
基本的に金で買えるものは莉愛ならいくらでも買えるはずだ。
他にも生活に困ってる様子はなく、必要なものはなんでも揃っている。
それなら手作りする……と言うことも考えるが、流石に初挑戦で不恰好なものを送りたくない。
莉愛だともちろん喜んでくれるだろうし、それを使ってくれるだろう。
ただ、それをみた周りの人がどう思うかを考えるとイマイチ乗り気になれなかった。
あと必要になるものは……。
何も思いつかない。
このまま自分で考えていても思いつかなそうだ。
諦めに似た笑みを浮かべた俺は助けを求めることにした。
◇
「それで私に助けを求めてきたんだね……」
以前来たことのある入間屋に俺の向かいに座る伊緒。
その前には巨大パフェが置かれていた。
それを美味しそうに頬張る彼女に莉愛がどんなプレゼントだと喜んでくれるのかを相談してみる。
「うーん、やっぱり莉愛ちゃんならなんでも喜んでくれると思うんだよねー」
「そうなんだ。だからこそ迷ってな……」
「うんうん、わかるよ。私も莉愛ちゃんの誕生日の時にはいつも迷ってたもん。基本的に買えるものは何でも持ってるからねー。仕方ないからここ最近はサプライズ性の高い、世界に一つしかないものを作らせて渡してたんだよ。でも、お兄ちゃんだとそこまではできないよね……」
オーダーメイドか……。
流石にそこまでできるほどの金はなさそうだな。
莉愛が使うもののオーダーメイドだと、優に数百万かかってきてもおかしくないからな。
「やっぱり八方塞がりか……」
「そんなことないよ。お兄ちゃんならお兄ちゃんにしかできないことをプレゼントしてあげたらいいんじゃないかな?」
「俺にしか……?」
「うん、それがいいね。参考になった?」
どうやら伊緒には何かぴったりのプレゼントが思いついたようだった。
ただ、それ以上のことは教えてもらえなかった。
「流石にここから先はお兄ちゃんが考えた方が莉愛ちゃんも喜ぶからね」
と言う言葉を残して、伊緒は帰ってしまった。
◇
「俺にしか出来ないこと……、俺にしか出来ないこと……」
帰宅の途中も考え事をしながら帰っていく。
すると、館に戻ってきた途端に莉愛が不思議そうに聞いてくる。
「有場さん、どうかしましたか? 何か考え事をしてるようですけど」
「俺にしか出来ないこと……。あっ、いや、何でもないよ。ただ、莉愛は俺にしてもらったら嬉しいことって何かあるか?」
「有場さんからしてもらう……」
少し考える莉愛。
ただ、すぐにまるで沸騰したかのように顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに頬に手を当てていた。
「そ、その……、うん、いつかは有場さんからしてもらえたら……、と思うことはありますけど……」
流石にその内容までは教えてもらえなかった。
一体想像の中で莉愛はどんなことを考えたんだ……?
一抹の不安を覚えてしまう。
そして、結局俺は振り出しに戻ってしまったようだった。
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