第67話 大激怒! 日本最強魔法使い
お姉様は薄く笑みを浮かべたまま。身をかがめて、落ちていたタクトを一本。拾い上げる。
「わたくし。こう見えて自分で決めたルールに沿って、それなりに自身を律して生きていますのよ? ……故に。ルールも無しに気の向くまま、好き勝手に生きておられる方は、基本的にはあまり好きません」
持っていたタクトは、何の前触れもなく、キュウリの様に薄く輪切りになって地面へとぽろぽろ落ち、残った持ち手の部分は手を開いて地面に落として見せる。
ここまでまるで魔法の気配など感じなかった。
あぁ。これは本気で怒っている。……怖い。
「まさか、その程度で済む。などと思ってはいらっしゃないでしょうねぇ? 魔法を使って悪さをした以上、報復もまた魔法。――当然ですわね」
地面で這いつくばっていた男が、いきなりヒモでぶら下げられたかの様に立ち上がる。
他に方法はいくらでもあるのに、彼の周りには、今。風速30mを超えるごく細い竜巻が何本も渦を巻いている。
「わかりまして? 見ての通り、わたくしは風使いです」
……その台詞を一番効果的に言いたい、と言う理由のためだけに竜巻は渦を巻く。
「き、キミ達は政府の組織だと……! こんな、拷問みたいな……」
「排除をすると宣言した以上、既に被疑者の生死は問われないのです。実力を持って排除する。とはそういうことです、だから軽々に口に出してはいけないことになっています」
――そしてあなたはその宣言を受けたうえで、あえて戦闘に入った。そう言うと、真面目な顔になる
「あなたのご家族やご親戚にあっても、既に命の保証はできかねる状況だと言うことです。ましてやあなた個人の命なぞ、どうして気にする必要がありましょう」
お姉様のスカートが翻る。
「つまりあなたの人権なぞ、わたくしは微塵も考える必要性がないのです。……炎のタクトも結界の魔方陣も。まだお持ちでしょう? 今回に限り、わたくしは風以外使いません。さあ、反撃して見せてくださいな。…………薄刃カミソリ乱舞陣!」
お姉様、技の名前が……。
「あぎゃあぁああああ!!!」
男が叫び、上半身の服がミリ単位の繊維になって無くなる。
胸から落ちた未使用のタクトは縦にようじの様な細さに裂け、力が暴走して次々破裂する。
……そう言えば。お姉様の封印は、さっき飛ばしてしまったのだった。
細かい制御も、大火力も。ほぼやりたい放題である。
「結果的にわたくしが裸にしてしまいましたわね。……あぁ、なにも楽しくないですわ」
全く感情のこもっていない声でそう言って、お姉様は柔らかい笑みを浮かべる。
別に血だるまになったりはしていないが、キモオタテイカーは上半身を抱えてブルブルと震える。
これは見えていないだけで、精神的にはもちろん。かなり肉体的なダメージが入っている。
怒ったお姉様は本当に恐ろしい。……あの笑みだけで卒倒ものだ。
「安心なさい、特に聞きたいことも無いことです。拷問はしません」
「あ、ああ、ああ、あ…………」
――ただ人格が崩壊するまでいたぶって殺すだけです。言葉が終わった瞬間にさらに風が彼の身体を這い回り、前回に倍する悲鳴が上がる。
「全身の表面をうすーく切り刻みました。血も出ない程度にね。……痛いですか? 顔を狙わなかったことに感謝していただきたいですわね」
見てる方が痛いのですがそれは……。
「もう動けないのですか? 全く……。拷問する気もありませんが、あっさり死ねるなどと誤解しないでくださいね? 非道い目、と言うのがどう言うことか、その魂に直接。とくと教えて差し上げます。――殺してくれとあなたが心の底から懇願するまで。死が救いなのだと理解ができるまでじっくりと、ね」
お姉様はそう言うと、足下に落ちていた百科事典に目をやりながら電話を取り出す。
「戦場さん、理解はしますがゲスト扱いです。触らないで下さいね。――アイリスさん? アヤメです。うつくしが丘高校内にて事項イ-3発生、至急処理班を編成、急行を乞う、――はい、なお現状は……」
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