第8話 無限コンビニ(上)
……会長やアイリスは多分この事態を予想した。だから魔法使いが体系化されて二百年の歴史でも例を見ない、
“
の力を持つ桜を同行させたのだ。それならそうと最初に言って欲しい。
仁史君が来ないと言うなら最強の盾、"
だから、――ほら、あそこ!。
と言われてもただの町並み以外。当初は全く見えなかった。
但し結界術の基本は隠したいものから“目をそらさせること”。……だから。
「ほら、目の前。でっかい駐車場のあるコンビニの跡地があるでしょ?」
と、言われた瞬間に"大型三台可"と書かれた看板以外、店名や名前の外されたコンビニ跡地と、その駐車場の真ん中、ポケットに手を突っ込んで。
こちらを含み笑いで見つめる、うつくしヶ丘の制服の男子が見えるようになった。
「また
大葉さんに状況を伝えると、彼はそう言ってため息。
桜的なものの見方、これを習得していない大葉さんには彼の姿は未だ見えていない。
「そんな事より大葉さん、わかりますか?」
「あぁ、見えんがわかる。空間膨張? 認識拡散……。まぁなんでも良いが、あの結界。踏み込んだら最後、やたらに広くて迷子になるぞ! クロッカス、
「パワーでは無くテクニカルな問題、ですか。……大葉さんでもダメ、とは」
グレードはともかく、テクニックは日本でも指折りの大葉さん。彼が見た瞬間にブレイクを断念するような結界。
「私が正面から当たります。……大葉さんは、桜と組んで結界内部から」
「いや、確かにアヤメちゃんからも神代ちゃんの面倒を見ろとは言われたが。……神代ちゃんと俺が組む? ……なにを考えた、クロッカス」
この結界。桜では無いが、明らかにおかしい。
気が付いたのなら対処は出来るはず。
「どうせ相手は
「華ちゃん、それってどんな感じ?」
「ん……。多分大きめの段ボール箱? 今のところそんなイメージだけど……。但し結界の中は校庭よりも広い上に自分以外の、というよりは他人の存在感自体が希薄になる、それは桜だって免れない。大葉さんとは絶対はぐれないように注意して」
男性とそういう事をしろ。と言うのは
「……大葉さんと、手を。その、つないで。――絶対に放さないでね。はぐれて迷子になってしまったら。最悪の場合、こっちにかえって来られなくなってしまうから」
「うん、わかった」
「認知がそこまで希薄にって、……
「単なる
「
「大葉さんが見えていないから、桜は場所を教えながら店舗の隅から回って」
――タイミングは任せる。そう言うと大葉さんは桜の手を取り彼の正面の位置を離れる。
私は正面から堂々と、B+の力を見せつけながら術者である彼の力に沿って進めば良い。それなら絶対に迷わない。
もっとお行儀はよく出来るのだけれど、あえて自分の正面のフィールドにぶつかり、揺さぶり、土をグラブにしたパンチで叩き割った。
どうせこの辺に関して言えば、すぐに自動で修復はなされるだろうし、この隙に大葉さん達は静かに中へと入れたはずだ。
まさに広大としか言いようのない駐車場。
目の前にあったはずの壁が一切見えずに地平線が見えている。
――すぅ。息を吸い込む。
背後で叩き割った結界が修復する気配、やはり自己修復回路が組んである。
旨くこちらを見つけてくれただろうか?
「こちらは政府の魔法案件対処部門である、特殊産業振興会執行部です! 異常かつ違法な魔力の発動を確認しました。直ちにアイテムは放棄、呪術、術式は解除し、自己封印を施した上で投降するよう勧告します! 勧告に従わない場合、即時強制執行を開始し、実力を持って魔法術式は解体解呪、この場合、術者も強制力をもって逮捕拘束します!」
当然。目と鼻の先、一〇m前後の処に
予定通りに返事は無い。
そして、返事が成されない場合はもう一度繰り返すのが規則。……まったく。
「もう一度だけ繰り返します、こちらが実力行使を行う前に直ちに投降しなさい! ――芸の無い意識放散結界なのだから、広く見えるだけで実際には目の前に居るはず。聞こえているでしょう? 返事をしなさい!」
「……僕の結界がなんなのか、わかっているようだね? キミも結界を使うのか?」
嫌ったらしい男の声は結構近所から消える。……既に補足されたか? こっちはまだ正確な位置がつかめていない。
「私が何者なのかはどうでも良い、返事を聞きましょう」
「一年のサフランさんだったよね? この中なら誰も来ない。王である僕はキミを
ぞわわ……。全身に鳥肌が立つ。
なんで最近、こんな頭のおかしいヤツばかりがっ!
「せっかく全校でも有名な君に会えたんだ、なるべく傷を付けないように先ずは自由を奪うよ。そのあとゆっくり僕を理解してくれれば良い。なにしろ時間はたっぷりとある」
言うが早いか捕縛結界、俗称トリモチの気配。タイムラグゼロ。
大葉さん並みに器用でないとこんな事は出来ない。多分諜報課もこれにやられたな?
ただし、サーボは周りの結界のみに有効のようだし、単なるトリモチに捕まる私では無い。しかしあえて術は受ける。首より下の自由が完全に奪われる。
これはブレイクも容易だ。
ゆっくりと恍惚の表情を浮かべて彼が近づいてくる。
――嫌だ、来るな、寄るな、気持ち悪いっ!
彼との距離をつめる為にあえて術にかかったのだが、体は強烈な拒否反応を示す。
この空間は正確な距離が測りにくい。
もうちょっとだ、あとほんの少しだけ我慢しろ、私!
「君と話せる日が来ようとは。僕はね……」
「もう我慢できない! ブレイクっ!」
ガシャーン! 砕け散るガラスの音と共に私を捕縛した結界は消え去る。
「あなたの考えはわかりました。強制執行を開始します!」
「ふふ、そう来なくちゃつまらない」
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