第5話 アイテムテイカー


「ん? どうかしたの」

「……いえ、何も」


「あぁ電車の改札かぁ。何で華ちゃんの時だけエラーになるんだろうね。大丈夫だって。普通に開くよ、今日は」

 いつも通りに微笑む彼女の顔からは、私は何もうかがい知ることが出来ない。

 絶対太刀打ち出来ない、桜の恐ろしい部分がこれだ……。



 改札にスマホを当てて通過する。最近やっと躊躇しないで通れるようになった。

 さっきの桜の話では無いが、何故だかたまに×印が出て扉が開かないことがあるのは、きっとスマホが悪いのだろう。

 ……私のせいでは無いはず。


「ねぇ華ちゃん。アイテムテイカーって聞いた事無かったけど、魔法の道具を使う人って事だよね? 普通の人でも使えるんじゃ無いの、あーいうのって。なんか違うの?」


 ホームで電車を待つ。次の電車は十分後。この時間はちょうど学校終わりと、部活終わりの間の時間帯。うつくしヶ丘の生徒が主な乗降客である以上、電車を待つ人は少ない。二人で並んでホームのベンチに座る。


「ふむ。……例えば火の玉を出すとする。使うのは炎属性の、狙ったところへ火の玉を出すようなそう言うアイテム。満充電状態でたき火に火を付ける程度はできる。これだとライターやマッチを使った方が効率がよさそうではあるけれど」

「魔法使いで無い、普通の人が。だよね? ――条件として充電は満タンなのね?」


「そうね。条件としては魔法の充填は完全になされて、その状態で一回使える、で良いかしら」

「一回? それは不便だね、確かに」



 前回、魔法に関する知識は薄いのに、その辺に桜が疑問を持ったお陰で。

 敵のウィークポイントを見抜き、私を含むハイランカー三人と柊先輩が助けられた。


 だからこそ。一般人アンクラスドで魔法の知識もほぼ無いのにも関わらず。魔法道具職人アイテムクラフタ候補として私を含め、各方面から推挙されたのだけれど。



「でもキチンと使い方を理解している人間が使えば、例え普通の人間、アンクラスドでもそれだけで。このうつくしヶ丘駅の駅舎くらいなら一撃で吹き飛ばすことができる」

「なにそれ!? そんなに違うの? ……え、んじゃ、こないだの呪いの書の時って」


「彼がアイテムテイカーだったなら。……あんな回りくどい事をしなくても、手に巻き付いていた分だけで学校の敷地全部を簡単にクレーターにできたはず」


 この辺は、後の分析結果を監理課から聞いたのだけれども。

 正直私も、そんなところに前に桜と仁史君を連れて行ったのだと思うと、背筋が凍る思いだった。


「マジか……! でも、使う人によってそんなに違うんだ」

「例えばお刺身を切るとして、同じ包丁を使っても素人と職人では差が出る。魔法に限った話では無いと思う」


 ――そうか、そうだよね。そう言って桜は頷く。

 実際に職人で無いとしても、桜と私を例に取れば分かり易い。


 魚を初め、お肉も野菜も。お豆腐でさえ。同じ包丁、同じ材料を切っているはずなのに、私が切ると大層悲惨なことになる。

 少なくとも食欲をそそるような、そんな切り口になった例しがない。


「うん。私、出来るんだったらやってみたいかな、魔法道具職人アイテムクラフタ。……作るのも面白そうだけど、変な呪いのアイテムみたいのをさ、解体したいんだよね」

「ごめんなさい桜。……どう言う、こと?」


「一〇〇人を呪い殺したアイテムが古本屋さんに会ったら危ないでしょ? って言うかもろ危なかったじゃない? だからそう言うのを片っ端から無力化バラしたい。作れるんだったら壊し方もわかるはずでしょ?」


 理屈ではあるが……。

 術式解体専門のアイテムクラフタなんて聞いた事が無い。

 アイテムクラフタでさえ基本的には希有の存在であるのだ。


 それに、言葉などこの際どうでも良い話ではあるけれど。

 解体専門ならクラフタでは無く、アイテムデモリショナ。みたいなことになるのでは。


「でも、見つけなければ壊せないのでは……」

「悪用される前に、華ちゃんやあやめさんが見つけて私が壊す! ね、悪くないでしょ? このサイクル。最近ずっと考えてたんだ」


 でも。桜の相棒バディを自認する私にはわかる。

 この感じ方が、桜という女の子なのだと。


「あのね、魔法ってさ、もっとみんなの役に立つはず。壊したり、呪ったり。そうじゃない使い方しなきゃ。――華ちゃんみてたら誰だってそう思うよ」

「え、私……?」


『まもなく、に、番線に、東京方面、行き、の電車が参ります。危ないですから線の内側までお下がり下さい』


 ちょっと虚を突かれて、どう返事をして良いか戸惑っている内に、チャイムの音と共に録音された女性の声がそう次げ、電車が目の前に滑り込んでくる。


「魔法使いは正義の味方であるべき! でしょ? ――行こ?」

「まぁ、もちろんそこに異論は無いけど……」

「それに華ちゃんの役に立つ道具だって、そのうち作れるようになるかもだし」


『に、番線、東京方面、行き。まもなくの発車です。閉まるドアーにご注意下さい』


 ぷしゅー。ごろごろごろ、どん! 鉄で出来たドアが非常に雑な感じで閉まると、電車は少しずつ加速していった。

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