第4話 女子高生はぐずぐず考える生き物

 桜と二人、並んで校門を出ると徒歩数分、アパートを通り越し、駅へと向かう。


「お出かけだったら、華ちゃん的には仁史と一緒の方が良かったんじゃ無い?」

「な、なんで急にそんな事を……。い、一応、遊びに行くのでは無いのだし」



 桜の従兄弟でもありいわゆる幼馴染みにあたり、クラスメイトでもある。

 端から見て居る限りはまるで桜とは兄弟のようで、うらやましく見える。

 そして私ともクラスメイトでもある仁史君。


 今のところ発動条件は不明だが、彼は属性無視、呪いも魔法も全て相殺そうさいする強力な魔道相マジックオフセッ殺能力トキャパビリティを持つ。


 魔法使いの存在を無にするかのようなそんな能力だ。魔法でも結界でも無い。

 弾くでも受けるでもない。

 ただ同じ規模のエネルギーを、どこからか調達した上で相殺するのだ。


 私は二度、発動するところを見たが確かに魔法の波動は感じなかった。

 そして二度目は、不甲斐なく力尽きた私を助けてくれた力でもある。


 振興会でも調べてはいるのだが、何しろ本人さえもが

 ――何があったのかわかんねぇ。と言う能力である。

 調査はあっという間に暗礁に乗り上げて、以降動きは無い。


 桜と同じく振興会の要監視人物で護衛対象でもあり、同世代の男性として私が唯一存在を認め、そして生まれて初めて特別な感情を持つに至った男子。

 その彼の護衛担当は私では無くお姉様であるのは、良かったのか良くないのか。

 毎朝かいがいしく彼に重箱に入ったお弁当を作り、一緒に登校してくるお姉様を見るに付け、最近は色々と微妙に感じてるところではある。




 そんな“どうでも良い事"でぐずぐず考えを巡らせる程度には。

 多少、私が人間らしくなった。と言えるのかも知れない。

 もっとも。それが果たしてどうでも良いことなのか、違うのか。

 もう一つ確信的なことは言えないけれど。


 少なくともそこまで仲の良くない私があのお弁当を作ることは、技術的なこともあいまってできない。

 と言うことだけは事実だ。


 ……などと。

 どうやらまた。“ぐずぐず”が頭の中で廻り始めた。

 自分でもそこはわかっているが、でも。こうなると中々止まらない。


 そもそも私は仁史君に対して、いったい何をどうしたいのか。

 彼からどう接してもらいたいというのか。

 それすら自分で良く分からないと言うのに。

 意味の無い考えだけが、ただぐるぐると頭を巡る。


 

 ――エッチな事はどうでも良い、キスだって今はポイ。……その“彼”の横に立って、手をつないでお話ししながら歩く。そんなの、してみたくない?



 以前、気になる男子が居る。と言った時、桜に言われた台詞が頭の中に蘇る。

 彼に期待するのはそういうこと、だろうか。


 そのものだ! とも思うし。

 全然違う!! とも思う。


 そもそも彼のことは気になる、のであってそれ以上どうなのか。と問われれば。

 自分で良く分かっていないのだから、それこそ答えようが無い。


 まずい、顔が熱くなってきた……。

 いずれ“ぐるぐる”がここまで来ると、もう自分ではどうしようも無い。


 アンクラスドとは言え相手の力がわかっていない。

 何を持っているかわからないアイテムテイカーを相手に、アンクラスドである桜を帯同している意外に危険で大事な任務、こんな事で集中が乱れては……。




「まぁいいや。――だから華ちゃんなんだもんね」

 その何気ない台詞を聞いて、私は冷や水を浴びせられたように我に返る。


 桜は、私の気持ちに気が付いているのか居ないのか。

 少なくとも態度には出ていないはずだし、気になる男子が居るという話はしたことがあるが、名前なんか絶対に出したことはない。……のではあるが。


 この件については何しろ相手が、神代 桜である。

 ……きっと気が付かれては居ないはず。気が付かないで居て欲しいけど……。

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