第7話 あなたのために

七海と翔平は、さんざん泡の風呂で遊んだ後、バスルームから出てキッチンにいた。

「しかし、いつもながら凄い泡だったな。」

「うんうん、ほんまに。

 じゃなくて、本当に。」

二人は、お揃いで色違い、翔平はグレーの上下、七海は水色の上下のスエットを着ていた。

七海は、水色が好きで、よく水色を基調とした服を着ているが、翔平も七海は水色が良く似合っているといつも感じていた。


お風呂で火照った身体を、エアコンの涼しい風が冷やしていく。


時計は7時を差していた。

「遅くなっちゃった。

 ご飯は…。」

見ると炊飯器は既に保温になっていた。

「翔平さん…?」

翔平は、笑ってVサインをして見せた。

七海が眠っている時に、炊いていたのだった。


「す、すみません…。」

七海は小さくなって謝る。

「家事は全て、私の仕事なのに…。」

「いいよ、気にしない、気にしない。」

翔平はそう言うと小さくウィンクして見せる。

それを見て、七海は心が軽くなって行くのを感じていた。


「じゃあ、急いで、おかずを作らなくっちゃ。」

七海は明るいオレンジと白のストライプのエプロンを着ると、せわしなさそうに冷蔵庫から、豚レバー、レバニラ用のカット野菜や、ナス、ひき肉などの具材を取り出す。


「えっと、私が炒めたりするから…。」

七海はチラリと翔平を上目づかいで見上げる。

「わかった、僕が野菜を切ったりするのを手伝うよ。」

翔平もすでに茶色と白のストライプのエプロンを被っていた。

「お願いしまーす。」

七海は昼間と違って、よそよそしさが消え、翔平に少し寄りかかると口調も甘えたようになっていた。


翔平は、ニンニクをスライスして七海に渡す。

七海は、油を言いて熱したフライパンに受取ったニンニクを入れると、水が付いていたのかパチッと油が跳ね、七海の指に当たった。

「熱い。」

「大丈夫?

 早く水で冷やさないと。」

翔平は急いで七海の手を掴むと水道の蛇口をひねり、水をかけた。

「大丈夫。

 ちょっと熱かっただけだから」

七海は手をひっこめることなく、そのまま、翔平に摑まれたままだった。


翔平の指は、爪が綺麗にカットされ柔らかだった。

(私のために、つめの手入れもしてくれているのかな…)

七海はそう考えると、嬉しくて仕方なかった。


七海の指は少し赤くなっているだけで、大したことが無かった。

「よかった…。」

翔平がほっとした顔をすると、七海は翔平に微笑んで見せた。


「たいへん、ニンニクが焦げちゃう!」

七海の声に翔平が手を離すと、七海は、レバーを入れて焼き始める。

ニンニクの焦げた匂いとレバーの焼ける良い匂いがキッチンに漂い始める。

「うーん、良い匂いだ。

 腹減ったなぁ。」

「もう少し我慢してくださいね。

 で、次はニラを切って。」

「はいな。」


ニラを切っている間、七海はカット野菜を開け、フライパンに入れ、レバーと炒め始める。

「切れたよ。」

「じゃあ、突っ込んじゃってください。」


炒めながら、七海はテキパキとコショウや塩などの調味料を入れ、味を調えていく。

レバニラ炒めが出来上がると、すぐにフライパンを洗い、油を引き、ひき肉を炒め始める。

「翔平さん、ナスは?」

「もう切ってあるよ。

 ほら。」

翔平は、縦に八等分に切ったナスをボールに入れ七海に渡す。

「あとは、ネギのみじん切りだっけ?」

「はい。」


七海は、ナスとひき肉を炒めると、買ってきた麻婆ナスの元を入れ味見をする。

「少し、パンチが足りないかしら。」

そう言って豆板醤を足して味を調えていく。

30分も立たずに、メインディッシュのレバニラ炒めと麻婆ナスが出来上がり、盛り付けた大皿を翔平がリビングのテーブルに運ぶ。


その間、七海はレタスとトマトでサラダを作り、そして買ってきたグレープフルーツを剥いていた。

「グレープフルーツって、前は二つに切ってスプーンで食べるものと思っていたけど、そうやって食べると、食べたって気がして美味いんだよな。」

「そうでしょ。」

翔平の感心する声を聞いて七海は笑顔で答える。

「さあ、できた。」

最後にミカンのように剥いて、一房ごとに甘皮を剥き、実だけになったグレープフルーツを七海がテーブルに運んで来た。


テーブルには、ガラスのグラスが二つ。

翔平が氷入れから氷をグラスに入れ、スコッチウィスキーを注ぐ。

「それって?」

「ああ、メーカーズマークってお酒。

 美味くて結構いけるんだよ。」

その酒の注ぎ口は、まるで蝋を溶かしたような変わったものが付いていた。

「面白―い。

 見せてぇ。」


七海が翔平の方に両手を広げる。

翔平が片手で瓶を持って渡すと、七海は翔平の手を包むようにして瓶を受取る。

七海が瓶を見ている間に、翔平は冷蔵庫から持ってきた冷えた炭酸水を開け、スコッチウィスキーの入ったグラスに注ぎこんだ。

「それじゃあ、乾杯。」

「乾杯!!」


七海はお酒の瓶を置いて慌ててグラスを持つと翔平のグラスとカチンと合わせ、一口口に含む。

風呂上がりで喉が渇いたせいもあって、冷たいハイボールはすごく美味しかった。

「ふぅ、美味いな。」

「ほんとう、美味しい。」

七海がにっこりと笑うと、翔平も白い歯を見せて笑う。


「そうだ、翔平さん。」

七海は急に思い出したように上目づかいで翔平を見る。

「ん?

 なに?

 そうだ、今日は巨人阪神戦じゃないか。

 どっちが勝っているかテレビを付けよう。」

そう言いながら翔平はテレビのリモコンに手を伸ばす。

「ううん、違うの。」

「え?」

「あの…。

 …。

今晩、泊まっていいですか?」

恥ずかしそうな顔をしながら七海が尋ねる。

七海は、いつも土曜日は翔平のところに泊るのだが、決まって翔平に泊っていいか尋ねていた。


「そんなに改まって聞かなくても、いつもいいって言っているだろ。」

翔平は吹き出しそうな顔をした。

「だってぇ、用事があったりするかもしれないじゃないですか。」

「土曜日の夜に?」

「ええ、例えば人に会うとか、デー…。」

“デートとか”と七海は言いかけたが口をつぐんだ。


「用事があるときはちゃんと事前に言うよ。

 それに、土曜日の夜に会う相手なんか、七海以外にいやしないよ。」

「そ、そうですか…。

 そうですよね。」

七海は、内心ほっとし、心が浮き上がるのを感んじていた。

「あ、テレビ、テレビ。

 阪神、勝っていますか?」

七海は小学生まで関西に住んでいたので阪神ファンだった。


「なにぃー、巨人が勝っているに決まっているだろ。」

翔平は、大の巨人ファンだったが、七海に巨人を応援する様にと無理強いすることがなく、逆に応援合戦で楽しんでいた。


「まだ、0対0か。」

「翔平さん、お腹空いているんでしょ。

 食べて、食べて。」

「おお、その通りだ。

 いただきます。」

翔平は七海に急かされ、レバニラ炒めを取り皿に取り、口に含んだ。

七海のレバニラは塩味で、コショウが利いていてピリッとしていたが、翔平にはたまらなく美味だった。


「美味い!!」

そう言うと翔平は、レバニラ炒めをお代わりして取り皿に取った。

「翔平さん、麻婆ナスも。」

「おお!」

七海に言われるがまま、翔平は麻婆ナスを取り、口に頬張る。

麻婆ナスは、豆板醤が大量に入っていて辛かった。


「どうですか?」

七海は心配そうに翔平の顔を見る。

実は七海は辛いものが大好きで、麻婆ナスにも豆板醤を100gほどの小瓶の三分の一近くを入れてしまっていたのだった。

「う、うん。

 少し辛いけど、美味い。」

翔平はにじみ出る汗を拭きながら笑顔を見せる。


「辛かったですか?」

七海はそう言いながら、平気な顔で麻婆ナスを口に含んで飲み込む。

「少し、辛さが足りないかと思って、豆板醤を足したんですが…。」

「大丈夫。

 僕も辛いのが好きだから。

 美味いよ。」

「良かった。」

翔平も辛い物は好きだったが、七海の麻婆ナスには少し苦戦していた。


レバニラ炒めも麻婆ナスも3人前くらいの量があったが、翔平は旺盛な食欲でどんどんと胃の中に収めていく。

(やっぱり、男の人って良く食べるのね。

 お母さんと二人だと、この半分の量でも残ってしまうのに)

七海もつられて普段よりも食べていたが、美味しそうに箸が止まらない翔平を見て感激していた。


プロ野球も接戦が続いていた。

巨人の坂本が同点ホームランを打つと、すぐに、その裏、阪神の大山が勝ち越し打を放つ。

翔平と七海は飲み食いをしながら、一喜一憂し、楽しんでいた。

そして食事はデザートのグレープフルーツに移っていった頃、テレビも野球からバラエティ番組に移って行っていた。


テーブルの上にあった大盛のレバニラや麻婆ナス、そしてサラダも綺麗に空になっていて、七海は小躍りしていた。

「すごーい。

 お皿が全部、空になっている!!」

「七海の腕がいいからさ。」

翔平に褒められ、七海は思わず両手でガッツポーズをして見せた。


それから二人は仲良く夕飯の片付けをしたあと、洗って干しておいた布団カバーなどベッドメーキングをし、更に、七海は翔平の会社用のワイシャツのアイロンがけを始めていた。

最初、ワイシャツはクリーニングに出すからアイロン掛けはいいと言っていた翔平だったが、七海に「是非、アイロン掛けをやらせて欲しい」とせがまれたので、仕方なく頷いたが、丁寧に皺を伸ばし、綺麗に仕上げていく七海に感心し、今では翔平は何も言わずに七海の好きにやらせていた。


「七海、そんなに動いて疲れちゃわないか?」

今も鼻歌を歌うようにアイロン掛けをしている七海に声をかける。

「大丈夫です。

 翔平さんは、ゆっくり食休みをしていてくださいね。」

そう言って、嬉しそうにアイロン掛けをする七海を翔平は微笑みながら見ていた。


「今日のお仕事は、これで終り!」

七海は、アイロン掛けの終わった翔平のワイシャツを愛おしそうにハンガーにかけ、クローゼットに吊るすと、アイロンを片付けながら翔平に報告する。

「はい、ご苦労様でした。

 こっちに来て、少し休んで。」

翔平は、七海が横になっていたソファをみなとみらいの夜景が見える位置に広げ、寄りかかりながら七海に話しかける。


「あ、ちょっと待っててくださいね。」

七海はそう言うとキッチンに行き、何やら支度を始めると、コーヒーのいい香りが部屋に漂ってきた。

「お待たせしました。」

そう言いながら七海は翔平のマグカップと自分のマグカップにコーヒーを注いで持ってきて、翔平にマグカップを手渡すと、床に自分のマグカップを置くと、翔平の真横に寄り添うようにそっと座った。


それを見て、翔平は照明のリモコンを持って、部屋の灯りを落とすと、窓から何も遮るものがない“みなとみらい”の夜景が窓から飛び込んでくるように映し出された。


「綺麗…。

 私、この眺めが一番好き。」

七海はコーヒーを飲みながらため息をつくように言う。

「ああ、僕もこの眺めが好きだから、このマンションにしたんだよ。」

「でも、こんなに広くて眺めも良くて、お家賃高くないですか?」

「家賃?

 家賃か…。」

翔平は七海の問いに思わず笑って答えた。


「?」

七海には翔平の言うことがピンとこなくて、不思議そうに翔平を見ていた。

翔平はコーヒーを飲みながら夜景を見ていた。

その横顔は、夜景の光に照らされ、いつもに増して精悍でモデルのようだった。

(だけど、私がいない時に、何人の女の人とこの夜景を見ているんだろうか?

 私なんかよりも、翔平さん似に合う美人の女の人…)

翔平のプロフィールには、付き合っている女性はいないと書いてあったが、七海はつい考えないではいられなかった。


「!」

翔平は、七海の視線を感じ、七海の方を振り向く。

夜景や月の明かりに照らされた七海は、目がキラキラ光り、嬉しそうに翔平を眺めていた。

そしてエアコンの風に乗って、七海の身体からいい香りが流れて来る。

翔平は、そんな七海を愛おしく感じていた。


コトンとカップが床に置かれる音がして「七海」と翔平が七海に声をかける。

七海もそっと自分のカップを横に置くと、静かに目を閉じる。

翔平は七海の肩に手を回し、そっと七海の唇に自分の唇を重ねる。

七海は、全てを受け入れるように翔平の首に抱きつくと、二人は抱き合いながら舌を絡めあった。

少しして、翔平の唇が七海の唇から離れると、翔平の口から優しい口調で「お風呂に入ろうか」という言葉が漏れる。

七海はとろんとした顔で小さく頷く。


翔平は、七海がアイロン掛けを始める前に、お風呂のお湯を新しくしていた。

翔平は起き上がると七海と自分のコーヒーカップをテーブルの上に置き、立ち上がりかけている七海を抱き上げる。

「きゃっ」

七海は、小さく驚いた声を上げたが、すぐに、翔平の首に齧りつくように抱きつくと、翔平は、七海を抱いたままバスルームに入って行った。


昼間とは異なり、今度は二人して浴室に入り、二人は交互にさっと身体を洗い流すと、泡立っている湯舟に翔平が先に入る。

七海は、髪ゴムで長い髪を上に持ち上げ束ねると、翔平の待っている湯舟にそっと入り翔平に背を向けるとそのまま、翔平の上に翔平を背もたれにするように足を伸ばして座る。


直ぐに翔平の両手が七海の乳房を包み込み、翔平の指が七海の乳首を弄ぶ。

そして、七海の首筋に翔平の唇が触れると、まるで吸い付くように首筋を上下していく。

「ん…。」

七海は小さく声を漏らすが、目をつぶり翔平のされるがままになっていた。

翔平の右手が乳房から離れ、七海の脚の付け根に、そして、七海の女性の部分を優しく触れ始めと、七海は少し体を硬直させるように背中を翔平の身体に押し付ける。


「七海」

少ししてから翔平が七海に声をかける。

七海は目を開け、翔平を見る。

翔平は七海を少し持ち上げ正面を向けせようとすると、七海もそれを理解したのか、自分から身体の向きを変え、翔平の正面を向くと、そっと腰を下ろす。


腰を下ろしたところには、翔平の男性の部分が硬くなっていた。

七海は、翔平の男性の部分の上に、自分の女性の部分が当たるように身体をずらしながら腰を下ろした。


お湯の中なので、翔平は無理に七海の女性の中に入れることはせずに、七海の身体を抱きしめ、身体を固定すると二人は触れている感触を楽しんだ。

「出ようか。」

翔平の声に七海は小さく頷く。

翔平は、七海の何げない仕草が可愛らしく見え好きだった。


二人は、浴室から出るとバスタオルを身体に巻いて、身体についた水滴を拭うと、白と水色のお揃いのバスロブを着た。

「翔平さん、髪を乾かすから、少し待っていてくださいね。」

七海がすまなそうな顔で言うと、翔平は「ああ」と微笑み、七海のおでこにキスをするとバスルームを出て行った。


七海は、髪ゴムを外し、急いでドライヤーで髪を乾かすと、洋室に向かった。

洋室に入ると翔平はベッドに腰掛け夜景を見ていた。

「お待たせしました。」

七海はポニーテールではなく、髪をほどいていた。

そして、ブラシでカールしたように、髪は少しウェーブがかかっていた。


七海は翔平の横を抜け、自分の枕が置いてある布団の中に潜り込み、タオルケットから手と顔を出すと翔平を見つめていた。

翔平はニコリと笑顔を見せると、七海の右側に潜り込んだ。


「待ちくたびれた。」

「ごめんなさい。」

翔平と七海はおでこを付けながらそういうと笑い出す。

翔平にとって七海の笑顔は、今まで見てきた女性の中で一番可愛らしい笑顔をする女性だった。


翔平は右手で七海の左頬を撫でると、唇を合わせ、舌を絡める。

右手で自分のバスロブの紐をはずし、バスロブを脱ぐと、同じように七海のバスロブの紐を外し、七海のバスロブを脱がす。

七海の身体からは、石鹸の香り以外に良い匂いがした。


そしてその香りは、七海の身体が火照ってくると、強くなり、翔平の欲望に火を点ける。


毛布の中で二人は身体を寄せ合うと、翔平は七海の首筋から肩、腋、そして乳房と順々に時間を掛けて舌を這わせ、時に歯を立てないように唇だけで挟んだりしていく。


七海の乳首を口に含み、舌を使って転がすように愛撫しながら、右手を七海の脚の間に滑り込ませる。

七海の女性の部分は、すっかり翔平を受け入れる準備が出来ていた。


その七海の女性の中に翔平は指をゆっくりと、優しく挿入し、指で中を撫でるように動かす。

「ん…」

七海は声にならない声を上げると、両手でシーツを掴んだ。


翔平は、七海の女性を指で撫でながら、口を七海の乳首から放すと、ゆっくりと時間を掛け下半身に向かって舌を這わせていく。

途中で七海が感じる部分を見つけると、じっくり時間を掛けて、その部分を愛撫する。

(なんで、勝手に腰が動くの…)

七海はいつの間にか無意識で、翔平の指の動きに合わせるように腰を微妙に動かしていた。


タオルケットは、いつの間にかずり落ちていた。


翔平は七海の中から指を抜くと体を入れ替え七海の腰のあたりに頭が来るように七海の下に身体をずらす。

そして両手で七海の両脚を開かせ、左右の二の腕の辺りに七海の脚を乗せ七海の女性部分を露わにし、そして左右の腿のつけ根の辺りを舌で愛撫したり、吸い付いたりし、それから女性の部分に舌を這わせる。


濡れている女性の中心部分の両横を丹念に舐め、突起物を舌の先で転がすようにしたり、中心部に舌を挿入したり時間を掛け愛撫する。

何十分も愛撫して、顔を上げると七海は枕を握って仰け反るように枕に顔を埋めていた。


窓から差し込む月の光と夜景の明かりが、七海と翔平の裸体を幻想的に包み込む。

「七海、なんて綺麗なんだ。」

勝敗は枕をどけ、七海の耳元で優しく呟く。

「翔平さんも…。」

七海はうっすらと、目を開け、翔平に微笑んだ。


翔平は、七海の腰を掴み、少し下にずらすと上半身を起こし、座るような姿勢から七海の両脚を広げ、硬くなった男性を女性の中心にあてがい、いつものようにゆっくりと挿入していく。

(ああ、翔平さん。

なんて気持ちいい…)

七海は声も出ずに顔を横にして、枕を掴もうとしているようだった。


その七海の肩を右腕で抑えるようにして、翔平は、七海の奥までゆっくり挿入し、奥まで入ったところで、動きを止め、七海を見ると、七海の身体は小さく震えたようだった。

翔平は、しばらく七海の女性の奥深く挿入したままで感触を楽しむと、ゆっくりと腰を動かし、時間を掛け翔平の男性を浅く、また深くと七海の女性の中に繰り返し埋めていく。


七海が何度か小さく痙攣するのを感じると、翔平は七海の背中に手を回し、七海の中に挿入したまま七海を抱えあげる。

(え…?)

七海は何をされるのか薄々感じていた。

翔平は、胡坐をかくように座ると、その間に七海を座らせる。

七海は、翔平の首に齧りつくように手を回した。

(あ、奥まで…)

七海は深い挿入感を感じていた。


翔平は口で七海の唇を探す。

七海もそれがすぐに分かったのか、顔を上げ翔平の唇を求める。

気が付くと、七海は無意識に腰を動かし、翔平も、それに合わせるように下から突き上げる。

徐々に七海も息遣いが荒くなり、顔を左右に動かし始める。


どの位時間が経ったのだろうか。

翔平はゆっくり七海を背中からベッドに戻すと、七海の両脚を膝のところから曲げ、両手で掴むと少し七海の腰を上にあげるようにして、上から七海の中に挿入し、ゆっくりと腰を動かす。


七海は、すぐに顔をのけぞらせ、夢遊病者のように両手を宙にあげ、何かを探すように動かし始める。

それを見た翔平は掴んでいた七海の脚を離すと、上半身を倒すように七海に覆いかぶさると、それを待っていたかのように七海は翔平の背中に腕を回し、爪を立てるようにしっかりとしがみつき、両脚を翔平の腰に巻きつけていた。

(もう…、もう…)

七海は、頭の中が弾けたように、何も考えられなくなっていた。

ただ、ただ、翔平を求めて…。


そして大きな波が七海を襲い、消えゆく意識の中で、自分の中に翔平を感じ、安心して眠りに落ちていった。


「ん…。」

七海は何かを感じ、目を醒ました。

(いやだわ。

 また、寝ちゃった。

 翔平さんは?)

そこで、七海は初めて翔平の胸が自分の目の前にあることに気が付いた。

七海は、翔平の腕の中で眠り込んでいた。

七海が顔を上げると、翔平も目を閉じ、気持よさそうに寝ているようだった。


七海は身体から石鹸の香りがするのに気が付いた。

(翔平さん、また、わたしを綺麗にしてくれた…。)

七海は涙が出そうだった。


(お風呂、どうしよう。

 翔平さんもきっと入りたいよね。

でも、まだ、いいわよね。

 あっ、トイレ…)

七海は、そっと翔平の腕をとると、身体をずらし、翔平の腕の中から抜け出す。

(またあとで、貴方の腕の中に入れてくださいね)


そう心の中で翔平に言うと、近くにあったバスロブを身体に羽織り、七海はベッドから降りてトイレに向かう。

少しして七海はトイレから戻り、そっとベッドによじ登った。

(あら?)

ベッドによじ登ったところで、七海は壁側の水槽の中の金魚と目が合った。

月明かりで薄暗かったが、金魚が2匹とも、七海を見ているようだった。


そして、何かを考え、それからバスロブを脱ぎ、裸になると布団の中に入り、翔平の方ににじり寄る。

「このまま、横で寝かせてくださいね。」

七海が小さな声で翔平に話しかけると、「もちろん」という翔平の声が返って来た。


「え?」

七海がびっくりして、翔平の顔を見ると、翔平の目はパッチリと開いていて、白い歯がこぼれていた。

「ええ?

 めえさめてん?

 今の聞ぃとった?」

七海は驚きのあまり目を丸くし、関西弁が丸出しになっていた。


「七海。

方言!」

翔平は七海の狼狽するのを見て笑っていた。

そして、七海の素の方言を聞いて、思わず「可愛いな」と思っていた。

「ご、ごめんなさい。

今の聞いていましたか?」

七海は、言いなおすと顔を赤らめた。


「ああ、聞いてたよ。

横は良いけど、まだ寝かせない。」

そう言って翔平は七海に覆いかぶさって来る。

「え?

 ええ!?」

七海は驚きながら、でも、両手を広げ翔平を向かえ入れた。

二人がその後、お風呂に入ったのは、午前3時を回っていた。


翌朝。


「う~ん。

 コーヒーのいい香り。」

七海は目を醒ましたが、頭の中はまだ霧が掛ったようだった。

カーテンは厚手のカーテンが引いてあったが隙間から陽の光が漏れていた。


(もう、翔平さんたら、凄いんだから…。

 え?

 翔平さん?)

七海は、頭の中の霧が晴れたようにベッドの上で飛び上がるように身体を起こした。


七海は、水色の花柄のパジャマを着ていた。

昨晩、午前3時ごろ翔平とお風呂を一緒に入り、その後、パジャマに着替え抱き合うようにベッドで眠りについたはずだった。

確かに、今いるところは翔平のベッドの上だったが、肝心の翔平がいなかった。


「翔平さん?」

七海はベッドの上で正座し、翔平の名前を呼んでみた。

「七海、起きたか?」

するとキッチンの方から翔平の声が聞えた。


キッチンの方は厚手のカーテンが開いていて、陽の光が差し込んで明るかった。

翔平はすでに、ジーパンに柄物のTシャツ、それに水色の七分袖のパーカーを羽織っていた。


「やだ、私ったら。

 今何時?」

七海は慌てて時計を見ると、すでに10時近かった。


「きゃー、たいへん。

 寝坊しちゃった。

 急いで洗濯機を回して、朝ごはんを作りますね。」

慌てる七海を笑いながら翔平は洋室に入ると、厚手のカーテンを開けた。

「眩しい…。」

「今日もいい天気だよ。」


七海は、陽の光を手で遮りながらベランダの方を見ると、すでに洗濯物が吊ってあった。

しかも、自分の洗濯物も含め。

「え?

 翔平さん、まさか洗濯終わっている…?」

「ああ。

 あと、朝ごはん、目玉焼きにトースト、それに野菜ジュースとコーヒーでいいかな。」

翔平は白い歯を見せて笑って言った。


「え?

 だめぇ。

 私の仕事!!

 きゃっ。」

七海はベッドから出ようとしてバランスを崩し、転びそうになった。


「危ない!」

翔平は、危く転びそうになった七海を抱きしめた。

「ごめんなさい。

わたしったら、寝坊しちゃって。

 家事まで翔平さんにやらしてしまって。」

七海は翔平の腕の中で、家事をやるという契約なのにと小さくなっていた。


「気にしない、気にしない。

 あまりにも気持ちよさそうに寝ていたから、そっとしておいただけだよ。」

それは翔平の本心で、翔平は無防備で気持よさそうな七海の寝顔が好きだった。


「だってぇ。」

渋る七海の唇を翔平は自分の唇でふさぐ。

七海は直ぐに翔平の首に手を回すと、翔平の唇を求めた。

その場で抱き合った後、翔平が唇を離す。

「さ、気にしないで、着替えて、ご飯。」

「はーい。

 でも、今度からちゃんと起こしてくださいね。」

「わかっているって。」

「この前もそう言ったんだから。

 絶対に起こしてくださいね。」

「ああ、わかった。」

七海は前の週も寝坊して、洗濯を翔平にやらせてしまっていたので、念を押していた。


「じゃあ、着替えてきますから、もう、絶対、絶対、何もしないでくださいね。」

「はい、はい。」

「“はい”は、一度だけ。」

「はーい。」

翔平は笑いながら手を振って、着替えを持ってバスルームの脱衣所に消えて行く七海を見送っていた。


(本当にわかっているのかしら。)

七海はパジャマを脱いで下着だけになると、鏡に映った自分の裸体を見た。

さすがに今回は首筋にキスマークは残っていなかったが、洋服の下で見えないところ、胸や太ももなど、あちらこちらに翔平の付けたキスマークが見え、顔を赤らめた。


七海は、自分の家から持ってきた着替えのシャツにブラウス、そしてGパンに履き替え、キッチンに戻って来た。

キッチンにはすでに卵やパンが出されていた。

「翔平さん!

 何もしないでって言ったのに。

 それより、翔平さんも食べていないんですか?」

エプロンをかぶりながら七海は気になって翔平に尋ねた。


「ああ、七海と一緒に食べようと思って。

 コーヒーだけ入れて飲んでた。」

「まあ、それじゃ、お腹空いているんじゃないですか。

 急いで作りますね。

 でも、今日は、お手伝いは駄目ですからね!」

七海が“メッ!”っていう顔をして翔平を睨むと、「へい、へい」と翔平は肩をすくめて椅子に座って七海を見ていた。


七海は、翔平に申し訳ないと思う反面、「一緒に食べようと思って待っていた」という言葉が嬉しかった。


二人は陽の光に輝いている“みなとみらい”の風景を見ながら遅い朝食をとっていた。

「ねえ、七海。

 今日は何時まで大丈夫?」

「え?

 ええ、母が待っていますので、6時くらいまででお願いしたいんですが…。」

翔平と七海は、始業、終業の時間を決めていなかった。


最初、七海は時間を決めるものと思っていたが、翔平からお互い用事があったりするだろうから、臨機応変でいいよと言われていたが、契約しているのだからと、七海は心の中で土曜日は午前10時から、日曜日は午後6時までと決めていた。

ただ、日曜日の終わりの時間については、最近では6時を回っても出来る限り一緒に居たいという気持ちが強く沸き、あいまいになってきていた。


「じゃあ、たまには山下公園の方に遊びに行かないか?」

「え?

 本当ですか?」

七海は海が好きだったので、山下公園と聞いて喜んだ。


「ああ、車を出すから。

それと、帰りも駅まで送ってあげるよ。」

「ほんとに?!

 ほんまに、ええのん?」

七海は興奮して、目を輝かせていた。


「七海!

 言葉が!」

そういうと、翔平は片手で顔を覆いながら、笑い出す。

「あ、ごめんなさい。

 でも、そんなに笑わないでください。」

小さな声で、七海が不満そうに言うと、翔平は笑いながら「ごめん、ごめん」と笑いながら謝る。


その日も、いい天気で、窓から流れ込む海風が心地よかった。

七海は翔平と家で一緒というのも良かったが、一緒に外を出歩くのも嬉しくてしかたがなかった。


顔を撫でるような海風を感じ、七海は自然と笑顔になって外の風景を見ている。

そんな七海の顔を翔平は微笑みながら眺めている。

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