第2話 プロフィール
ファイルにある写真は、上半身の写った写真と全身が移った写真が載っていて、写真から見る翔平は、浅黒く日焼けした顔に七三分けの髪型が真面目さを際立たせ、身長、体重からスラリとしたスポーツマンであることが判断できた。
「あら?
その人のこと、気になった?」
サークルの責任者、と言っても卒業生で顧問的な役割をしている長谷川玲奈が七海に声をかけた。
長谷川玲奈、28歳。
ワンレンの黒髪、目鼻立ちがはっきりしている理知的なOL風の美女。
一重瞼に薄い唇、鼻筋の通ったツンと高い鼻、垢抜けてお洒落な化粧、それに中肉中背で抜群のプロポーションの持主、男女問わずその美貌に注目を集めるのではと七海が思うほど綺麗だった。
サークルの責任者は在校生だが、HKLの運営、運営責任者は玲奈で、特にHKLでは、人脈、人を見る目、そして女性に不利にならないように妥協を許さずに家主との交渉ごとが出来、家主からも信頼を得るのは、頭にいい玲奈でなければ出来ないことだった。
「え?」
いきなり声をかけられ、男性のプロフィールを見ていた恥ずかしさから顔を赤らめあわててPCの画面を手で覆い隠した。
七海にとって、男性のプロフィールをまじまじと見るのは初めてだったし、その男性とセックスもすることを考えただけで恥ずかしくなってしまった。
「その人、私の親しい知り合いの人の紹介だから、間違いはないわよ。
でも、好みがうるさいの。
まあ、見るだけでもね。
そうそう、そこに載っている写真、余所行きの顔よ。
そうね、会社行く時の顔よ。
普段は、こんな感じ。」
玲奈は、自分のスマフォを操作し、七海に見せた。
玲奈のスマフォに移っている翔太は、七三分けのぱりっとした顔ではなく、ぼさぼさ頭で気の抜けたような顔をして笑っていた。
しかし、その笑顔は飾っ気が無く好感の持てる表情だった。
玲奈は、写真を見せ終わるとスマフォを閉じ「ごゆっくり。」と言って、赤い顔をした七海に笑顔を見せると、離れていった。
玲奈が傍からいなくなると七海は玲奈のお墨付きであること、普段の顔も好感が持てたのとで、翔平に俄然興味がわき、自己紹介の部分を読み始めた。
翔平は、年齢は30歳で一流証券会社の系列である大手コンピュータ会社のエンジニア。
両親は都内在住で、翔平は、市内のマンションに一人暮らし。
平日は残業が多く、土日も不規則になりがち、今だからうるさく言われている労働基準法に抵触しそうな勢いの多忙さで、家事まで手が回らないのと、女性との出会いの場がなく、また、たとえあったとしても付き合いをしていく余裕や時間が取れないので、空いている時間に家事をしてくれて恋人ゴッコのしてくれる女性がほしいというのが応募理由だった。
(こんな素敵そうに見えるのに、なんか可哀想…。)
写真の翔平は、女性だったら放っておかない好男子だったので、七海の素直な感想だった。
続けて趣味の欄を見ると、読書(時代ものや日本人作家の小説)、音楽鑑賞(Jpop、ロック)、スポーツは”なんでも”と書かれていた。
七海も海外の推理小説は苦手で、日本人の作家の小説が好きで、音楽もクラッシックは苦手で元気の出るようなノリの良い音楽が好きだった。
スポーツは特に好きなものはないが、見るのは好きなので話しを合わせることは出来るが、1点だけ気になる記述があった。
それは、翔平がプロ野球は巨人ファンであること。
七海は、熱狂的とは言えないが阪神ファンだった。
(まあ、巨人ファンということを除けば特に問題ないわね)
七海はいつの間にか翔平の自己紹介文にのめり込んでいた。
(特技は特になしか、あってもついて行けない特技だったら困るからいいわ。
車はCIVIC?
ホンダって日本車?
どんな車なんだろう。
あ、次は好みの女性のタイプだ。)
そして好みのタイプの欄に来た時、なぜか自分が告白を受けるみたいに胸がどきどきし、締め付けられる思いがした。
(身長は、150㎝から155㎝の間?
私、154㎝だから、セーフだ。
体形は、ぽっちゃり型?
痩せすぎでも、太り過ぎでもないってことかしら…。
私、痩せているけど、ガリじゃないわ。
胸だって…、普通よね。
茶髪、派手な化粧は駄目?
私、染めてないし、化粧気まるでないって言われているから大丈夫かな…。
髪型は、ミディアムでポニーテールが似合う?
いつも、後ろで結わいているけど、それってポニーテールよね。)
七海は、キョロキョロと周りを見わたし、鏡の代わりなるのはないかと探して見た。
「はい、これ。」
いつの間にか傍に来ていた玲奈がニコニコ笑いながら七海の前に卓上の鏡を置いた。
「みんな、気になって鏡を見るのよ。」
「そうですか…。」
玲奈に見透かされたので、七海は再び顔を赤らめた。
玲奈はまた七海に気を利かせて、少し離れたところに移動し、背を向け座って調べ物をし始めていた。
七海は、玲奈の姿を見てから自分の髪を後ろで結わき鏡を見た。
(大丈夫。
ポニーテールには自信あり。
眼は裸眼?
コンタクトも駄目?
何でだろう。
…。
笑顔が可愛い?)
七海は、鏡に微笑んで見せた。
(うーん、大丈夫よね。
瞼は一重?
私、奥二重だけど駄目かな。
鼻の形は…鼻筋の通った高い鼻…。
私、高くもなく低くも無く普通だと思う。
少し上向きだけど…。
唇は薄目?
タラコじゃないけど、薄くないしなぁ。
それに、アヒル口はできないわ。
眉は剃っていないこと?
ピアスの穴が開いていないこと?
そうだけど…、こ、細かい…。
ワンピースが似合う?
だって、家事するにはズボンじゃなくっちゃやりにくいでしょ。
それに、ワンピは持っていないし、スカートじゃ駄目かしら。
ヒール禁止?
なに、これ…。
性格は、素直で大人しい?
従順って言うこと?
大人しいけど、従順じゃ…ないか。
あとは、無しか…。
性癖?
……。)
七海は、翔平の自己紹介シートから目を上げると、もう一度鏡に向かって微笑んでみた。
「どう?」
読むのに夢中なっていて近付いて来た玲奈に気づかず、いきなり声をかけられたので七海は飛び上がりそうになった。
「一度、会ってみる?」
玲奈は七海の反応を見て、くすくすと笑いながら話しかける。
「私、半分くらいしか当てはまらないし、それに小学校まで大阪に住んでいて、た まに関西弁が出るんですけど、大丈夫でしょうか?」
「関西弁?
特に書いてないから大丈夫よ。
それと、この好みにジャストマッチする娘なんていやしないわよ。
どこを重点的に考えているかでしょ。
私が見る限りでは、あなたなら大丈夫だと思うわよ。」
玲奈は翔平のことを良く知っているような口ぶりだった。
(あれ?
この人の好みの女性のタイプって玲奈さんに似ているじゃない…)
七海は、そう思うと少し複雑な気分で玲奈に質問を投げかけた。
「玲奈さん、この人を知っているんですか?」
「まあね。」
「もしかして、この人とHKLをされていた?」
七海は、もしそうであれば、大人の女性の玲奈と何かにつけ比較されそうな気がして、それは嫌だと心配そうな顔をして尋ねる。
「いやぁね。
そんなことないわよ。
それに、私、家事は苦手というか、大っ嫌いなの。」
玲奈は、七海にウィンクして見せた。
「そうなんですか…。」
七海は少しほっとして、また、少し考えてから尋ねた。
「あの…、私以外にHKLをやっている女性はいるのでしょうか?」
「そうね、七海さんが決まれば、4人目かしら。
HKL自体、風俗業と誤解され、変な人が集まると困るから大っぴらに宣伝できないし、女の子も口の堅い真面目な娘しか誘わないから。」
「でも、すでに3人の方が、これをやっているんですか?」
「そうよ。
長い人で、もうすぐ1年になるかしら。
短い人でも半年くらい。」
「トラブルは?」
七海は、それが一番心配だった。
最初の印象は良くても、豹変して暴行されたり痛ましい事件を、最近、よく耳にしていたので、心配で仕方なかった。
「まったくないわよ。
家主さんたち、みんないい人だから。
それに、事前にちゃんと確認しているから安心よ。」
「そうなんですか…。」
七海は、また、考えこみ、玲奈を見て小さく頷いた。
(会うだけ、会ってみようかぁ。
それに、すぐに契約しなくてもいいんだし、ダメなら玲奈さんが責任もってお断りしてくれるっていってたし。)
「そうそう、ちゃんと最後まで眼を通したわよね?」
玲奈は真顔で七海に尋ねた。
玲奈は、自己紹介シートの最期の部分の性に関する記述のことを言っていた。
項目は5つで、
1番目が性癖に関すること。
性癖とは緊縛、鞭打ち、ロウソク、浣腸プレイなどのセックスの際の癖、またコスプレマニアや赤ちゃんプレイ等の希望などの記載。
2番目は、好きな体位。
3番目は、何でも記載で、ムードを大事にするとか、何かの芝居掛ったことをするとかセックスに入って行く際に希望していることを記載
4番目は、セックスの際、自分はSなのかMなのかの自己評価。
5番目は、性欲についてで、これも自己評価で、性欲が強い方か弱い方か等、正直に記載するところがあった。
翔平は、1~3番目の欄には「特になし」と記載していた。
七海は、その欄を思い出し、少し恥ずかしそう頷いたが、特になしだったので安心したのか、その下の項目までは気に留めていなかった。
下の欄。
SM判断では、翔平は“S”の○、性欲は“強い”に◎を付けていた。
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