第36話 覚醒の召喚士、悪魔の女王に襲われ、囚われる
修道士たちを石化させた後、彼らに続いて向かって来る冒険者の姿は、近くに感じられなかった。
「おかしいですね。ライゼル様のことを狙っておきながら、人間たちは個々に判断して動いているということなのでしょうか?」
「それはあるよ。以前俺が嫌な目に遭っていた連中もそうだったけど、彼らはまとめて向かって来ることが無かったんだ。それはどうしてか分かる?」
「……わたくしと悪魔のように、対立しているから……そういうことなのですね」
「そう。獣であろうとみんなが味方じゃない。もちろん、俺を狙うのは賞金とか世界平和とかで来ているんだろうけど、世界中の人間が一斉にかかって来るわけじゃないんだ」
「そうなのですね。徒党を組んで来れば勝率も上がるはずですのに、不思議なことです」
もし冒険者ギルドに入れていたとしても、スキルの差で自由に動くことは出来なかったのかもしれない。
所属しても、みんなが協力してくれるわけでもないと考えれば、いいも悪いも判断出来ないだろう。
村に近づいていたのは修道士だけだったこともあり、引き返して村に戻ると何かがおかしいことに気付く。
「ライゼル様、様子がおかしい気がします……わたくしは、宿を見て来ます」
「うん、分かった。俺は辺りを見回してみる」
村の真上を飛んでいるはずのムルヴは近くにいないし、出迎えてくれるはずのイビルの姿も見えない。
元々の住民というべきか、トルエノを除けばミンザーネ村にいるのは、アサレアとレグルスだけのはず。
廃村だったミンザーネ村の広さは、ありふれた小さな村そのものだ。
小さな宿と村人が住んでいた住居、外に通じる自由な出入り口が至る所にあるだけのシンプルな村。
そんな小さな村の住居にはアサレアが籠り、レグルスは朽ちかけた建物を直しているはず……だった。
「……合成士の娘も、イビルも人間の男もおりません。みな、どこかへ出かけてしまったのでしょうか?」
「そんなはずは……第一、村の外の守り神には何事も無かったみたいだし……ううーん?」
「で、では、どこに? 少なくとも人間のしわざでは無い気が……きゃぁーっ!?」
「――え?」
気づけばルムデスの体は、村の外に放り出されていた。
彼女は訳も分からずに放心状態となっていたが、すぐに俺に気付いてくれた。
「ル、ルムデス! 大丈夫?」
「は、はい……今すぐお傍に戻――あっ!?」
え、あれ? 暗闇!? んんん? 何か前もこんなことがあった気が……
いや、そもそも俺は最強になったんじゃなかったっけ?
これから世界を支配していくつもりでいたはずなのに。
気づいたら闇黒に囚われているとかどういうことなのか。
「くくく……召喚士ライゼル」
「――って、トルエノ? 何だ、そうか。こんな手の込んだことをするのは君しかいないよな」
「ライゼル、キサマの望みを叶えてやったぞ。我の望みであるキサマの覚醒を、今すぐここでしてもらう」
「え? 俺の望み? 何だっけ……それにトルエノの望み?」
「くっくっく、受け取れ!」
何も見えない闇黒世界に何故か招待されてしまった。
いつもの姿ではなく、妖艶なトルエノは女王ともいうべき姿に戻っている。
受け取れと言い放った彼女は、手の平をどこかにかざしながら『くくく』と笑っているようだ。
「……来るぞ、受け止めろ」
「なっ!? うあっ!? うあああああ……! し、痺れる……雷を落とすなんてひどい。それに……う、動けない!?」
「くくく……ライゼル、キサマは最強となり世界を支配する覚悟を決めた。だが、そうさせたのはキサマの甘さによるものだ。我が望んだ覚醒は人間としての甘えを消すことにあった。それが消えないどころか、村にノミを住まわせ、呑気にしているではないか! キサマは間の抜けた腑抜けと成り下げた」
「い、いやっ……レグルスは職人だし、拠点作りの協力を……」
「黙れ! 覚醒しないキサマを待つのはやめだ。我はキサマを闇黒に閉じ込め、覚醒を求む。その為の奴もわざわざ戻してやった。そいつと戦い、戦って覚醒を果たせば元に戻す。せいぜい存分に戦え! 我をライゼルのモノと認める為にな!」
闇黒の中にあって、話す相手の姿しか見えなかった視界。
そんな視界が徐々に薄まり、開けて来たかと思えば、思い出したくも無い男たちの姿が見えて来た。
俺の前に立ち塞がったその男たちは、トルエノや俺が灰にしたはずのオリアンとルジェクだった。
「へっ、最弱ライゼルと戦えることになるとは思わなかったぜ」
「獣人化した牛にやられちまったが、最弱野郎とタイマンなら負けるはずがねえんだよ!」
妖艶なトルエノは後方で期待に満ちた目を見せながら、腕組みをして微笑している。
灰にしたはずのルジェクと、地中に呑み込まれたオリアンは最後に見た姿と変わっていない。
イゴルだけがいないのを見ると、冥界に囚われた身をここに呼ぶことは出来なかったとみえる。
「な、何で……何で二人が」
「くくっ、キサマの復讐心の多くを占めているのは、その二匹だと思っていた。一匹目は我が倒し、二匹目はアステリオスが滅した。だが、キサマ自身が納得したようには見えなかった。そうだろう?」
「そ、それは……」
「ここでなら庇う人間もいなければ、口うるさいエルフもいない。ここでキサマの真の実力を示せ! 二匹をキサマ自身の手で滅することが出来れば、間違いなく覚醒を果たすことだろう」
「か、覚醒がどういうことなのか分からないけど、もう一度二人を灰にすればいいだけのことだ。そうだろ?」
「灰には出来ない。ここでは人間らしく戦え! その二匹はすでに灰と化している。意味が分かるか?」
いないはずの存在が、闇黒世界で戻った?
それはともかく、召喚はここでは上手く行きそうにない。
トルエノの言う通り、実力で二人を打ち倒すしかなさそうだ。
「オリアンとルジェク……お前らは俺の手で、冥界送りにしてやる! イゴルにはすぐ会えるはずだ。会いたいだろ?」
「ちっ、最弱野郎がいい気になってんじゃねえぞ! お前にやられたんじゃなくて、そこの悪魔に俺は落とされただけだからな! 強いってんなら、かかって来いよ! 村に追放されまくりのライゼルがよ!」
相変わらず頭が足りなさそうな言葉でしか、俺を罵ることが出来ないオリアンはすぐに倒せそうだ。
「ハッ、まさかてめえごときが悪魔を使役していやがったとはな! 知ってるか? てめえはロランナ村からはいなくなって欲しい存在だったんだぜ? お優しい村人と、家畜だけは大人しかったから知らなかっただろうけどなぁ? へっ! イゴルが威張り散らしていたのは強かったからじゃねえ! 俺の方が何百倍も賢かったからに過ぎねえんだよ! このクソクズの低級最弱卑怯野郎が!」
なるほどと言わんばかりに、ルジェクの怒りと不満がぶちまけられた。
村にいてスキルが上がらずに弱かった時は、こいつらの罵りが恐怖だった。
しかし今これを聞いても、怖さを感じないし、何度でも慈悲を与えたくなる程に憐れになってしまう。
「はは、最弱野郎か。懐かしいなぁ……それじゃ、物理でも何でもいい! かかって来ていいよ?」
『フフッ、我が主ライゼル様の心はすでに覚醒しておいでですのね。残るは――』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます