第37話 覚醒の召喚士、闇黒を支配し、闇に呑まれて闇に堕ちる
「……ったくよぉ、イゴルがグズグズしやがるから、俺が真っ先に最弱野郎を村から追い出して追い詰めたっていうのによ! よく分かんねえ化け物にやられちまうとか、おかしな話だよな! なぁ、ルジェク?」
「全くだな……少しばかし精霊召喚が出来るからって、勝手にリーダー面しやがった挙句、ライゼルに泣き入れて冥界送り? 情けねえ野郎だぜ! 俺らは冥界なんぞに行かずに、最弱野郎をぶっ潰して甦ってやるよ! そこにいる姉ちゃんが、そういう取引をしてくれたのは幸運だったぜ! 牛じゃなくライゼルをこの手で潰せるんだからなぁ!」
トルエノをチラッと見ると、やはり『くく……馬鹿め』といった凍えるような目をしている。
俺のことを見ることなく、結果が分かっているかのようにルジェクたちを眺めていた。
「おらよっ! 俺の蹴りを喰らわせてやる!」
ドガッ……! などと、鈍い音を出して図体のデカいオリアンが俺の腹の辺りを蹴って来る。
「ちっ、オリアンに先を越されるとはな。最弱ライゼル! てめえは弱い以前に、あの英雄が始祖ばかりのロランナ村にいながらにして、弱すぎる野郎が召喚士をやろうとした時から、気に入らねえ奴だとずっと思っていた! 弱い野郎は黙って俺らに守られるクズども……村にいるだけの村人で過ごしてりゃあ良かったんだよ! 何が悪魔使役だ、くそが! だが、残念だったな?」
「残念? はは、何が残念なんだ、ルジェク?」
「てめえは俺らに殺されるべきだったってことだーーーー! くそがー!」
「闇黒世界だか何だか知らねえが、誰にも知られずにライゼルを消してやらぁー!」
よほど俺を目の敵にして、いつまでも昔の姿を忘れないルジェク。
ルジェクに便乗するかのように、オリアンが体重を乗せて覆いかぶさりながら、俺の動きを止めようとしている。
「わははは! どうだ、俺からの羽交い絞めはよ?」
「よぉし、オリアン。そのままライゼルを抑えてやがれ! 豚みてえなお前ごと、燃やしてやるよ!」
「な!? や、やめろ! お、おい、ルジェク! お、俺らは仲間だよなぁ?」
「てめえなんざ、弱すぎて仲間と思った試しなんかねええ――! 死ねっ! 豚ども!」
オリアンに羽交い絞めにされたまま、ルジェクは両手に炎属性を出していて、魔力の許す限り俺に向けて放ち続けて来た。
「はははは! 死ね死ね死ね! 燃えやがれ、豚が!」
「うああ、ぐあああ!? く、くそおお! な、何で俺はまた、くだらねえモンで消えなきゃならねえんだーー!」
ルジェクの放った炎属性は、身動きの取れなくしたオリアンの全身に燃え広がり、瞬く間に焼失させた。
「はー、はーっ……ざまぁねえな、豚野郎なんざ、初めから仲間だと思ったことなんてねえよ! ……わははは! ついでにライゼルも燃やし尽くすことが出来たのは気分がいいぜー、くそどもが! そこの悪魔の姉ちゃん、俺を現世に戻せ! 焼失させたぞ? おい!」
『焼失? 図体のデカいノミならすでに冥界に送られたが、貴様の目は節穴か?』
「あぁ? 何言ってやが……!?」
「……所詮、ルジェクはそんなもんか。醜い上級召喚士たちの関係など、今やどうでもいい」
御託も必要なければ、命乞いも無用。
最初から最後まで、かつて仲間だった頃の感情を見せることが無かった人間に、うんざりした。
『さぁ、我が闇黒の主様……全てを支配してくださいませ』
「ラ、ライゼル……て、てめえ、もう召喚士……いや、ただの人間じゃねえ」
「闇黒より来たれ、我が名に従いし次元の悪魔、ディアベルよ……生をも持たぬ愚かなる者を冥府の闇へと届けよ!」
「うぅぅあぁぁぁあ……ぁぁぁ!?」
全ては茶番、全て悪魔女王であるトルエノによって、望まれの結末へと導きだされたらしい。
「フフフ……闇黒世界を支配されたこと、我、トルエノ・キュリテは嬉しく思いますわ……」
「何故、あんな無駄なことを?」
「あんなノミでも、心のどこかに期待をしていたのでございましょう? でもそれは無駄に終わった。そういうことですわ。所詮、闇黒を支配し、覚醒を果たされた主様には取るに足らないノミ」
「……みんなはどこだ?」
「フフ、闇黒を支配してもなお、人間とエルフを気になさるのですか? ここで我と二人で過ごすのも悪くない……そうお思いでは?」
「悪くはない……でも、俺は最強となっても、人間だ。トルエノ! お前の思い通りにはしないからな!」
二人、いや……俺をこんなことにさせた上級召喚士たちは完全に闇に葬り去った。
だけどどうにもトルエノの意図が掴めないでいる。
確かに復讐だけの奴等は消したというのに、ミンザーネ村に戻れる気配が無い。
「くくく……ライゼル。我はキサマを闇黒支配の王と認めた。だが二つの契りを済ませてもなお、我との結びは強くならぬ。飼い殺すことも簡単では無いようだ……」
「え、飼い殺……?」
「ウフフ……ライゼル、今は眠れ……」
「……んぐっ!?」
「ハァっ……くくく、我の贄を注がせてもらった。キサマと我の深みが目覚める時、我もキサマも人間を滅ぼす存在として目覚めるだろう……今は眠れ――愛するライゼル、我が主――」
悪魔の女王であるトルエノに救われ、助かるはずの無かった俺が最強となれた。
闇黒を支配し、かつて共にスキルを上げる努力をした上級召喚士たちも全て葬り去った。
召喚も俺自身の強さも、まだまだ力の片鱗を示していない……
光のルムデス、イビル、アサレア、ムルヴ……彼女たちが気になるも、俺の意識はトルエノの捧げによって全てを堕とされた。
――トルエノの狙い、そして再び目覚めた時、俺はどうなっているのか……
闇に呑まれた今となっては、どうするべきかの術も無く、ただ深く眠るだけ――
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