第32話 最強召喚士、全世界のギルドと人間を敵と認める

 俺の敵は俺を村から追い出し、罵り続けた上級召喚士たちとギルドマスターだけのはずだった。


 呼び出した獣たちの力と、契りによる効果で俺は最弱ではなく最強となれた。


 故郷のロランナ村と、そこに住む無関係な人たちのことを思って、ギルドを壊滅させたくない。


 そう思っていたのに……


「俺の甘さが裏目に出たっていうこと?」

「くく、それ以外に無いはずだ。あの三匹のノミども以上に存在を消すべきノミを、キサマは見逃してしまった。甘い、つくづく見通しの甘い主だ」

「それにしたって早すぎる……イビルの幻覚とつるは、誰かが触れたら正気を取り戻すことは聞いていたけど、そこそこ強かった連中がいなかったのに、どうして世界中のギルドが俺を……?」

「キサマは、タチの悪いエルフに名をあげたのだろう? 闇エルフとは名ばかりにすぎないが、相当気に入られたとみえる。どこにいようと、最強の強さを得ようともライゼルに近くありたいと思っているはずだ」

「ま、まさか……そんな」


 強さは大したことの無い闇エルフだった。


 俺を困らせるのが余程楽しいのか、それともそうやって気を引こうとしているのか、真相は分からない。

 

「トルエノは俺の命令に従うんだろ?」

「世界を支配する……人間にライゼル様の力を知らしめ、反撃の温床となるギルドとやらを無くすおつもりがあるのでしたら、我はあなた様に従いますわ。くくく……」


 世界を支配する……そこまでは正直言って考えていなかった。


 憎きあいつらを消し去り、弱い俺を消して悔しい思いをすることがないように、生きられればと思っていた。


 消しきっていないギルドの人間を半端に放置し、慈悲を与えて助けてやった。


 それなのに俺のことを、災いと認めて狙って来る人間たち。


「何でなんだ! どうして俺が悪い感じになっているんだよ!」

「……ラ、ライゼル? 落ち着いてよ。どうして怒っているの?」

「アサレアは落ち着いていられるのか? 全世界の人間が、俺が入ることが叶わなかったギルドの連中が、俺を敵と認めて、向かって来ようとしているんだぞ!」

「ライゼルは認められたくてギルドに入りたかったの?」

「それは……」

「スキルが低すぎて追い出されたんでしょ? でも今は最強になった。それなら、ギルドに入る必要が無い人間でも、強くなれたってことを認めさせたらいいんじゃない?」

「認めさせる? 敵として向かって来ている相手に?」


 アサレアの言う通り、俺はギルドに入りたかったのかもしれない。


 入ることで強くなれるんじゃなく、所属している人たちに認めてもらいたかった。


 そういうことなら、世界の全てに存在するギルドと人間たちに力を示す。


 世界を支配して、俺を最強の召喚士として認めさせてやる!


「それと、むやみやたら灰にしないでね?」

「え?」

「人間を灰にするのが力の見せ方って言うなら、それだけじゃ最強って思われないんだからね?」

「他にどうしろと……」

「ライゼルは召喚士なのだから、強い獣たちで派手にやればいいんじゃない? それだけじゃなくて、世界を支配っていうなら、弱い人たちを守るのも支配っていうんじゃないかな」


 恐怖だけで支配するのは簡単だ。


 でもそれでは、あいつらと同じことをしているだけだ。


 世界支配の他に、もう一つ俺には気になることがある。


「トルエノ! お前に聞きたい!」

「くく、我を求めるか?」

「俺の両親……いや、父親のことを知らないか?」

「転生者と言っていた者のことだな? むしろ我が聞きたいくらいだ」

「俺の父親はかつて、闇の支配者と言っていた。母は光の王だったと聞かされていた。闇の支配者だったとすれば、俺が闇に濃いことも納得出来る。トルエノなら知っていても不思議はないはずだ」

「支配者……闇黒も狭き地では無い。支配者など、数多くいるだろう。だが、我とここまで契りの深みを持てるライゼルには、妙な近さを感じていた」


 偶然とは思えないし、母のこともルムデスに聞けば手がかりを得られるかもしれない。


「くく、キサマの親は姿を消しただけで、命を落としたわけではなかろう?」

「も、もちろん! 出来るなら、親に会ってこんな運命にしたことを問い詰めたい」

「転生者が再び戻っている……可能性は拭えないか。くっくっく、いいだろう! 我は闇の支配者たる男を追い、キサマの前に連れて来てやろう」

「で、出来るの?」

「キサマでも出来るはずだが、闇黒にいた我の方が探すことは容易なはずだ。光の方はエルフにでも頼め!」


 これで闇と光をこの身に宿すことになった運命を、知ることが出来るかもしれない。


 それだけではなく、両親には安心してロランナ村に戻って来て欲しいと伝えたい思いがあった。


「ライゼルの望みは我が聞き入れたぞ。では、キサマも我が主として我の望みを叶えると誓うか?」

「お、親に会えるかもしれないなら、俺は誓う」

「ならば、世界を支配しろ。そこの女が言った通り、ノミどもを灰にするだけでは支配するに値しない」

『――む。アサレアって呼びなさいよね! 私にも名前があるんだから』

「くく、ライゼルに似て生意気な女だ」


 会話だけ聞いていれば、今にも喧嘩になりそうなのに意外と仲がいいみたいだ。


 支配することのやり方は何故か一致しているらしい。


「トルエノとルムデスが親を探しに行くとするなら、その間は俺の近くにはいない?」

「寂しいのか? 我はキサマが求めればいつでも応じるぞ! 口づけだけでは足りないか?」

「え、いや……」

『ちょっと、ライゼル! 口づけって何? こんな小さな女の子と何をしているわけ?」

「いや、あの……トルエノは本当は女の子じゃなくて――」


 アサレアには大人になった姿を見せていないのか?


 俺の考えていることが分かっているのか、トルエノは『くくく』と笑っているようだ。


「え、えーと……と、とにかく、俺は世界の連中と戦って全てを支配する。それでいいんだよね? アサレアにも覚悟はあるんだろ?」

「言ったでしょ? 帰る場所はもう無いって。ライゼルは危なっかしいし、その女の子の言いなりになってるみたいだし、時々人が変わるし……私がライゼルの傍にいてあげないと泣くだろうし」

「な、何だよそれ~」


 世界を支配すれば、両親は姿を見せるかもしれない。


 その可能性を懸けつつ、まずはロランナ村のギルドを無くすことから始めるしかなさそうだ。


「最強召喚士ライゼル。我の望みを叶えてみせろ! さすればキサマの望みを我が叶えてやる!」

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