第31話 最強召喚士、悪しき男の終わらぬ最後を見届ける
「……あの犬、お爺さんは冥界の?」
「くく、そうですわ。ライゼル様の闇支配は冥界にも届いたということになりますわね」
「そ、そうか」
「フフ……あなた様の手で灰とされますか? 惨めで無様な醜態を見て、慈悲をお与えになられたのでしょう? それでも納得されていないように見えますわ」
「イゴルは冥界でどうなる?」
「では我の体にしっかりと抱きついて下さいませ……フフ、主さま自らで手を下されるのであれば、クリュメノスもサーベラスも大いに悦びますわね」
「あぁ、頼む!」
冥界の番人に連れて行かれたイゴルの姿は憐れなものだった。
それでもやはり生かしたまま冥界へ連れられたのは、俺の中では納得がいかなかった。
◇
「……ライゼル、助け、助けて……あんん? 何だ此処は? 暗くて見えねえな。わははっ、何だ。ライゼルの幻覚か? 何だ、そういうことかよ。あの爺も猛獣も幻覚だったってわけか! 下らねえことしやがって」
「本当にそう思うか? イゴル」
「てめえ、ライゼル! 下らねえ幻覚なんか見せやがって! 早くこんなじめじめした暗闇から出しやがれ、最弱野郎……がっ!? が、がはっ……」
「……つくづく救いようのない男だったか。これが幻覚だとでも? 今、俺が絞めている首は誰の首だ?」
「ぐがっ……は、はなしやが……が……がはっ」
「聞け! 俺がイゴルを灰にすることは容易いことだ。そうしなかったのは慈悲だ。そう言ったはずだ」
「ラ、ライゼ……ま、まさか、ここは……」
「ようやく気付けたか? 冥界に招待してやった。異形の者たちが、貴様を歓迎している。貴様に与えた俺からの慈悲は、ここでどんなに苦しみ、もがいても死ねないことだ。喜べよ、イゴル」
「ひ、ひぃっ!? ラ、ライゼル……あぁぁぁぁ――」
冥界のモノが
泣きじゃくっていた男は、この期に及んでも謝る気配を見せなかったことが決め手だった。
『冥界の主、ライゼル様。お見事にございます……灰と化したアレは時が経てば、ここに見える冥界の門より中に戻りまする。死してなお、ここから出られることはありませぬ……何度も意識は甦るも、地獄にすら辿り着けないのです。門にはサーベラスが見張り、中は我等がおりますゆえ……ライゼル様には地上を支配していただきとうございます』
『冥界のクリュメノス、その役目を全うせよ!』
『御意に……』
かつての召喚士仲間、オリアンとルジェクは灰となり消え失せた。
しかし、イゴルは死してなお、冥界スパイラルに堕とすことを決めた。
「はぁ……疲れた」
「くく、流石我が主とも言うべきか。最後には非情を捨てたと絶望するところだったが、我の見込んだ男に誤りは無かったようだ」
「最後は俺の手で灰とすることを分かっていたの?」
「そうすると思っていた。そうでなければ、甘いライゼルは悔やむだろうとな」
「……そ、そうか――むぐっ!?」
「んふふふ……光のエルフごときよりも、我の”味”を堪能頂きたく思いますわ……」
「はぁ、はぁはぁ……」
トルエノの口づけが現世への帰還の表象となっていたのか、目覚めた時には地上へ戻っていた。
「バリーチェ! お、起きるのだ!」
「んん~?」
「はわわわわ!? み、耳! 余の耳に触れるでないと何度言ったと……むぅ~」
「もふもふで気持ちいいなぁ~……」
「ふみゅぅ……こ、こんなことをされては余はどうにも出来ぬのだ」
「うーん? あれっ? ムルヴ……?」
「バリーチェは余を見初めの相手としたのだな? いいのだ、余はそなたを許すのだ」
「って、み、見初め……?」
トルエノと一緒に冥界でイゴルを灰にしてきたと思いきや、何故かムルヴを見初めていた。
「えーと、他のみんなは?」
「ふむ? バリーチェはかなりの間を眠っていたのだ。他の獣やカルナは、村とやらで休んでいるのだ」
「そ、そうか」
闇支配をして冥界に辿り着いたものの、体自体は生身の体だった。
それだけに見えない疲れは、相当に負担を強いていたらしい。
「俺も村に行くよ。ムルヴ、君もおいで」
「もちろんなのだ」
ミンザーネという村で、他のみんなは体を休めていた。
アサレアによれば、イゴルの呼びかけで来ていた冒険者は、無事に各地の村や町に戻ったらしい。
「もうー! ライゼルは人間なんだからね? 闇だか光だかは知らないけど、調子に乗ったらダメなんだから!」
「ご、ごめん」
「わ、分かればいいの! と、とにかく、体は平気なのね?」
「うん。すごく眠っていたみたいだから、少し怠いけど元気かな」
ルムデスの口利きで、メーテウスの人たちから世話を受けていたアサレアは、相変わらずだった。
「ライゼルちゃん、えへへ~おかえり!」
「た、ただいま?」
「うんうん、さっすがライゼルちゃんは最強さんだぁ!」
「あ、ありがとう、イビル。キミのおかげで助かったよ」
「まぁまぁ~! 甘える? 甘えちゃう?」
「い、いや、今はやめとくよ」
宿屋に身を寄せているのは、アサレアとイビルだけで、トルエノとルムデスの姿は見えない。
そう思っていたのも束の間で、外からトルエノの声が聞こえて来た。
外に出ると、空を見上げながらトルエノはまたも嬉しそうにしている。
「くくく……ライゼル。面白いことになっているぞ。幻獣の背に乗って、空から地上を眺めてみるがいい」
「へ? 面白いこと?」
「と、ところで、ルムデスは……」
「闇エルフを追って、どこかへ消えた」
「ええ? またユーベルのしわざ?」
トルエノに言われた通り、ムルヴに乗って上空に上がってもらうと、何ともおかしな光景が見えた。
「な、何だこれ!? 何で……」
「どうしたのだ?」
「な、何でもないよ」
だからミンザーネ村にみんないるのか……
「ムルヴ、村に降りてくれる?」
「うむ」
村に降りてすぐに彼女の元へ近づくと、恍惚な表情で俺を見ているトルエノの姿があった。
大人な姿ではなく、女の子の姿に戻っていたものの、気配そのものは以前よりも恐ろしく感じる。
「フフ、我の二つ目の望みがこの地に迫っていますわ。そうなることが運命……フフフ」
「な、何で、君は前々から気付いていたのか?」
「我は言ったはずですわ。甘えを残し遺恨を残せば、たとえ力無きノミであろうと、集結すると」
「それって、ロランナ村の……!?」
「キサマの憎き相手は全て消した? くく、違うはずだ」
「ギルドマスター……か」
「ギルドとやらが再建出来なくとも、ノミどもが頼っていた雑魚召喚士の仇を取るはずだ。違うか?」
何だよそれ……
上空から見えた光景は、イゴルが集めた数よりも多く、各地で増え続けている冒険者の集団だった。
「こ、ここの村の人間は?」
「廃村だ。キサマとノミが戦った地に近かったからな。すでに逃げていたと見える」
「そんな――」
憎きイゴルを冥界送りにしたのに、俺の甘えがこんなことになっているなんて。
「くく、キサマの敵は人間だ。キサマがこだわり守って来たギルドとやらが敵となったわけだ」
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