第27話 最強召喚士、デーモン小娘に見抜かれる

「――ほぅ……ではキサマにとっての未練は消し去ったと?」

「俺にとって、ロランナ村は生まれ育った村であることは変わりない。だけど、帰る場所は必要ないんだ」

「だが、キサマに襲い掛かったノミがいたようだが? しかも妖精に守られたと聞いた。その上、ノミを生かしたままで村を去ったともな! 未練と遺恨を残した……後々になって、何かが生じると考えなかったのか?」

「再建は出来ない。あんな奴一人だけでどうにも出来ない! だからだよ」

「くくく、キサマの甘さが後々になってカタチにならなければいいがな……」


 ロランナ村に戻った俺とアサレア、イビル。


 空で遊ばせていたムルヴに乗って、トルエノが見つけたとされる場所にたどり着いていた。


 場所を見渡すよりも先に、トルエノは俺に説教をし始めた。


「ルムデスはここには?」

「エルフと我が仲良くいるとでも?」

「だ、だよねぇ……」

「フ、大方だが闇エルフの足取りでも追っているのではないのか? くくっ、無駄なことだ」


 闇エルフのユーベルは俺をどこまでも追いかけて来ると言っていた。


 彼女のいうことが本当なら、どこに行っても常に見られていることになる。


「そ、それはそうと、こんな人間が多くいる城の近くで戦いを?」


「不満か? だが山でやれば植物妖精とエルフを敵に回すぞ。我が知り得る限り、水辺が近い所で戦うことに何の得も得られぬし、召喚で呼べる獣も限りがある」

「で、でも、ここで魔法だとか強い獣を呼んでも大変なことになるよね?」

「キサマ、人間をむやみやたらに灰にするなと我に言ったが、あのノミはライゼルを殺すことしか頭に無いのだぞ? どこを選んだところで、あのノミには関係が無いはずだ」

「そ、そうか」

「案ずるな。確かに城が近い……だが、それだけ地盤が固い場所でもある。人間というものは、戦いを好むのだろう? 城を建てる時も戦いやすい場所を選ぶはずだ」

「そうなんだ……」

「くく、ライゼルは召喚に関係なく、人間の常識を持っていないということになるか。面白い男だ」


 トルエノが選んだ場所は、ロランナ村から絶対に歩いて行けない辺境の地、メーテウス城。


 ムルヴに乗らなければ来れなかったくらいに、遠い地にあった。


 場所の指定先をイゴルに伝えたのは、闇エルフのユーベルだった。


 ルムデスの言っていた通り、俺が伝えようと思えば、その声が闇エルフの彼女に伝わるらしい。


「我はノミの言葉に従うつもりは無い。だが我は、キサマの覚醒の力を眺めることにした。ライゼル、キサマの召喚の言は、ノミごとき召喚とは質が異なる。それ故、牛もすぐには覚醒しなかった。その意味が分かるか?」

「あの牛は、トルエノが雷を起こして獣人化してくれたよね?」

「……違うな。キサマの呼び出しの時点で成立していた。キサマの召喚には遅れが生じているのだ。くくく……それを利用することで、次のノミも油断をすることだろう」

「で、でも、覚醒には時間がかかるとしたら、その間はどうすれば?」

「召喚以外に属性も出せるはずだ。我とエルフを支配したのだからな!」


 試したことは無く、そもそも属性魔法は出せないと思っていた。


 イゴルよりも、他の連中には通じるかどうかが問題かもしれない。


「ライゼルちゃん~! こっちこっち! おいで~」

「え、えと……」

「行け。我と離れたくない気持ちは分かるが、キサマは獣と妖精を従えし主だ。主らしくして来ればいい」


 離れたくないかどうかは何とも言えない。


 それでも俺に支配されることを望んだトルエノとルムデスの二人は、そうした気持ちを隠さなくなった。


「では思う存分、撫で回せ」

「へ? あ……」

 

 トルエノは俺に黒翼を撫でられたい時だけ、元の姿に戻るようになった。


 二つの契りと支配によって、彼女自身も闇黒にいた時の力を取り戻したらしい。


「フフフ……そう、それでいいですわ。ライゼル様のその手触り……召喚で消したノミどもの影を頂くとしますわ」

「え? 影?」

「フフ、それこそ未練という名の影ですわ。そうしてあなた様の力となる……」


 妖艶漂うトルエノは、いつもの女の子じゃないだけに中々慣れることが無い。


 悪魔としての力がどれほどのものなのか未だに分かっていないだけに、ずっと緊張したままだ。


「いいですわ……さぁ、妖精の所に行かれませ」

「は、はい」


 トルエノに解放され、イビルの元に近づくと何やら地面に埋めているように見える。


「それは?」

「ライゼルちゃんは一人で戦わないと駄目なのよね?」

「まぁ、うん」

「でもねでもね、その人間は一人じゃないんだよ? 最弱で最強のライゼルちゃんの味方を増やしておこうと思ってるんだぁ~エライ、偉い?」

「味方って、土の妖精か何か? で、でもイビルが痛みを伴うことは駄目だからね?」

「うふふ~いい子、いい子! ライゼルちゃん頑張れ~」

「ど、どうも」


 ロランナ村での守られから、イビルは俺に接するたびに頭を撫でるようになった。


 何を植えているかまでは聞けなかったけど、恐らくはギルドで見せた蔓のようなものだろう。


 地面のことはイビルに任せ歩いていると、物珍しそうに俺を見に来る者がちらほらといることに気付く。


 ここが戦いの場になることはメーテウス城の人間にすぐ伝わってしまったらしい。


「ライゼル様。ここの戦いが済んだ時には、話し合いをする必要があります。その役目をわたくしに……」

「ルムデスが?」

「ええ。わたくしは神聖のエルフですので、人間のみならず、異種族とも話をすることが出来ます。お任せいただけませんか?」

「それはいいけど、君が危険な目に遭わないかも心配だからね?」

「ありがたきお言葉です。ライゼル様、悪しき人間を消し去った後は他種族を味方にお取り入れなさいませ。わたくしたちは、主様の為に働きたくございます」


 人間が俺の敵になって、人外が味方に……?


 考えたことは無かったけど、イゴルと行動を共にしている連中を消してしまうのはそういうことなのか。


「ライゼル様……わたくしにお触れ下さいませんか?」

「こ、こうかな?」

「きゅぅぅん……」

「へっ? だ、大丈夫? ふ、触れただけで痛みを感じるとかかな?」

「い、いえ、耳に触れられることはほとんどございません……生涯、ライゼル様のみにございます。どうか、お気になさらずに力をお蓄えくださいませ」

「そ、そうだね」


 トルエノは妖艶、ルムデスはどんどんと甘えてくるようになってしまった。


 彼女たちはそれだけ俺に期待し、従う意思を示した。


 後はイゴルが来るのを待つだけだ。


「バリーチェ、アレは何なのだ?」

「あぁ、ムルヴ。アレって?」

「奇妙な人間が近づいているのだ。姿を上手く隠している様にも見えるぞ? 余の風で払うか?」

「いや、大丈夫。ムルヴは空を飛んでていいからね」

「む、そうか? 余もバリーチェの獣……ではなく、従う者なのだ。余を呼ぶのだぞ?」


 神鳥のムルヴは人間の姿の時こそ少女になれるものの、空を飛んでいる時はとてつもなく大きい。


 彼女は召喚と戦いの場に近付けさせない為にも、空を飛んでもらうことにした。


 それにしても、イゴルは他の上級召喚士とは頭のキレが違うことを意味するらしい。


「くくく、アレはシーカー《索敵者》だろう?」

「え?」

「小賢しいノミの割に、多少はキレるノミか。それもライゼルに対して油断をしないとはな」

「俺一人だけに念入りに探りを入れて来た? そんな……」

「卑怯なのはノミの方に違いないが、ライゼルが我を従わせないようにシーカーを寄こしたのだろう」

「一人なのは俺だけなのに……」

「くく、ノミどもが来たか」


 消し去るのは簡単だ、そう言いそうなトルエノは俺とイゴルたちを交互に見ながら不敵に笑っている。

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