第28話 最強召喚士、悪しき召喚士と対峙する
「へっ! 随分とおあつらえ向きじゃねえかよ? なぁ、最弱ライゼル」
「気に入ったか? イゴル、お前の希望通りに事を進めただけだ。それでも俺を疑うとは、お前こそ顔に似合わず慎重じゃないか」
「抜かせ、ガキが! 俺よりも年下の最弱下級召喚士が俺らに逆らいやがって! 弱い野郎は弱いままで牛でも飼ってれば良かったんだよ!」
「はは、それにしてもたった5日で200人とは、人望の無いイゴルにしては上出来じゃないか!」
「てめえ一人ごときに多すぎたくらいだけどな! 勿体無かったかもな」
イゴルはオリアンやルジェクよりも、スキルが高く精霊召喚も出来たことから、奴等よりは話の分かる奴だとばかり思っていた。
どうやらそれは、俺の見込み違いだったらしい。
二人よりも強い、ただそれだけで威張り散らしていただけに過ぎなかった。
集められた他国のギルド連中は、本性を見せられることなく集ったのだろう。
「シーカーまで配置するなんて、俺がそんなに怖いのか? イゴル」
「弱い野郎は下らねえことを考えやがるからな! てめえの弱っちい獣が途中で何かするかもしれねえしな。弱い野郎は卑怯なことを平気でしやがるから、これは俺の自衛だ」
「自衛? よく言う。最弱だと思っているなら、あんなに助っ人を集めないはずだ」
「助っ人なわけが無いだろうが! 奴等は暴れられりゃあいいだけの人間だ。普段からモンスターを相手にしまくっている奴等は、戦うことに飢えてるだけのことだからな! 喜べよ、ライゼル」
この世界にはどれくらいの国と町があって、ギルドが存在しているのかなんて知る由も無い。
何かの言葉で奮わせ集ったとすれば、自分たちに降りかかる事態は想定していないのだろう。
「連中を奮い立たせたのは金だろ?」
「……さぁな。能書きはいい。俺と戦う前に、あいつらを俺の目の前で消してみろよ? 出来るもんならな! たとえ出来なくても、オレがお前を殺す。あいつらにボロボロにされて泣きじゃくっていても殺す!」
結局は、イゴルにいいように使われる連中らしい。
見たところ、魔法士の前には騎士がいて、戦士の後ろで弓使いが陣形を組んでいるようだ。
それ以外にもシーカーが俺の周りに目を光らせ警戒しているし、回復術士も揃えている。
俺自身は冒険者と組んだことは無いだけに、攻撃に備えている光景を見るのは不思議な感じだ。
『召喚士! 我等はお前に恨みなど無い。だが、ギルドに害を為す者を許すわけには行かない! ここまでの人数でするほどでもないのは承知だが、召喚士を甘く見るほど愚かじゃないことを伝えておく!』
重装備を身に纏った騎士の一人が声高に伝えて来た。
どうやらイゴルと遭遇したギルドで悪名を高めてしまったらしく、俺は討伐対象となったみたいだ。
戦う相手の総数は見渡す限りでは、200以上はいる。
俺なんかの為にと言いたいが、イゴルの戯言を信じた者たちに慈悲を与えるつもりは無い。
『俺はライゼル・バリーチェ。だが、イゴルに味方したお前たちの名を知る必要は無い! 影と化し、灰となることを覚悟することだ!』
(くくく……愚かなノミどもが群れを成すか。ライゼル、我はこの地に結界を張る。それだけだ)
(準備万端~!)
などなど、イビルとトルエノの声が聞こえて来た。
ともかく、戦いの地の城に住まう者に罪は無い。
そのことがあって、ルムデスには事前に話を通してもらっていた。
その結果、アサレアだけでも城に避難させることを許してもらえることが出来た。
「「かかれ!」」
冒険者の多くを占める騎士が整えられた列を乱すことなく、俺に向かって来ている。
騎士たちが進むと同時に、魔法士が詠唱を開始しているのが見える。
召喚士一人にここまで出来るものなんだなと、呆れつつ感心してしまいそうだった。
『生と滅……生を望む者ありきつつも、事ここに滅を与える……ルイン!』
召喚の言ではなく、闇支配の魔法使用で近づく騎士たちの地面が波打ち始めていく。
「「う、うわー!?」」
「「な、何だ!? じ、地面が動いている――?」」
騎士たちの足を止めると、詠唱を開始していた魔法士が見計らったようにして、一斉に属性魔法を打ち込んできた。
「「相手は一人だ! 全ての属性を魔力が尽きるまで唱えろ!」」
魔法士の詠唱により、炎、雷、土、氷の魔法属性が次々と、俺に向かって放たれた。
その隙に、足止めをくらっていた騎士たちが隊列を整えて、近付いて来ている。
「我らはあんたに恨みなど無いが、相手が悪かったな召喚士。こうでもしないと後ろに控えている上級召喚士さんが機嫌を損ねそうなんでね」
やはりイゴルから何らかの脅しと、命令を受けてのことのようだ。
魔法士からの魔法を喰らっている最中でありながら、騎士たちは容赦なく剣を構えだした。
「「はぁっはぁっ……こ、これだけ属性魔法を喰らったんだ! 傷を負わないわけが……」」
『名も無き魔法士ども! 俺に属性魔法は効かない! 全ての属性は無効化した』
「「ば、バカな……!?」」
「「そ、そんな」」
トルエノを支配した俺は、トルエノの得意とする属性を全て身の内に封じていた。
その結果、半端な魔力で放たれた魔法は無効化することが可能となった。
さらには闇支配によって、容赦のない攻撃を繰り広げられることが出来る。
『我、顕現せし闇黒の闇に請う。静寂を乱す悪しき者、大地を乱す悪意の人間を滅するものなり……』
トルエノの言葉が脳裏に浮かび、迫り来る騎士と後衛の魔法士に向かって言(げん)を唱えることに成功した。
召喚ではなく浮かんだ言を口にしただけだった。
俺に仕掛けて来た人間たちはことごとく、生気を失ったようにしてその場に次々と倒れ始めた。
(くくく、ライゼル。キサマ、呪術を使ったな?)
(あぁ、そうだ)
(灰にするでもなく、人間の形だけを残すとはな……それでこそ我の主と言うべきか)
無関係の人間をなるべくなら一瞬で消し去り、苦しませることなく消す。
その考えを変え、俺を舐め切っているイゴルを、精神的に追い詰めるやり方に変えることにした。
残る戦士と弓使いは相手にするまでもない相手。
それでもイゴルが惨めな姿になっていく様子を、眺めるのも悪くないと俺は思い始めていた。
(くっくっく、完全に闇を支配する主の姿を拝めることになるか)
憎きイゴル……楽に殺しはしない。
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