第10話 最弱召喚士、デーモン小娘に催促される

「ライゼル、キサマは本当に何も知らぬのだな?」

「い、いやー……村からまともに出たことが無くて」

「あらあら、ライゼルちゃんって無能なのねぇ」

「は、はは……キツイなぁ。日差しが出るまでの辛抱だからね?」

「まぁ! さすがに自覚があるのね~分かっているのなら、早くしてね?」

「す、すみません……」


 ロランナ村からの追手連中は、トルエノとルムデスの魔法によって消し去られた。


 正直言ってそこまでしなくても良かったと思っていたけど、一人でも村に帰ってしまえば、すぐにあの二人が俺を追っかけて来るという可能性もあったので、ギルド連中に対しての憐みや慈悲を持つことは無かった。


 イビル母さんは、俺をあの連中の所にぶん投げたくらいから相当機嫌が悪く、昼間でも毒舌を出すようになっていた。


 それというのも、トルエノが3属性を使ったことで気象が乱れてしまい、空一面が厚い雲に覆われているのが原因だったりする。


「ライゼル、4キロ先に大きな城があります。そこに向かわれますか?」

「城? というか、どこまでサーチ出来るの? エルフってすごいんだね。他のエルフもそうなの?」

「た、大したことはありません。それにわたくしは他のエルフのことは知りません。それよりも、ライゼルは城に着いたらどうなされますか?」

「と、とりあえず、宿を探しながら旅の為の準備を整えるとかかなぁ……」


 ルムデスは神聖のおさと言っていたけど、森かどこかの集落で暮らしていたんじゃないのかな。


 宿を探して旅と言ったものの、ロランナ村を追い出されてしまった以上は、帰ることを許されないだろうし、ルジェクたちやギルドそのものを敵にしてしまったのは逃れようのない事実。


 トルエノたちは俺が呼んでしまったわけで付いて来るしかないし、ここまで来たら世界各地を旅するのもいいかもしれない。


 ルジェクたちは必ず俺を追って来る。それまでにはもっと確かな召喚を出来るようにしたい。


「ライゼル」

「な、何?」

「随分大きな城のようだが、ここにキサマの敵はいないと言えるか?」

「ロランナ村から出たことが無いのに、敵も何も……」

「くくっ、まぁ、いい。キサマに降りかかるノミは灰にすればいいだけだ」

「む、むやみやたらと灰にしたら駄目だからね?」

「ふん、人間ごときに甘い顔をすればつけあがって痛い目を見るぞ」

「と、とにかく、城下町では大人しく子供らしくしててね」

「我にちょっかいを出さなければそうしてもいい。だが、ライゼルにちょっかいを出して来ても消す」


 悪魔であるトルエノは相変わらず言葉や態度にブレが無い。


 それでも不思議と怖さを感じないのは、最初に召喚したことが関係しているのかもしれない。


 俺のスキルのことも何か知っていそうだし、親のことも聞きたがっている以上は、素直に言うことを聞いた方が自分の為になりそうだ。


 しばらくして、あぜ道から綺麗に舗装された石畳の道に変わったと思えば、人の往来が賑やかになって来た。


「ほぅ? 人間ごときが城を築いたか」

「まぁまぁ~! 人間ってすごいのね~。ライゼルちゃんもすごくなるのねぇ」

「た、たぶん?」

「いえ、きっと凄くなるとわたくしは信じております。ライゼルと契ったのも、信じたからこそなのですよ」

「あ、ありがとう」


 召喚した獣たちに期待されている俺が一番弱いってことかな……


「つ、着いた!」

「ここを落として我の城にするのも悪くない」

「いやいや、他にもこういう所はあるだろうし、攻め落としちゃ駄目だからね?」

「……つまらぬ男め」


 山を削り取り、いくつもの住居や建物に守られているかのような城塞は、相当堅固に作られている様に見える。


 村から出たことの無いというのが、いかに駄目だったかを知る機会となってしまうほど、ここの城は大きいものだった。 


 城下町を往来する人々の姿を見ると、ほとんどは人間ばかりなこともあって、エルフであるルムデスは耳を隠すくらいの深いフードをかぶってしまった。


 通行証は特に必要が無いらしく、素直に城下町に入ることが出来た。


「あ、あの~ここは何という名前の町ですか?」


 そびえる建物や城を見上げているだけでは何も進まないので、まずは通りががった町の人に話しかける所から始めてみた。


「あんた、召喚士か? 珍しいな。ここは、ル・バラン城下だ。ギルドならこの通りを進んだ先にある。まずはギルドマスターに話を通しておくといい」


「えと、召喚士はこの町にはいないんですか?」


「見ての通りの城塞都市だからな。召喚や魔法なんぞに頼らなくても前衛だけで守れるわけだ!」


「――ノミごときで守れる? くくっ、笑わせてくれる……」


 何やら苛立っているトルエノを刺激しない為にも、とりあえず言われた通りにギルドに向かうしかないみたいだ。


「ん? あんた、子供連れ……いや、奥さん連れか?」

「あ、いや……その」

「――我がライゼルの子供? 消されたいのか?」

「あらあら、ライゼルちゃんの奥さまなのね~最弱の奥さまになってしまうの~?」

「ふ、二人とも落ち着いて……」


 トルエノの羽根は他の人間には見えないらしいし、イビルも普通の母さんにしか見えないだけに仕方ないかもしれない。


「――」


 ルムデスは悟られないように黙っているだけみたいだ。


「何だ、冒険者じゃないのか。宿なら城の中にあるぞ。泊まるつもりなら王に話を通すといい」


 親切に教えてくれた人に頭を下げて、城に向かうことにした。


「ライゼル、城の中に宿ですか?」

「ここは人間しか生活していないみたいだし、エルフは目立つから心配かな?」

「わたくしは別に……ですが、妖精は土の見える所を歩かせた方が良いと思います」

「え? どうして?」

「イビルさんはマンドレイクなのですよね? 召喚された時も土から出て来たはず……でしたら、今は土に触れさせて毒を抑えるべきです」

「そ、そういえばそうだった。もしかしてそれで毒が強く?」


 乱れた気象はここに来ても変わりはなく、太陽はもちろんのこと、水辺も少なかったことで、イビル母さんの毒はさらに強まりそうな感じだった。


「彼女を外に連れて行きます。ライゼルは悪魔……トルエノと城下町をお歩きになってはいかがですか? わたくしは、イビルさんを休ませた後に合流します」

「どうやって?」

「お忘れですか? わたくしはサーチに長けております。悪魔はともかく、契りのあなたを見失うことなどあり得ません」

「そ、そうか。それじゃあ、イビルを頼むね!」


 すっかり慣れてしまったせいか、彼女たちが獣であることをすっかり忘れていた。


 特にイビル母さんは、人間の姿の母さんにしか見えないだけに、マンドレイクであることすらも、言われてから気付かされたくらいだ。


「くく、我とキサマだけか」

「う、うん、ごめん」

「フ……エルフは本来、他種族と関わりを持たない。まして、人間どもが多くいるこの地では、大人しくしていたいのだろうな」

「そ、そっか。と、とりあえず、ギルドに行ってみてもいいかな?」

「キサマの村では追放されたのだろう? それでも未練があるのか?」

「そうなんだけど、今のスキルを見ておきたいし」


 今までは目を閉じただけでスキルの値がすぐに見えていたのに、トルエノたちがロランナ村の連中を消し去った直後から、スキルを見ることが出来なくなっていた。


 トルエノの言っていた覚醒とかが関係しているとしたら、しばらく見えないのかもしれない。


「……いいだろう。我はキサマについて行くまでだ」

「ありがとう、トルエノ」

「ところで、ライゼル。我の羽根は触れないのか?」

「へ? い、一応人前だからね。や、宿に行ったら触りたいかなぁ……なんて」


 実は密かに触れられたいのだろうか。


 彼女を初めて見た時から羽根を触りまくっていただけに、それがもしかしたら召喚士と獣にとっての何かの意味があるのかも。


「ならばいい。早くギルドとやらに進め」

「じゃ、じゃあ、行くよ」

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