第11話 下級召喚士、とあるギルドに誘われる

「……我が人間どものギルドに行っても意味がないな」

「え? 一緒に行ってスキルを確かめてくれないの?」

「宿が城の中にあるということなら、先に話をつけておく。キサマはとっととスキルを見て、城へ来い!」

「で、でも……」

「くくっ、何だ? 離れるのが辛くて寂しいのか?」

「そ、そうじゃなくて、俺一人だけで町を歩いて大丈夫なのかなって……」

「……すでにキサマはそこそこ危険なことにも耐えられる下級召喚士になったはずだ! 我がいなくても寂しくないのなら問題ないだろう! さっさとギルドに行け!」

「い、行って来るよ」


 何故か急に機嫌が悪くなったトルエノは、道行く人々に体当たりをしながら城の方に向かってしまった。


 それにしても彼女の中で俺は最弱ではなくなり、下級にランクアップを果たしたらしい。


 ル・バラン城下は迷うことの無い町の作りになっていて、石畳の道なりに真っ直ぐ突き当たった奥にギルドがあった。 


 ギルドらしき建物の前に着いたものの、ロランナ村で見ていた光景と違い、冒険者の出入りが少ないように見えた。


「そこのあんた、ボサっと突っ立てないで入りなよ? ギルドに興味があるんだろ?」

「あ、は、はい」


 入るのを迷っていたら、いつの間にか後ろに人が立っていて怒られてしまった。


 見るからに強そうな風体をしていて、俺とは比べ物にならない太い腕と、ボサボサ頭に長いヒゲを生やしていて、いかにも城塞を守っている強戦士か武装修道士のような感じに見える。


「見ない顔だが、旅の者か? その外套を見る限りでは魔法士か召喚士のようだが……」

「た、旅の召喚士です。あなたはギルドマスターですか?」

「マスターでもねえけどな。オレはレグルス・バウトだ。あんたみたいなわけの分からん新入りの素性を審査する立場みたいなもんだな」

「ライゼル・バリーチェです。よ、よろしくお願いします」

「おう!」


 ギルドの中に入ると来た時間が早かったのか、ギルドカウンターらしき所にはマスターの姿も見えなければ、冒険者らしき姿も無い。


「ライゼル、握手してくれ!」

「あ、はい」


 握手をすると、笑顔を見せていた彼は、すぐに表情を一変させた。


「な、何か?」

「スキルが随分高いようだが、本当に召喚士か? 狩りの経験はどれくらいだ?」

「狩りって、モンスターのことですよね? そ、それならまだ狩ったことは無いです」

「……本当か? その割には随分と強化スキルが高いが……」

「何故スキルのことが分かるんですか?」

「審査する立場って言ったはずだが?」

「あ、そうでした……」


 それなら今の数値も知りたいけど、教えてくれそうな雰囲気じゃなさそう。


 それにしても、強化するほど肉体的に強くなった感じはしないけど、もしかして耐性スキルのことだろうか。


 モンスターじゃなくて、間接的に人間を倒したというか消したというか、それが関係している?


 それよりも今のスキルを見てみたいのに、ここのギルドでは見られないのかな。


「よし、今ここで何か呼んでみろ」

「しょ、召喚ですか? で、でも、危険なモンスターが出たら俺ではどうにも出来ないですよ?」

「心配すんな! もうすぐウチの稼ぎ頭が戻って来る頃だ。強そうな奴が出ても、一瞬で片をつけるだろうぜ」

「は、はぁ……じゃあ」


 とは言ったものの、俺自身はしばらく召喚をしていないし、召喚したところで強そうなモンスターが出て来るのは到底あり得ない。


「さぁ、呼んでみてくれ!」

「えーと……陰棲むモノ、我の求めに応じよ……」

「ほう? それが召喚の呪文か」

「て、適当でして……は、はは」

「それで、何を呼んだ?」


 一体何を呼んだのだろうか。


 無責任と呼ばれても間違いじゃないけど、正しい召喚のげんなんてものは、俺の知識には無くて、頭に浮かぶ言葉を適当に並べているだけだったりする。


「……失敗か? 何も出て来ないみたいだが」

「ご、ごめんなさい……俺はあの、召喚士としては未熟なのでほとんど成功したことがないんです」

「何だ、そうなのか。早く言ってくれ……楽しみにして損をしたぞ」

「す、すみません」


 レグルスと名乗る彼は、かなりがっかりしたらしく何度も首を左右に振っていた。


『ソイツ、誰?』


 落ち込んでいたレグルスが気づく前に、俺に向けて外から入って来た他のギルドメンバーらしき人物が、疑いの言葉をかけて来ていた。


 深々とフードで上半身を隠しているその姿は、ルムデスに似た雰囲気にも思えた。


 口元は何かの布で隠しているせいで、女性なのかそうでないのかが分からない。


「おっ! 狩りから戻ったか。ん? 足元のソレは何だ?」

「コレ、さっきソイツが呼んだ奴。コイツは、ノームだろ」

「地中の妖精か! それが本当なら、ル・バランの鉱脈にも光が見えて来そうだな。紹介しとこう、彼は旅の召喚士でライゼルだ」

「――召喚士? あぁ、そいつは便利な奴が迷い込んで来たもんだな」

「ど、どうも。あの、あなたは?」


 俺を見る目つきは、トルエノに勝るとも劣らないくらいに鋭くて、思わず視線を逸らしてしまった。


「臆病な男め」

「ご、ごめんなさい……」


 深々とかぶっていたフードを捲し上げた彼? は、隠していた長い耳を露わにして見せると同時に、口元を隠していた布も外し始めた。


「エ、エルフ!?」

「珍しいか? いや、お前はエルフを知っているはずだ」

「え?」

「……あたしをずっと狙っているエルフがいるからな! お前の連れだろ? 召喚士」

「はぁ、まぁ……」

「そんなのはどうでもいい。お前の召喚でもっとモンスターとか、妖精をここに呼び出せ。それならわざわざ、外に狩りに行かなくても良くなるだろ?」

「へ?」


 言っていることがよく分からないけど、ここは冒険者ギルドなんだろうか。


 俺の召喚はかろうじて成功していたけど、エルフの彼女に捕まえられて逃がすことも出来なくなった。


「確かに召喚士一人いれば、外に狩りに行かなくても済むかもしれん。そういうわけだ、ライゼル! 職人ギルドに入ってくれないか?」

「しょ、職人ギルド!? こ、ここは冒険者ギルドじゃないんですか?」

「知らずに来たのか? 見ての通り、ここにはオレと闇のエルフの二人だけしかいないぞ。彼女には外に狩りに行ってもらって、獣の皮なんかを調達してもらっている。俺はそれの審査をして、王に献上をしているわけだ」


 そんな、そんな馬鹿な……スキルを見たいついでに冒険者ギルドに入れたらと思っていたのに。


 トルエノたちの他にも、もしギルドに入れたら味方が増えるかと期待していたのに、まさかの職人ギルドで、しかも誘われるなんて……


 目に手を置いて、早とちりと自分の勘違いさに、思いきり目を瞑ってしまった。


「――」


 やはり何も見えない。だけど、召喚が成功したということは、何かのスキルが上がったのかもしれない。


「――召喚士、あたしと外に来なよ」

「はっ?」

「獣狩りのついでに、あたしを狙っているエルフを狩る」

「え、ちょっと?」

「レグルス、コイツを借りる。あんたは、ノームを逃がすなよ! それと、この皮をなめしておいてくれ」

「あぁ、お安い御用だ。ライゼルを殺すなよ? 期待の新人なんだからな!」

「それはあっち次第だ」


 冒険者ギルドではなく、どうやら職人ギルドだっただけでもショックなのに、闇のエルフさんに目をつけられるどころか、外にいるルムデスに対して敵対心を燃やしているらしく、今すぐ逃げ出したくなった。


「さっさと歩け」

「ごめんなさい! あの、お名前は~?」

「あたしを消すつもりがあるなら教えてやる。せいぜい、外にいる奴を頼ることだな」

「け、消す!? そんな、そんなことをするはずが無いですよ」

「……消さなければ、あたしがお前を消す」

「ひ、ひぃっ」


 もしかしなくても俺には、召喚した獣以外の味方は出来ないということ? 


 ま、まさかね。どっちにしても、ルムデスが俺のことを守ってくれているみたいだし、このよく分からない闇のエルフさんからも守ってくれるに違いない。

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