第12話
オルガから、村長と村の神官に『事件の顛末』が伝えられている。
エイギースは『聖女誘拐』の罪で、終身刑となった。
彼は『伝説の聖女』に憧れた。
そのため『伝説の聖女の血を引く』レリーナを聖女候補として王都に連れて行き、レリーナに『筆頭神官』として仕えるという欲望を持った。
しかし、レリーナは「聖女にならない」と宣言した。
それでも、自分が繰り返し説得しても、自分がどれほど『レリーナの祖母』に憧れてきたか
「それがムカついた」と証言した。
親もいない『孤児』のレリーナが『こんな
『聖女』になれば、王都の神殿で『苦労のない生活』ができるのだ。
それこそ『レリーナにとって良いこと』ではないか!
それにレリーナの存在は自分の『望み』を叶える一歩になる。
そのために無理矢理王都に連れ去って『聖女候補』として神殿に差し出してしまえば、どんなに拒否をしても、一人で村まで帰ることも出来ずに「 諦めて聖女候補となるしかないだろう」と思った。
そしてレリーナが恐怖で気絶したのを『神が与えたチャンス』と信じたらしい。
あの時・・・シュリが気付いてくれなかったら、どのような『悲劇』がレリーナを襲っていただろうか。
そのような『身勝手な理由』で女性を攫おうとした罪は重い。
相手が『
エイギースは『神殿の地下に封印』された。
神殿の地下深く・・・最下層の床には直径1メートルの穴が空いている。
その穴はどこまで続いているのか分からない。
ただ、穴の上から
人ひとりが『落ちる』事だけ許された、決して手足を伸ばして登ることも叶わない狭い穴。
壁に手足を突っ張ったとしても、壁には『蝋』が塗られているため滑り落ちていくしかない。
この蝋は、神官見習いの『教育』が始まって一番最初に此処へ来た時に、一人一人がこの深い穴を覗く。
その時に神官見習いたちは一人ずつ蝋燭を持たされて、穴の中を照らしていく。
真っ暗な穴の中をよく見ようとするあまり、蝋燭を傾ける。
中には穴の中に蝋燭を持った手を入れる者もいるが、見えるのは何処までも続く『暗闇』だけだった。
そして、彼らの持つ蝋燭から垂れる『蝋』が壁を
その『穴の中』にエイギースは落とされた。
神官長は、表沙汰にされないこの事件に関わった者という立場から、処罰の『見届け人』の一人としてオルガにも立ち会わせた。
護衛騎士に引き出されたエイギースは、オルガの姿を見付けると泣きながら「先輩!助けてください!心を入れ替えて神に仕えますから!」と訴えた。
しかしオルガは口を開けなかった。
口を開いたら口汚く罵ってしまうだろうから。
そんなオルガに代わり、神官長がエイギースの前に一歩進み出た。
「エイギース。君が犯した愚かな行為で、此処にいるオルガは責任を問われて神職を剥奪された。君の処罰を見届けた後、彼はそのまま王都を『追放』される」
神官長の言葉に目を見開いたエイギースだったが、オルガや周りの『見届け人』の表情から、それが事実だと気付いたようだ。
しかし、後悔してももう遅い。
『やり直す時間』も残されてはいなかった。
「先ぱ・・・すみま・・・」
謝罪する時間すら、エイギースには残されていなかった。
頭の上から黒い布袋を被せられて、顎の下で縛られる。
吸音性の高い袋のため、中で叫んでも声はくぐもって『言葉』として聞こえない。
エイギースも新人見習いとなった時、研修で此処まで下りてきて『神官の受ける罰』がこの穴から落とされる事だと説明されたはずだ。
オルガは、そのまま突かれて後ろへ一歩下がったエイギースの身体が、そのまま暗い穴に吸い込まれて落ちていくのを見届けた。
最後に
手足の拘束はない。
しかし被せられた布袋で視界を塞がれたまま、『何処まで続くか分からない深い底』まで落ちていくのだ。
この穴の底を見ることが出来ない理由は、穴が垂直ではなく
そのため、直線距離より倍以上の体感を味わう。
それは絶望と後悔を味わうには十分だろう。
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