第7話



「パパ・・・」


すでに拘束されているビアンカが涙目で父親を呼んだが、「お前がもっと早く事故に見せかけて殺していれば!」とダントンは怒鳴る。

それに反論するように「パパがレリーナを5年前に殺していれば良かったのよ!父親しか殺せなかったクセに!」とビアンカ。


5年前・・・レリーナと両親は、隣村に行った帰りに『落石事故』にあったのだ。

馬と御者台に座っていた父親のロブレドが亡くなり、荷台にいたレリーナと母親のエレーヌは地面に放り出されたが無事だった。

落石は事故と思われていたが、あれもエレーヌとレリーナを狙った『事件』だったのか。


「ロブが死んだのも『お前たち』が仕組んだことだったのか」


村長の声に、2人はやっと『今いる場所』に気付いたようで、青褪めた表情で周囲を伺う。


「レ、レリーナが全て悪いのよ!」


「そ、そうだ!エレーヌが俺の求婚を断ったばかりか、『あの男』と結婚して子供を産んだからだ!」


「それ以前の問題だ。お前が『聖女の娘』を自分の飾りにしようと目をつけた時には、ロブレドとエレーヌの2人は神に祝福され結婚していた」


村の神官の言葉にもダントンは黙らない。


「そんなの『破棄』させれば良いだけだ!それを『王都の神官』も認めなかった。そのせいで、俺は父親の決めた女と結婚させられたんだ!」


それは『領主』を継ぐ上で決められた結婚だった。

嫌なら領主を継がなければ良かったのだ。

そして、『聖女の娘』という肩書きを知る前に『母親に置き去りにされた娘』とバカにし、聖女として王都にいた母親が戻り、エレーヌに『聖女の娘』の肩書がついても『聖女になれなかった娘』とバカにしていたのだ。

王都の学院に入り、初めて『聖女』を知った。

それまでダントンは『性女=男たちの『慰み者』』と見下していたのだ。

皇帝陛下の命を救い、帝国すべての人々から褒め称えられている『聖女』。

そのため、娘であるエレーヌや子孫がたとえ聖女候補として選ばれても『聖女になるのを断れる』という特権を与えられている。

そして『伴侶』には生活に困らないように、『オルスタ』以外で生活する場合も『税の免除』が認められている。

ダントンはそこに目をつけたのだ。

自分がエレーヌの伴侶になれば、税の免除を受けている『オルスタ』以外の領地から集めた税金を王都に納める必要がなくなる。

貴族として、学院を18歳で卒業しても貴族院に2年所属し、顔を売りつつ領地経営を学んだ。

そして領地に戻るとすぐにエレーヌとの婚姻を望んだ。

しかし、彼女はすでに『人妻』となっていた。

その事に異議を申し立てて出した『婚姻の無効』も『破棄』も神殿は認めなかった。

ダントンは『男爵を継げば『貴族特権』で認めさせられる』と信じた。

そのため、父親の決めた女性と結婚し、子供も2人作った。

後継あとつぎとなる男児が生まれ、やっと『男爵』を継ぐことが許された。

そしてエレーヌの婚姻の破棄を認めさせようとしたが、その時にはレリーナが誕生していた。

その時点ですでに破棄も無効も認めさせることが出来なかった。


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