第8話




ダントンの様子に気付いた『父が選んだ女』は、ダントン相手に『婚姻破棄』を申し立て、神殿はそれを許可した。

ダントンが繰り返し『一人の女性』に執着し、彼女の婚姻破棄や無効を訴え続けて来たことが『許可された理由』だった。

ビアンカがダントンの手元に残されたのは、性格が『父親そっくり』だったからだ。

屋敷で働く者たちを見下し、気に食わないことがあれば平気で相手を傷つける。

どれだけ母親が注意しても、父親が「貴族とはそういうものだ」と言って娘の行動を誉めた。

子供にとって、『叱る親』を嫌い、『誉める親』を慕う。

母親は『娘の更生』を諦め、1歳に満たない息子を連れて王都の住む両親の元へ向かった。

「王都に住む両親やダントンの父前・男爵に孫を会わせるため」との理由で。

ダントンはその他の貴族と同じように『後継のお披露目』は5歳と決めていた。

その後継を取り戻そうとしたが、息子は母親と共に自分とは『他人』となってしまった。

母親を殺して息子を取り戻そうとした。

しかし、それは『息子が分からない』という事実を突きつけられた。

父親が連れていた子供を『息子』だと思い、奪おうとした。

そんな自分に父親は言った。

「おまえは息子の名前が言えるのか」と。

・・・名前を覚えていなかった。

いや。息子の名前を呼んだことも抱き上げたこともなかった。

・・・・・・顔も覚えていなかった。

髪の色も、瞳の色も。

声も、泣き声も覚えていなかった。

父が連れていたのは『知人の子供』だった。

未遂とはいえ、子供を攫おうとした事で、妻子と会うことは許されなくなった。

それだけでなく、ダントンとビアンカは『許可がなければ、領地から出ることを許さず』と言い渡された。

ビアンカは『学院への入学許可』も出なかった。

そのため、ビアンカには家庭教師をつけようとしたが、通常の給金では誰にも引き受けてもらえず。

3倍の給金でも応募はなかった。

王都から何か『圧力』がかかったのだろう。

仕方がないため、ダントンが使っていた教科書で仕事しつつ教えることになった。

・・・そんな欲にまみれた男は、『幸せな結婚』をしたエレーヌから幸せを奪うことにした。

『家族』が一人もいなくなれば、自分の求婚を受けるだろう。

そう思い、部下たちに落石事故をよそおって襲わせたが、残念ながら死んだのはロブレドだけだった。

ビアンカも母が家を出てから、各地でイジメなど繰り返していた。

そしてその村で誰かが死ぬと『別の村』でイジメを繰り返す。

大した事ではない。

ダントン自身がエレーヌにして来た事だ。

しかし、どんなにイジメてもエレーヌは死ななかった。

だからビアンカがしてきたイジメで相手が死んでも、それはビアンカのせいではない。

そう。『エレーヌは死ななかった』のだから。

女のエレーヌでも耐えられたイジメが、他の者たちに耐えられないはずがないじゃないか。

実際、ビアンカがイジメ続けてきたレリーナエレーヌの娘は、しぶとく『生き残っている』ではないか。

エレーヌが死んだ今でも。

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