第3話



「レリちゃん。お菓子貰えるかい?」


私がお菓子を作っていると、ちょうど良いタイミングで村の人が買いに来る。

以前聞いたら「甘い匂いが家の外まで漂って来るのよ」と笑って教えてくれた。

別に気分転換に作っているし、自分やシンシアだけでは食べきれない量だからタダでも良いのだけど「タダより高いものはない」と断られた。

そして、ミルクや肉、魚や野菜などと交換してくれる。

多いのが『粉に挽いた小麦』だ。

それはお菓子の材料や小麦を練って麺にした、王都や町では『ウーメン』と呼ばれている料理となる。

そして、また作っていると売ってほしいという人たちが現れる。

おかげで私は食生活に困ることはなかった。

ただ、『村の外』から来て村長の家に泊まった人たちに、「金を出すから」と言われると困ってしまう。

このオルスタ村ではお金なんて『価値がない』から。

この村は『聖女を輩出した村』として、帝国から未来永劫『税が免除』されている。

それも、致死率の高い『流行はやりやまい』を、持てるすべての力を使い切って『帝国を救った』のだ。

そのため当時の皇帝が『帝国ある限り、感謝を忘れてはならない』と宣言した。

皇帝陛下を含めた国王一家全員も『助けられたひとり』だった。

何度か、皇帝の宣言を知った税金の高い他の村から祖母に『村の移住』を打診されたが、それを知った帝国から『他の村に移住してもその村は税の免除がされない』と御触れが出て、騒動が沈静化したそうだ。

この領地でも、オルスタ村以外は税金が発生する。

そしてオルスタ村に移住しようとする人たちも現れた。

しかし、どこの村でも移住先では、自分たちだけで『家を建てる』以外に許されない。

空き家があっても、そこに住むことは許されない。

唯一の『例外』として、『村の人と結婚した時』だけ、空き家が譲られるか新築する際に村の人たちが手を貸してくれる。

それが無理なら、私の両親みたいにどちらかの両親と住むことになる。



「レリ。ニーナさん来たよ」


「ありがとう。シア」


私はお菓子作りの手を止めて、薬を入れた籠を持って受け付けに近付く。



「この赤い薬包紙やくほうしに入っている方が『いつもの薬』です」


「ありがとう。レリちゃん」


薬の説明をしていると、下からひょっこりと男の子が顔を出した。

ニーナさん家のシュリくんだ。


「レリお姉ちゃん」


「シュリくん。咳はどう?」


「前みたいに、走っても苦しくならなくなったよ」


「でもまだ『治っていない』から、無理はしないでね」


「うん。わかった!」


「もう。『うん』じゃなくて『はい』でしょ」


「うん。はい」


まったく。と呆れるニーナさんには悪いけど、可笑しくてクスクス笑ってしまう。

すると何やら家の外が騒々しくなってきた。


「レリちゃん。今日は家から出ない方がいいよ」


「何かあったのですか?」


「明日の『聖女さま探し』の準備とかで、神官共が村の中を彷徨うろついているんだよ」


ニーナさんの言葉に、自分でも顔が強ばったのがわかった。


「あー。大丈夫だよ。今日は私も『泊まり込む』し」


隣に来たシンシアが私の肩をポンッと軽く叩いた。

シンシアはニーナさんが持ってきてくれた小麦粉を、キッチンまで運んでくれていたのだ。


「シア。お家の方はいいの?」


「えー。明日、教会に行くのに、私の家からよりレリの家の方が近いじゃん。どっちにしろ、家の方は親父たちが『明日の準備』とかしてて騒がしいから寝られないよ」


シンシアの家は代々『村長』をしている。

そのため家は『村の奥』にある。

逆に教会は村の入り口に近い場所にある。

確かに私の家からの方が近い。

それに、外に『知らない人たち』がいる。

それだけで私は・・・



「大丈夫だよ。レリ姉ちゃん。何かあったら僕が駆けつけてあげるから」


「何言ってんだい。一丁前いっちょまえに」


ニーナさんがシュリくんの頭をはたいたが、私はシュリくんの言葉が嬉しかった。


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