第42話


「あの二人は気付かないようですね。『罪人として地下牢にいる娘のところに行く』ということは『自分たちも地下牢に入れられる』可能性が高いということに」


「仕方がないでしょう。義父上が『迎えを待っている』と言ったのを『迎えに行ったら娘を連れて帰れる』と受け取ったのでしょう」


「事実じゃないですか。あの娘は『自分を迎えに来てくれたら地下牢から出してもらえる』と信じているのですから。ただし迎えに来るのは『王子のどちらか』で、自分は『将来の王妃』だと。迷惑なので、現実を突きつけて目を覚まさせてあげましょう」


「─── いつも思うのですが。何故、第二王子である私と結婚すれば王妃になれると考えるのでしょう。兄上の存在を忘れているのでしょうか」


「トルスタイン殿下。それに関しては簡単です。『王子妃』と『王太子妃』と『王妃』。そのすべてが同じ意味なのです。どれも『結婚相手の妻』というだけで、深い意味はないようです。そして殿下が王位継承権を放棄する理由が『宰相わたしの娘と結婚するため』。そのため、『自分と結婚したら殿下は王子のまま。そうなれば、自分は『王子の妃』になれる』という考えです。そこから『娘が父親わたしの権力で殿下を無理矢理婚約者にした』というバカげた話がまことしやかに流れているようです」


「─── 宰相の方が王家より権力を持っているって。他国からはどんな国だと思われているんだ」


「宰相に操られた情けない国」


義父の話に父がこぼす。それに義父が間髪を容れず答える。


「────── アマルス」


「冷酷宰相の傀儡王国」


「────── アマルス」


「国王が第二王子を宰相に差し出して玉座にしがみついている愚かな国」


「────── アマルス」


「他国がゼリアこの国をどう評価しているか聞かれたから答えただけです」


義父は笑顔で事実どく告げるはく。その目は笑っておらず、壁際に並んだ騎士たちは『平和な解決』を強く願った。

翌年、そのうちの一国が第二王女の処刑により地図から名を消し、ゼリア国の国土を広げる結果となり、周辺諸国への『見せしめ』となった。




「報告しま〜す」


エドガーとエルガーが書類を手に入って来た。


「此方が『幼女趣味あくしゅみ』な貴族たちのリストです」


「早かったですね」


「ええ。何故か全員の名前を教えれば早く家に帰れると思ったようです」


「今日から母娘おやこ3人は地下牢にお引っ越ししたんですけどねえ」


「ちゃんと個室をてがったので快適に過ごせるでしょう。─── 多少の不自由な生活は大目に見て頂きましょう。なあに、短期間の『仮の宿』なんですから」


「すぐに三人バラバラに『永住の地』へ引っ越しますからねえ」


娘二人は別々の女性修道院へ。母親は反省の度合いによって処刑か修道院の何方どちらかへ進む。


「この者たちはよく調べるように。他にも被害少女たちがいる可能性が高い。その少女たちが傷付かないよう最新の注意を払え」


「もちろんです。で、これらの処分は此方で任せて頂けますか?」


「良い案でもあるのか?」


「ええ。新薬の研究者たちから『実験の協力者の補充』を望む声が届いております。如何でしょう?」


「─── 補充を許可しよう」


「ハッ。ではさらなる調査を致します」


二人は返された書類を手に部屋を出たが、すぐにエルガーが扉から顔を出した。


「殿下〜。愛しのお姫様が此方に来ますぜ」


「もうそんな時間でしたか。では父上。義父上。私はこれにて下がらせて頂きます」


私は頭を下げて早足で部屋を出る。


「あ!トルスタイン様」


私の姿を見たリリアーシュ嬢は嬉しそうに頬を染めた。私もエルガーやエドガーも、リリアーシュ嬢の前だと表情が柔らかくなる。


「父上たちはまだ話をしていますから、先に帰りましょう」


「はい。エルガー様。エドガー様。失礼します」


可愛い挨拶カーテシーに、目線をあわせるために跪いていたエルガーとエドガーは優しい笑顔で手を振る。

リリアーシュ嬢に腕を差し出しエスコートすると恥ずかしそうに遠慮がちに腕を絡ませてきた。

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