第41話


「では。私から子爵にお尋ねします。先日から、学院より手紙を受け取ったと思いますが。昨日も御令嬢の態度が変わらないため、学院を退学になるが宜しいか?という内容です。たしか昨日の手紙が5通目だったはずです」


私の言葉に驚きの表情を見せる子爵。そのまま横に控える妻を見ると、ガクガクと震えている。


「殿下。私はそのような手紙を1通も受け取ってはおりません」


「─── そのようですね。ですが、子爵。もう学院への返答は必要ありません」


「それは・・・」


「先程、令嬢は不敬罪で地下牢に投獄されました。王立学院では罪を犯した者は学院に相応しくないとして即時退学処分です」


私の言葉に固まる子爵家三人。


「令嬢の自白では、『母と姉から身体を密着させれば男は喜ぶ』と教わったそうです。実際、私を含めた男子生徒に身体をり寄せ、学院内で男女共に不興をかっています。さらに、母の『幼女趣味のお友達』相手に姉妹はすでに『不貞を知った』そうです。─── 早熟とは違います」


そう。地下牢に投獄されたあの令嬢は、騎士相手に「此処から出してくれるなら『気持ちいいこと』してあげる」と言ったらしい。女性騎士団と交代したために、つたない色仕掛けも効かず。一喝されて、泣きながら言い逃れを繰り返しているようだ。

騎士が黙っていれば、何とか許してもらおうと思っているのか。色々と自供しているが、それが母と姉のあるか分からない名誉を傷付けて、罪を暴露していることに気付いていない。

─── そんな考えが至らないほど『幼い』のだ。貴族としての教育も受けず、『男のよろこばせ方』のみを教わった10歳の少女。

『優しい虐待』という言葉がある。本来受ける教育やシツケを受けずに、唯々ただただ甘やかされて育てられる。もちろん常識など持っていない。何をしても許されてきたからだ。

この少女も、その虐待の被害者だ。

そうでなければ、何故『招待を受けていないパーティに入ることが出来た』のか。もちろん、少女ひとりだったため親が先に入ってしまい招待状を持っていないと思われたのかも知れない。確かにそういう子息令嬢はいる。初めて見るものに興味が向いて親に置いて行かれるということはよくある。10歳なんてそんなものだ。

だが、それ以前の問題ではないだろうか。


「子爵家では、招待を受けていないパーティにも関わらず、身支度ドレスアップをする侍女や王城まで馬車で送る御者ぎょしゃが存在しておるようだ。『招待もされない下級貴族が勝手に登城して何事もなく許される』なんて甘い考えを持つ者がおるようだな」


義父の言葉にガクガクと震える母と娘。子爵家では『誤りを正す者』がいないのか。それとも『恥をかけばいい』と嘲笑う者がいるのか。その何方でもあるのか。─── すでに父の手の内の者が子爵家に向かい、執事たち全員に問いただしているだろう。彼らのほとんどが貴族の子息令嬢だ。『上下関係を無視した主従関係』など許されるはずがないことは、自分たちが『親の庇護を受けていた時代』に知っているだろう。


実際には、この場にいない娘ほんにんからの自供は受けている。


「だって!お母様とお姉様が『招待状が届かないはずがない!何かの間違いだ。貴女は王子様の相手に相応しいのだから』って言ったもの。みんなだって『お嬢様が裸で言い寄れば王子だけでなく国王でさえも言いなりになる』って。だから『言われる通り』にしてきたんだもん。今日だって直接行っても大丈夫だって。王子様の部屋で『教えた通り』にしてきたら大丈夫だって。私も心が広いから、招待状を出し忘れたことはキスひとつで許してあげるつもりでいたのに!」


その報告を受けた私たちは『最終判断』を確定させていた。


「頬にゲンコツひとつで良いだろうか?」


「気持ちは分かるが、常識が欠如しているとはいえ一応令嬢レディーだ」


「そうですよ、殿下。せめて『首に斧を一撃』で許しましょう」


「 ─── アマルス」


「不貞の末に離縁されても付き纏う母に、義父と不貞を繰り返して子を二人も産んだ娘。その血を引く娘たちはすでに幼女趣味の男たちの餌食となっています。あの邸宅は『悪党の巣』です。さっさと其奴ソイツらの情報を引き出し捕らえかたづけましょう」


義父にしてみれば、そんな男たちを放置してなどいられない。何時、その毒牙が可愛いリリアーシュ嬢に向けられるか分からないのだ。

その気持ちは私も父も分かる。

男たちの毒牙にかかった少女たちの話を耳にしたら、心優しいリリアーシュ嬢は我が身のように悲しむだろう。リリアーシュ嬢の耳に入らないようにするのなら、すぐにでも『片付ける』必要がある。



「子爵。貴方には、これからヘルティ伯爵と共に貴族院に出頭して頂く。その後のことは貴族院の指示に従うがいい」


義父の言葉に子爵は「はい」と答える。


「其処の二人には、別室で迎えを待っている令嬢の所へ行って貰う」


義父の言葉で、『自分たちは無罪放免になる』と喜んだ二人はこうべを下げたまま顔を見合わせた。しかし、子爵は義父の言葉を正しく読み取ったのだろう。表情は固く土気色で半分くらいは気を失っているかも知れない。


「二人を丁重にお連れしろ」


義父の命令に、騎士たちが応えて『丁重に』謁見室から連れ出して行った。子爵はヘルティ伯爵に支えられるように退室して行った。

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