第39話


7歳のエルスメアに合わせて昼から始められたパーティーは、令嬢を排除しただけで無事に終了した。

パーティー終了後、リリアーシュ嬢はまだ公式の場に出られない私の弟妹たちに会いに行っている。リリアーシュ嬢は弟妹からも人気があり、今日みたいな日中にパーティーが開かれると閉会後に後宮へ呼ばれて私的なお茶会に参加している。誕生パーティーの場合、個人的なプレゼントを用意していて、このお茶会で手渡している。高価なものではない。だが、リリアーシュ嬢の手作りという特別なプレゼントは、どんな高価な宝石よりも価値がある。今日はクッキーとポプリ、ハーバリウムだ。リリアーシュ嬢は、弟妹たちに贈るプレゼントと同じものを私と義父にもプレゼントしてくれる。

だから、私は弟妹たちに嫉妬をしなくて済んでいる。



私は父や義父と共に、登城命令をしていた令嬢の父親と対面した。父と義父は令嬢の母親と姉も呼び出していた。この二人の格好は派手で、まるでパーティーに呼ばれたと勘違いしたようだ。しかし、下位貴族でもありえない露出度高めのドレスを着てどぎつい化粧をほどこした姿を見て『さすが母娘姉妹だ』と感心した。

華やかなパーティー会場ではなく謁見室に通された時点で勘違いに気付いたのだろう。私たちが謁見室に入ると、床に跪き青褪めた顔を俯かせて震えている三人がいた。

上座の席に父が座り、その両方に義父と私が立つ。


「シュトーレン子爵。おもてを上げよ」


義父の言葉に顔を上げた子爵。それにあわせて妻子が顔だけでなく上半身まで起こした。


「無礼者!面を上げる許しを得たのは子爵だけだ!」


「ヒィ!」


義父の声に悲鳴が上げた妻子。慌てて床に伏した。


「あ、『ブヒィ』じゃないんだ」


私の呟きは父と義父に届いたようだ。静かなため壁側に控えている騎士たちにも聞こえたようで、少し表情が緩んでいる。


「子爵。たとえ非公式とは言え『娼婦を二人』も連れてくるとは失礼ではないか?」


「わ、私たちは」


「無礼者!誰が下賤な者に発言を許した!」


義父のいかりに、ふたたび身体を起こした母親の方が震えながら身を伏せた。


「も、申し上げます・・・。この者たちは私の妻と娘に御座います」


「子爵家では娼婦を妻に迎えたのか?」


「い、いえ。妻はヘルティー伯爵家の第三女に御座います」


「その姿で?」


私の言葉に顔を赤らめる子爵家の三人。


「元伯爵家の令嬢にしては礼儀作法も出来ていないですね。ヘルティー伯爵。貴方は娘に『貴族マナー』を叩き込まず、娼婦の教育をしていたという訳か?」


義父の言葉に、ハッとした表情を見せて振り向いた子爵たち。ヘルティー伯爵は我々の後から謁見室に入り、子爵たちの背後で跪き臣下の礼をし続けていた。


「─── お父様」


「何をしておる!陛下の御前にあるぞ!」


義父の一喝で慌てて身体を正面に向けた三人は低く伏せる。


「ヘルティー伯爵。面を上げよ」


「はっ」


伯爵が顔を上げる。


「伯爵に発言を許す。そこに控える無礼者は其方の娘だと申しておるが相違ないか?」


「申し上げます。私の前に控えるその女は私の娘では御座いません。その女の母親が不貞を働き、私と離縁後に何処ぞかの男との間に出来た娘。そもそも、一度も会ったことなど御座いません」


「お父様!」


「控えろ!」


伯爵の言葉に振り向いた母親。

─── いい加減この場から追い出したいが、この母親には聞きたいことが残っている。チラリと横を見ると、やはりうんざりした表情を隠せない父と綺麗に隠しきっている義父の姿があった。

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