第37話


リリアーシュ嬢がデビュタントを迎えた9歳の時に、口さがない令嬢たちに囲まれたことがある。その時、リリアーシュ嬢は笑顔で宣言した。


「私は『父上』みたいになります!」


その言葉は令嬢たちを追い払うには好都合な言葉だった。令嬢たちは彼女が『冷酷』を目指していると誤解したのだ。そのため、近くにいたら我が身が危ないと感じた貴族たちがリリアーシュ嬢から離れたのだ。

その日から一部の貴族たちはリリアーシュ嬢を『冷酷令嬢』と渾名あだなした。しかし、そんな渾名を付けた貴族たちはすでに上級貴族から転落した。なんとかギリギリ下級貴族の末端に残っている貴族家もいるが、ほとんどは爵位剥奪にお家断絶。それでも平民となっても家族で生活しているものたちは幸せだ。一家離散した元貴族がほとんどだったからだ。


─── なんてことはない。リリアーシュ嬢から引き攣った表情で離れた者たちが義父母やその周囲の『アンテナ』に引っ掛かったのだ。


その不自然な行動を国王ちちの腹心、官房長官たちが調査した結果、横領や人身売買などの犯罪行為が見つかったのだった。多かったのが『見目麗しい女性を見つけると、貴族の権力を使ってさらって愛人にする』というもの。そして『見目麗しい女性や少女を領地の管理者が賄賂として貴族に差し出して、横領などの悪事を『お目溢し』してもらう』というもの。

女性たちは、飽きたら娼館に売られていた。中には殺されて捨てられた女性もいた。


女性を殺して捨てた貴族は爵位剥奪の上、当主と当事者は公開絞首刑しばり首。ただし、被害者数亡くなった人が多い事件は公開処刑で手足を砕き、この国の北にある『死の山ゲヘナの窪地』に投げ込まれた。生きながら肉食の鳥に啄まれるこの処刑法は、この国で一番重いものだ。磁場の関係で、鳥が心臓を食い尽くすまで死ねないのだ。

その他の罪を犯した貴族たちも、法に照らし合わせて収監された。決められた年月を王都の北『死の山ゲヘナの窪地』に近い鉱山で働き続けるのだ。鉱山で死んだら、遺体は『鳥葬ちょうそう』にされる。罪人のため、死んでも家族の元へ戻れず、先祖代々の墓に丁重に埋葬されないのだ。


『国外追放』なんて処分はない。悪人を国外に流出させたら、他国に迷惑がかかるからだ。そのため『自国の犯罪者は自国で片付ける』という意識がどの国にもある。さらに国外追放にしたものが機密事項を握っていたり知識を持っていることもある。そんなものを他国が優遇し、貴重な情報を得ようとする。優遇なんてされたら『罰』にならない。その上、情報を流出されるのだ。


古い文献には、それで軍事情報を得た国が他国に攻め込んだ記録がいくつも残されている。ただ、その記録に残されている最終戦争は、周囲の小国をいくつも巻き込んで、多くの国と多数の人々の生命をこの世界から消して終わった。

戦争の混乱で小国のひとつが隣の軍事国家に攻め込まれた。その際に軍事国家が開発した『新しい兵器』が登場した。しかし、その最新兵器は『最終兵器』となった。 ─── 誤作動を起こしたその兵器は大爆発を起こした。大爆発は連鎖し、各国をも巻き込んだ。爆発を起こした火薬の粒子が爆風に乗り世界に広がった。

当時の戦争は魔法によるものだった。

火薬の粒子は生活の火では発火しなかった。そのため気付かれなかった。どんなに小さくても火魔法を使った瞬間に大爆発を起こしてしまい、それが連鎖していった。

今は『魔法を使う際に、空気中に含まれる『エナ』が魔力と反応する。その時に火薬の粒子が魔力と反応して『魔法を使った』状態になった』とまで判明している。そのため、魔法はこの世界から退化した。

同じく武器も周囲の空気を振動させてエナに衝撃を与えてしまうため爆発してしまう。そのため武器も剣などの接近戦か弓、木製の投擲とうてきのような旧式しか使用が出来なくなった。そうなれば戦争なんて愚かなことは出来なくなり、今では『戦争のない世界』が実現した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る