第36話


「にーた!ねーた!」


義母の隣に座るルーファス殿が笑顔で愛想を振りまいている。3歳の誕生日をこの邸で祝ってから義母と共に領都へ行ったから、直接会うのは二月ふたつきぶりだ。

そのせいだろうか。私たちと一緒が嬉しいらしくはしゃいでしまい、大人しく座っていられない。


「ルーファス。大人しく出来ないなら部屋に戻しますよ」


「 ─── ごめんなちゃい」


義母に注意されてシュンとなるルーファス殿。その顔が姉のリリアーシュ嬢に瓜二つで、思わず甘やかしそうになる。

しかし、ルーファス殿は燥ぎ過ぎると熱を出してしまう。


「子供なんてそんなものよ」


すぐに熱を出すルーファス殿を心配して義母に尋ねたらそう返された。リリアーシュ嬢も幼い頃はそうだったらしい。

ちなみに、リリアーシュ嬢は私たちと王城で会ったその晩に熱を出したそうだ。


「リリアーシュったら、帰りの馬車で旦那様にずっと興奮しながら話し続けて、帰ってからも私に報告し続けて。話し疲れて熱を出してしまったのよ」


義母の話では、城がきらびやかだったなど建物の豪奢ごうしゃさと、色とりどりの花が満開だった温室。そこで出されたお茶やお菓子。そして・・・。


「トルスタイン。貴方のことを一番多く話していたわ」


「私、ですか?」


「そうよ。『物語に出てくる王子さまに会った』って」


「 ─── 私は絵本に出てくるような『王子さま』のように優しくありません」


「いいえ。トルスタイン。貴方は『リリアーシュの王子さま』なのよ。『リリアーシュだけ』の、ね?」


誰にでも優しくしなくていい。ただ『リリアーシュ嬢愛したひとだけ』に優しければいい。


「私の旦那様のようにね」


義母は義父の話になると少女のように可愛く笑う。

義父は特に国外には『冷酷宰相』と言われている。しかし、家族を愛している。そして領民も大切にしている。

リリアーシュ嬢のアドバイスを受けて再提出したレポートは『最良』ではなく、最上評価の『優』で戻ってきた。その後からは、『最良』か『優』で戻ってくるようになった。最良評価の場合でもリリアーシュ嬢に確認と指摘をしてもらい、考えの足りない部分や補償の過不足などを話し合う。その上で再提出をして評価をもらう。

過去に提出したレポートも、いま改めて読み直せば稚拙な内容だった。其方も改めて考え書き直して、再評価をしてもらっている。



私はリリアーシュ嬢の『王子さま』として胸を張れるようになるには、まだ実力が足りない。

ルーファス殿とテーブルを離れて窓際で庭を見ながら話をしているリリアーシュ嬢。そんな二人を見つめていたら、私の視線に気付いたのか、振り向いて笑顔で手を振ってくれると、私も無意識に頬がゆるむ。


私は『自分の出来ること』をしていこう。


そう誓って、私も義母に許しを得て席を立ち二人の待つ窓際へ歩いて行った。

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