第31話
留学生として編入してきたミルッヒ姫だったが、10歳の少女らしさで周りに受け入れられているように思えた。
「リリアーシュ嬢は何か困っているのですか?」
ミルッヒ姫の話になった時に少し表情が
「その・・・ミルッヒ様なのですが・・・」
リリアーシュ嬢は言いにくそうに言葉を区切る。それだけでミルッヒ姫がリリアーシュ嬢を困らせていることが分かった。
「どうしたの?どんなことでも話して?」
俯くリリアーシュ嬢は言っていいことなのかを悩んでいるようだ。
「リリィ。相談することは悪いことではないよ。それより、悩みごとを胸に秘め続けたまま私を心配させないように笑顔を向けるリリィを見ている方が私には苦しいんだ」
「・・・トルスタイン様」
「私たちは将来夫婦になるんだ。だから、どんなことでも私には隠さずに話して欲しい。私は初めて会った日から妻になるキミを守れる男になりたいと願っているんだよ」
無理に聞き出そうとは思わない。だから、私は自分の素直な気持ちを打ち明けて、ただ、黙って待つ。どんな小さな声も聞き逃さないように。
「トルスタイン様は・・・ミルッヒ様を・・・この屋敷にお迎えしたいと、もうさ・・・・・・私のこと、は・・・・・・・・・きら」
「そんなことはないよ」
「でも・・・」
「それはミルッヒ姫が言ったの?」
私の言葉にリリアーシュ嬢は左右に首を振る。つまり、ミルッヒ姫の侍女がリリアーシュ嬢の排除に動き出したということだ。
・・・よくも
チラッとウルティアに目を向けると目礼された。後で詳細を調べて報告してくれるだろう。
私はリリアーシュ嬢の対面の席から右隣に移る。そしてリリアーシュ嬢の手に触れた。可哀想に、手は固く握り締められて小さく震えていた。
「リリアーシュ嬢。どんなことがあっても、何があっても。必ず私がお
「私は殿下に・・・嫌われているのではないのですか?」
「いいえ。私は初めて会った
「私の父が宰相だから、したくもない婚約をさせられ・・・私の父が宰相だから・・・」
「では。今夜、
「殿下。リリアーシュ様。そろそろお茶会をお開きにしていただかないと。明日の予習はお済みですか?殿下の場合、『本日のふくしゅう』がひとつ残っておいでですよ」
ウルティアに『お茶会の終了』を告げられて邪魔をされてしまう。誰がリリアーシュ嬢を苦しませたのか調べがついたのだろう。
・・・優秀な従者を持ったもんだ。
「私はリリアーシュ嬢ともう少し一緒にいたいのだが?」
「それでしたら、勉学を優先するという宰相殿との約束をお破りになられると仰られるのですね?間もなく学力試験がございますが、殿下はともかくリリアーシュ様は初めての試験です。入学前と勝手が違うのですよ」
「ああ。・・・それもそうだったな」
そう。入学前の学力試験は貴族で自宅通学者の場合、学院から三人の試験官が屋敷へ派遣される。そして試験官の前で試験を受ける。事前に試験官が来るという連絡がないため抜き打ちで行われる。しかし、『自宅で試験を受ける』という安心感は緊張感をはるかに
そのせいだろうか。この『初めての学力試験』で特別科と普通科の大きな入れ替わりが起きる。
試験後上位40名の名前は教務棟の掲示板に貼り出される。名前があれば特別科棟へ。名前がなければ普通科棟へと分かれる。
さらに、総合得点が
成績によっては、望めば『王都学習院』への編入も可能だ。
元々、王都学習院を選んで入学する子息令嬢も多い。それは望む『専修科』に進めるからだ。商人だったり、騎士だったり。学者を目指す者も王都学習院へ進む。
大抵の貴族は体裁が悪いため、王都学習院へ編入させようとする。元々王都学習院へ進みたかったものの、親の体面から王立学院に入れられた子息令嬢は、わざと普通科に進み、王都学習院へ入れるように画策する。
本当に出来が悪かったり素行に問題がある子息令嬢でなければ、退学にはならない。
退学になれば、その後は領地に行ければ良い方だ。その途中で事故死するか、到着後に病死する場合も多い。
・・・そうならないのは、親が
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