第32話


私室に戻ると、机の上にはすでに報告書が置かれていた。


「どうやらミルッヒ王女殿下の侍女が婚約破棄を促しているのは、リリアーシュ様だけではないようです」


「それは『婚約者のいる令嬢限定』ということになるのか?」


「はい。それも婚約相手が上位貴族、それも第一子限定です。公爵家・侯爵家は親が王城で役職がある者。ただし侯爵家と同等の辺境伯家は含まれません。伯爵家の場合、領地が豊かなことと王都での生活がメインなことが追加されています。つまり『社交界やお茶会サロンから外れない』事がメインのようです」


「その侍女は貴族の出なのだな?」


「そうでしょうね。そのため、社交界やサロンに侍女として控えていたとしても、たわむれで声を掛けてもらえるだろうと思っているようです」


「 ─── アホか」


「はい。アホです」


私の呆れから出た呟きにウルは即答した。


「それでは『本日のふくしゅう』を始めるとするか」



まず父に手紙を用意した。内容は『ミルッヒ王女の侍女が行っていること』を説明し、『小さいとはいえ混乱を招いているため、クラフテラ国から来た侍女を国に帰して欲しい』と頼んだ。

本来、侍女は2人と決められている。今クラフテラ国から来ている侍女は15人。原因は第二王女の存在だろう。しかし、彼女は処刑されているのだ。なら『必要のない者たち』を帰国させるのは当然だろう。

義父に宛てた手紙にはそう追加した。そして何を言われたか分からないが、リリアーシュ嬢が悩み悲しんでいることも伝え『戻られたら、リリアーシュ嬢がお尋ねになりたいそうです。正直に話してくださって構いません』と書き添えました。


「私の父が宰相だから、したくもない婚約をさせられ・・・私の父が宰相だから・・・」


彼女の辛そうな声が脳裏をぎる。


「ウル。 ─── リリアーシュ嬢の言葉を義父に伝えてくれ。そしてリリアーシュ嬢に「父親が宰相という立場を使って私と無理矢理婚約させた」と言った侍女がいて、それで苦しんでいると」


「ついでに『ミルッヒ王女を殿下の婚約者としてこの邸に住まわせろ』と言ったことも伝えましょう」


「 ────── ああ。私を本気で怒らせた侍女には『国家転覆罪』を贈ろう。さあて。ミルッヒ王女を私の婚約者にしようと策略したのは誰だろうねえ。クラフテラ国からの指示なら、このゼリアの国土がひろがるだけだ」


「 ─── 殿下」


「大丈夫だ。私にはリリアーシュ嬢がいる。このことは義父がお戻りになってから話をしよう。ウル。行って来てくれるか」


「はい。では失礼します」


ウルは頭を下げて部屋を出て行った。これでやり残した『本日の復讐』は終わった。

では『明日の予習』に入ろう。

私はまだ学生でしかない。だから成績を落とすようなことは出来ない。

教科書と専門書、そしてノートを取り出し、まもなく行われる学科試験のため『学生の本分ほんぶん』を遺憾なく発揮するため、ノートを開いた。

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