第29話


クラフテラ国は大騒ぎになった。

ゼリア国側の国境で、自国の第二王女が公開処刑されるのだ。絞首刑という、王族・貴族にとって不名誉な処刑方法で。亡骸を埋葬することも許されず、国境を越える母国へ帰ることも許されず。


処刑台に上げられても、ミンティア王女は強気な態度を変えなかった。─── いや。最後に残った虚勢なのだろう。


「何するの!私は第二王女なのよ!」


「我が国ではただの犯罪者です」


「こんなことをしてお父様が許さないわ!」


「いえ。貴女はすでに『見捨てられた』んですよ」


「ちが・・・。そんなことないわ」


「残念ながら。再三『第二王女の遊学を申請してください』と必要書類をお送りしても。『第二王女を迎えに来てください』とお願いしても。『このままでは不法行為で王女は罪を問われます』とお伝えしても。そのすべてを拒否されました。─── その結果、貴女はすべての罪を背負い処刑されるのです」


エドガーが坦々と『真実』を告げると、ミンティアは目を見開き全身を震わせる。その視界の端では、エルガーが自分をぶら下げる縄の確認をしていた。


「ま、待ってくれ!」


「お父様!!」


国境の外、クラフテラ側から声があがった。

そこに姿を現したのはクラフテラ国国王ミンティアの父だった。


「頼む!止めてくれ!なんでもする!だから娘の生命を」


「何を今さら。再三、助命の申請を送り続けて、そのすべて拒否した結果の処刑だろ」


「それは、まさか・・・」


「『王女という立場だから簡単に殺されない』って思っていたか?残念だったな。数々の罪を犯せば、王女だろうと『犯罪者』なんだよ」


エルガーが嘲笑あざわらいながら、輪になっていた縄をミンティアの首にかけた。


「いや・・・。やめて」


「ああ。俺たちもイヤさ」


「だから。サッサと『終わり』にしようぜ」


エドガーの言葉が合図になり、ミンティアの立っている床が外れてミンティアの身体が床の下に落下した。


「ミンティアァァァ!」


一瞬で首の骨が折れなかったのだろう。後ろ手に縛られたミンティアが苦しそうにもがき苦しんでいるのか。縄がギシギシと激しく音をたてていたが、3分を過ぎると縄の揺れが徐々に小さくなり、5分後に死亡が確認された。



処刑台を撤去されても、ミンティアの亡骸は母国に、父に向けてさらされていた。

国境という『見えない壁』にはばまれて、娘の亡骸を取り戻すことも出来ない。兵士たちが警備しているからだけではない。─── 娘の亡骸と国民の生命。そして、『第二王女の側女そばめ』として残されている第三王女の身柄を天秤にかけることは出来ない。


ミンティアが死んだのは、すべて、甘く見ていた自分のせいなのだ。自分が娘の『処刑執行書』に署名したのだ。



「陛下・・・」


風で揺れている娘の亡骸を見て悲しんでいるのは自分ひとりだった。自国の王女が目の前で処刑されても ─── いや。処刑される前ですら、誰からも助命嘆願の声が出なかった。

『自分勝手でワガママ』と周りから言われていたが、自分にとっては『可愛い娘』だった。


─── しかし、国民にとって見れば『迷惑な王女』だったのだろうか。

ああ。そうだ。


第二王女ミンティア第三王女ミルッヒの留学に割り込み、あわよくば王太子を色仕掛けで籠絡し、王太子妃の座を。のちに王妃になったらクラフテラ国がゼリア国を乗っ取るつもりだったのを知っていた。


「見ててください。お父様。『ゼリア』なんて、私が簡単に手を入れて見せますわ」


ミンティアはそう言って笑っていた。私は、そんなミンティアを「頑張って手に入れてこい」と笑って送り出したのだ。


私自身も奔放的な娘には手を焼いており、妹姫と共に『留学』したと聞いた宰相たちから「第二王女をすぐに連れ戻して下さい!」と懇願されたが聞き入れなかった。「やれやれ。半年は厄介払いが出来る」という安堵感と、「相手は王女だ。多少の問題はあるだろうが、大した事にはならない」という浅慮から、ゼリア国から再三届く『第二王女の回収要請』を放置していたのだ。


─── 私は、これから交渉しなくてはならない。

私の生命ひとつで許して貰えるだろうか。


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