第28話


息子たちが ── あえて言おう ── 隣国からの『招かれざるミンティア留学生』の鼻っ柱はなっぱしらを公衆の面前でへし折り、何事もなかったかのように各々の婚約者を連れて私に挨拶に来た。

その二人は今、婚約者と共にファーストダンスを踊っている。


「あのクズをどう始末つける気ですか?」


「 ─── 口を慎め。此処はおおやけの場だ」


「失礼。では『招いてもないのに乗り込んできたコソ泥』を」


「 ─── アマルス」


「失礼。それでしたら『廃国の魔女』」


リリアーシュ嬢への侮辱でアマルスのいかりで玉座はブリザード真っ只中だ。それに気付いているのだろう。招待客は誰一人として挨拶に来ない。

アマルスは元々愛娘を溺愛し、怒りの沸点はとにかく低い。微温湯ぬるまゆ?そんなもんじゃない。水の状態ですでに沸点に到達状態だ。


「クラフテラ国に抗議しましょう。『其方そちら廃棄ゴミイミテーションが、我が国の宝玉を傷つけた罪をどう責任取るつもりか』と」


「止めておけ」


間違いなく、アマルスは一字一句その通りに書簡を送るだろう。いや間違いなく送る!


「それでしたら『我が国は其方の国では便利な粗大ゴミ廃棄場と思われているようですが、バラバラにしたら其方でも処理出来るでしょう?全身切り刻みますが、別料金ですが『首から上』は防腐処理しましょうか?』と」


「 ─── アマルス」


「では『国境に掲げている貴国の旗の代わりに不法侵入者とそれを手引きした者、違法と知りながら国境を越えさせた者どもの遺体をすべてぶら下げて』」


「分かった。すぐに送り返す」


「もちろん『囚人馬車で』、ですよね」


「相手は一応『第二王女』だ」


「我が国では『不法侵入した犯罪者』です」


「丁重に送り返せ」


「分かりました。囚人らしく手枷・足枷・口枷で拘束して囚人馬車で国境まで丁重にお送りしましょう」


「 ────── 好きにしろ。ただし、第三王女は正規の手続きをした留学生だ。彼女と彼女の侍女は残せ」


「もちろんです。あの邪魔な姉は妹を自分の侍女か取り巻きのように扱っていました。娘たち婚約者も公の場で見下しやがって。殿下たちはそれに気付いて不快になったようですね」


彼奴あやつらは、其々それぞれが婚約者に惚れまくって選んだからな。・・・お前がこの場から離れると問題が大きくなる。別の者たちに動いてもらえ。この宴が済み次第、署名するからそれから動け」


「すでに動いているようだ。エルガーとエドガーがいない」


エルガーとエドガーは年子の兄弟で私たちとは『魔の七日間』を乗り越えた仲間だ。アマルスは表立おもてだって動くため周囲はアマルスが冷酷だと思われているが、そこまでの過程を調査する機関がいくつも存在している。そんな中で事務の『表と裏』のすべてを受け持つ官房長官をエルガーとエドガーが受け持っている。そんな彼らが動いているということは、すでに此方の動きを理解して手を打ってくれるだろう。



そんな私たちの期待通り、彼らは30分後にアマルスの前に現れた。満面の笑みで。


「急ぎの書類がございます。すでに手配は済んでございます。陛下と宰相にご署名頂ければすぐに『荷』を積み出立しゅったつが可能にございます」


「すでに『特別仕立て』の馬車の用意も出来ております。夜風は、興奮してほてった頭を冷やすことでしょうなあ」


エドガーはニヤリと意味深な笑みをアマルスに向ける。─── そうだった。『リリアーシュ嬢信者』なのは私だけではない。『魔の七日間』に関わった全員がそうなのだ。


「あのアマルスのところに『天使』が舞い降りた!!」


私たちはそう言って、私以外は週に何度もアマルスの家に行っては『天使』を愛でていた。


「私にも会わせろ!」


他の連中が寝顔を見に行っては可愛さを聞かされる度に、アマルスに何度そう訴えたか。散々らされて、やっと会わせてもらえたのがリリアーシュ嬢が5歳の時。─── 会ってすぐトルスタインに温室へ連れ去られてしまったが。


「陛下。ご署名を」


アマルスが書類を確認して署名したものを、清々しい笑顔とともに差し出してきた。手渡された書類を確認して、アマルスの満面の笑みの理由を理解した。


「これで良いのだな?」


「ええ。構わないでしょう」


私はアマルスの言葉に頷くと、最終決定者として『第二王女による越境行為と不敬罪による公開処刑』とその責任をクラフテラ国に慰謝料として請求する旨。さらに『第三皇女と同じ名を持つ『第二王女の従者の保護』と、『返答如何いかんによっては国交断絶』という書類に署名した。


「くれぐれも、留学は第三王女のみであり、第二王女は許可されておらぬ。さらに招かれてもおらぬパーティに乗り込みわめいて場を壊しただけでなく国王と二人の王子に対しての不敬罪。その責任をどう取るのかを問うように。もし『身柄を保護した少女』を我が息子たちに嫁がせようという魂胆を見せれば地図から『クラフテラ』は消え『ゼリアの領土が広がる』だけだと伝えるが良い」


国境の手前。祖国にあと数歩という場所で行われる絞首刑。そのまま国境に罪人として吊り下げられ朽ちても骨になっても埋葬されない。


貴族、それも王女だ。絞首刑は侮辱だろう。しかし不敬罪とは目上の相手に対しての侮辱を行ったという罪だ。


『侮辱には侮辱で返す』


─── ただそれだけだ。

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