第27話


「はじめまして。ジルスタット王太子殿下。トルスタイン殿下。クラフテラ国第二王女ミンティアに御座います。此方こちらに控えますのが第三王女ミルッヒと申します」


ミンティア王女は優雅にカーテシーを決めて見せた。その後ろで初々しくカーテシーを捧げるミルッヒ王女。その姿に私は『笑顔の仮面』を張り付けた。それは兄も同様だった。


「丁寧な挨拶をありがとうございます。ミンティア姫。ミルッヒ姫。ですが挨拶は今宵の主賓である以上、主催である国王陛下に一番に挨拶するのが礼儀というものではございませんか?」


兄はミンティア王女の無作法を注意したが、ミンティア王女は分かっていない様子だ。笑顔で身体を起こして兄に秋波しゅうはを送っている。ミンティア王女は常識が著しく欠如しているようだ。


「さあ。参りましょう。メイリア嬢」


「リリアーシュ嬢。私たちも父たちにご挨拶を」


「「はい。殿下」」


メイリア嬢とリリアーシュ嬢は声を揃えて笑顔と共に返事を返してくれた。そしてお互いに声が揃ったことに驚いて顔を見合わせて恥ずかしそうに微笑んだ。その可愛らしさに、私たち兄弟も頬が緩んでいた。



「殿下。今日の主賓はわたくし共ですわ。そんな見窄みすぼらしい女ではなく、私共をエスコートするのが筋というものではなくて?」


「申し訳ございませんが、挨拶も出来ない礼儀知らずを相手にする気は兄も私も御座いません。いくら着飾っていても心の貧しさは隠しきれていませんよ」


「んな、何ですって!」


ミンティア王女は私の言葉に此処がどのような場か忘れたようで、はしたなく大声を上げた。リリアーシュ嬢を私の背で隠すように一歩前へと出る。


「私は『第二王女ミンティア』なのよ!」


「ですから?それが何だというのです?貴女の言葉を真似るなら、私は『第二王子トルスタイン』です。そして、此方こちらは私の婚約者リリアーシュ・ユラ・ノイゼンヴァッハ公爵令嬢。宰相の長子ちょうしにて、次期ノイゼンヴァッハ家当主です」


私の言葉を紹介と思ったのだろう。リリアーシュ嬢が幼いながらも完璧なカーテシーを披露すると感嘆の声が上がった。リリアーシュ嬢の礼儀作法は『社交界のバラ』との呼び名に相応しく、気高く気品のある義母ははの指導によるものだ。残念ながら、現在は領主として領地に戻っている。


『宰相の娘』

その単語でクラフテラ国から来た侍従侍女が青褪めた。国外では父より義父の方が名を知られている。・・・冷酷宰相として。

実際はそれ相応の罪を負った者に対して『正当な罰』を与えただけだ。それも、私が餌になり釣りあげた貴族たちに。


「行きましょう。リリアーシュ嬢。父たちが待っていますよ」


「はい。殿下。それでは失礼します」


リリアーシュ嬢はカーテシーを捧げると、差し出した私の腕に手を回して私に微笑む。私もさっきまで尖ってた心が安らぎ、リリアーシュ嬢に微笑み返した。


「ほら。二人とも。見ているコッチが恥ずかしくなるから、先に父上に挨拶へ向かうよ。家に帰ってからでも『二人だけの時間』は作れるだろ?」


「ええ。そうですね。リリアーシュ嬢。明日は久しぶりに二人だけのお茶会を致しませんか?」


「はい」


兄に掛けられた言葉に頬を赤らめて俯いていたリリアーシュ嬢に話しかけると、嬉しそうに微笑んでくれた。

もちろん、『二人だけの優しい時間』を邪魔した兄を目に殺気を込めて見返すと、兄は表情は変えずに目だけに動揺を見せた。

・・・それだけで今は許そう。

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