第26話
午後の
「リリアーシュ嬢。何やら楽しそうですね。何か嬉しいことでもあったのですか?」
「え?あ! ─── すみません」
先ほどまで春の暖かさのように頬を染めていたリリアーシュ嬢はシュンとなって沈んでしまった。別に怒っている訳でも、注意している訳でも、叱っている訳でもないのに。
此処が邸のサロンやテラスなら、隣に座り慰めることも、膝の上に乗せられた手を握ることも出来ただろう。だが残念なことに、今いる場所は特別科のサロンで、他の生徒たちも子息令嬢に付き添う侍従侍女も多くいるのだ。
用のない生徒は授業が終わったらすぐに帰れとは言えない。帰るための馬車が生徒の数だけ並んで待っているのだ。貴族は特別科だけでなく普通科にも在籍している。特別科と普通科の使用する専用門は別だ。しかし、特別科の馬車だけでもすごい数になる。そのため、馬車が到着するまでの時間潰しにサロンでティータイムをしているのだ。
「リリアーシュ嬢?一体どうされたのです?私は別に
「 ─── 殿下がご一緒だから」
「え?」
「久しぶりに殿下とご一緒に過ごせる、このひと時が嬉しくて・・・」
そう言って可憐な花が
─── ああ。またひとつリリアーシュ嬢に恋をしている。
この胸のドキドキが周囲に聞かれているのではないかと心配になる。
この数日。私は実家である城へグラセフ・ボナレードとエステル親娘の処分などを、兄や義父と共に
「リリアーシュ嬢。寂しい思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。ですが、城ですべきことはすべて済みましたので、今日からまたご一緒させて下さい」
私の言葉に少し顔を上げて小さく「はい」と返事をして、安心したように恥ずかしそうに微笑んだ。
ああ。またこの顔だ。私が初めて会ったリリアーシュ嬢に一瞬で恋をした、私の一番大好きな表情だ。
他のテーブルに座る子息令嬢からもため息が漏れ聞こえて来た。嫉妬はしない。リリアーシュ嬢は私の婚約者であり、手放す気はないのだから。
でも、彼らからリリアーシュ嬢の笑顔を早く忘れていただこう。
「リリアーシュ嬢。数日以内に公表されると思いますが・・・。来月、隣のクラフテラ国から第二王女ミンティア姫と第三王女ミルッヒ姫が半年間遊学します。ミンティア姫は14歳の第五学年。ミルッヒ姫はリリアーシュ嬢と同じ10歳の第一学年に編入となります」
私の言葉に周りが色めき立った。
二人の年齢からクラフテラ国の思惑が十分手に取るように分かったのだろう。
ミンティア姫の立場と年齢から、王太子ジルスタットの婚約者に
しかしながら、兄には婚約者がいる。もちろん私にもだ。
何方も婚約者を
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