第12話



一人ずつ、手足を砕かれても働き続ける脳と心臓。

彼らの身体で正常に機能しているのは、頭部と胴だけだった。

増血剤と、家畜から取り出されて罪人用に改良された血液を絶えず身体に流されている彼らは、耳に届く『自分以外の悲鳴』を聞きながら、自分が犯した罪に涙する。

特にライドン元公爵の耳には、幼いアントンが叫んだ「ひいお祖父様!助けて!」という声が何時までも木霊こだましていた。

同時にアントンと顔を見ることも腕に抱くことも出来なかった曾孫・・・ジョシュアの処刑の瞬間を思い出す。

閉じていた目を開くと、処刑された家族や親族が憎しみや哀しみの目をして自分を見ていた。

――― 私が今までしてきた事は何だったのか。

それは『家族を犠牲』にしてまで、手に入れたい事だったのか。

他の者たちのように、幻影に泣きながら謝ることはしない。

いや。軽々しく謝罪を口にすることは躊躇われた。

幻影に向かって謝って済む問題ではない。

アントンとジョシュアを、処刑という形で死なせた自分は、手足を砕かれても生きたまま臓器を取り出されても、まだ罰として足りないと思っている。

今行われている自分への処刑を、自分のせいで死なせてしまった皆の数だけ受けなくては・・・。

――― それでもまだ足りない。

身体を引き裂かれても、八つ裂きにされても。

自分の犯した罪を償うには足りなすぎる。

自分はすでに『家族』ではない。

家族が処刑された時に、私だけその場から外された。

家族はお互い微笑んで別れを告げてから、同時にった。

刑場に出されてから、誰一人、私に目を向けることはなかった。

私だけ『ライドン家』から外されたのだ。


愛した家族を思い、すでに祈ることも忘れていた神々に私は願った。


『私の家族だけでなく、処刑されたすべての者たちに安らぎの眠りを与えてください』と。







手足を砕かれた七人は、生きたまま『死の山ゲヘナの窪地』へと投げ捨てられた。

ここは国の北にある岩山で、山頂には大きなクレーターが出来ている。

罪人をヘリから其処の中に投げ込むと、このクレーターに住む肉食の鳥類たちが食い尽くしてくれる。

その鳥類たちは、このクレーターから外に出られない。

遥か昔に空から落ちてきた『神の鉄槌』が原因とされている。

今では、神の鉄槌とは隕石のことで、隕石に含まれている磁場が原因でクレーターから出られないと判明している。

肉食である以上、磁場が弱まってクレーターから出てきたら討伐する必要はあるだろう。

それは何千年も先の未来だ。

その頃には、何らかの対策が取られているだろう。


鳥たちに生きたままついばまれ、あがり続けた悲鳴は、翌日の昼には聞こえなくなった。

その時点で残っていた『七つの死体』は、翌日には身体の半分が消え、さらに翌朝には完全に骨だけになっていた。




こうして、何日も続いた『公開処刑』は終わった。




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