第11話



王都とその周辺の国民たちが制裁を終了したいくらか気が済んだのは、四日目の朝だった。

昼夜を問わずに石礫を受け続けた咎人たちだったが、定期的に射たれた注射で精神は研ぎ澄まされていた。


観覧席に人々が並んで座っていく。

そこに『学院の生徒未成人』はいない。

それは『制裁が終わり処刑が始まる』事を意味していた。

しかし、それでもまだ『自分は助けられる』と思っているゾルムスは、『もうすぐ救われる』と信じて疑わない。

銅鑼の音が響き、それまで小声で話していた観覧席の国民たちは口を噤む。


「皆の者。長らく待たせた。これより咎人の処刑を開始する」


ノルヴィスの宣言に、勝手に救われると思いこんでいたゾルムスが身を捩った。

その様子にノルヴィスは嘲笑った。


「フッ。咎人ゾルムスよ。お前は何を勘違いしていたのだ?お前たちの罪は『前国王殺害』だ。お前がそこに並んでおる元男爵に探させて手に入れた『ユウラ』の花蜜。それこそが前国王の生命を奪ったのだ」


ノルヴィスの言葉に驚いた表情で顔を上げる。

しかし、ゾルムスの背側にいるノルヴィスの姿を見ることは出来ない。と同時に、ゾルムスの背を鞭が打った。

制裁で破れたシャツから見えるゾルムスの白い背に、赤い蚯蚓腫れがくっきりと浮かび上がった。

ノルヴィスが頷くと、ゾルムスたちの口枷が外されていった。


「咎人ゾルムスよ。何故、父である前国王に『ユウラの花蜜』を与えた」


「僕は・・・父上が『最近よく眠れない』と仰ってたのを聞いてたから・・・」


「ユウラは『麻酔薬』として使われるほど強力なものだ。その事は、学院の薬草学で学んでいるはずだ。それを知りながら与えたというのだな」


「元男爵がゾルムスに渡したのは、ユウラの花蜜が入った小瓶。そのひと瓶全部が、前国王の飲み物に入れられたのです。ゾルムスが前国王が就寝前に飲まれる果実酒に入れたのは、その場にいたメイドたちから証言を得ており、また、使用された空き瓶も回収しています」


ノルヴィスの言葉に続いて、アマルスが小瓶を手に淡々と当時の状況を話していく。

父の『よく眠れない』という言葉に、ゾルムスは一般的に麻酔薬として使われる『ユウラの花蜜』を手に入れ、「よく眠れます」と父の飲む果実酒のグラスに『ひと瓶全部』入れたのだ。

――― そして、バカな父は溺愛するゾルムスの言葉を真に受けて飲み干し・・・『永遠とわの眠り』についたのだった。


「僕は、ユウラの花蜜がそんな危険な物だとは知らなかっただけです!」


「僕は悪くない!」「僕は知らなかった!」を繰り返すゾルムス。

自分が無知だと言い続けているのだ。

この場で、それに気付いていないのはゾルムスただ一人。

ゾルムスの名は『最低限の知識を持たずに恥を晒したもの』として、後世に伝わるのだった。

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