第9話 友達
解放リリースが終わると時間は午後六時を回っていた。
「さて、授業らしい授業はしてないが今日はこれで終わりにしよう。」
川上はそう告げるとそそくさと職員室に帰って行った。
(え、いや、おれらどーするんだよ、)
すると川上と入れ違いに一人の女の人が入ってきた。
「えー皆さん初めまして私は寮母の柏木奈緒です。奈緒お姉さんって呼んでくださいね。」
見た目の割に痛い挨拶が終わるとおれらは寮に案内された。
壱組は情報漏洩を防ぐためなのか全寮制なのだそうだ。
生徒一人一人に一部屋与えられシャワー、トイレ完備である。
私服や私物はすでに国によって割り振られた自室に運び込まれていた。
食堂があるためキッチンや冷蔵庫などが省かれている分部屋は少し広く感じる。
悪くないな。
心の底からそう思った。
箱庭からはじめてでて正直心にどこか不安をかかえていたが、昔から住めば都と言うように案外悪くないと思いはじめた。
コンコン
「はーい」
だれかがおれの部屋を訪ねてきたらしい。
「悠希くんお部屋は気に入りましたか?」
どうやら柏木が全部屋を見回ってるようだ。
「はい。きれいで広いしシャワーもついててありがたいです。」
おれは素直に感謝の旨を伝える。
「まーそれはよかった。新設ですしね。壱組はなんせ人数が少ないですし、この国にとって特別ですからね。」
どうやらおれたちはVIP対応を受けてるようだ。
「あ、消灯時間は決まってませんが夜になると寝たい方もいるのであまり騒がないようにお願いしますね。じゃないとお姉さんがお仕置きしないといけなくなるから。」
なぜだろう笑顔ながらも奈緒お姉さんの闇が垣間見えたような気がしてならない。
「大浴場もあるからみんなと行ってみてね。」
なんていいところなんだ!風呂というものはやはり日本人が生きていくのにやはり外せないものの1つだろう。それが学校にあるなんてまるで夢のようだ。
「ほんとですか!」
おれはつい興奮気味にこたえる。
「あ、期待を裏切っちゃうかもなんだけど混浴じゃないわよ?」
柏木はニヤニヤしながら言ってきた。
「別におれそんなことに胸ふくらませてないんで。お風呂があるってことによろこんだだけなんで。なんでも悠くんは健全ボーイなんでね。」
おれはそう言い、最後柏木にウィンクした。
「ふーん。まーそういうことにしといてあげるわ。」
柏木は面白くなさそうな顔をしてそう言う。
そんなやり取りも終わり柏木は他の部屋を見に行きおれは私物の整理をしていると零が部屋に来た。
「悠もう午後七時だ。みんなでごはん食べに行くらしいぞ。」
零は優しく教えてくれた。
「ありがとう。今行くよ。」
おれは急いで整理をやめ部屋を出た。
「行くか。」
零が部屋の外で待っていてくれた。
「悪い。待たせて。」
おれは零に軽く謝る。
「いつもの事だろ。」
零は冗談っぽくいやみを言ってきた。
そしておれと零は食堂に向かう。
みんなとも合流し食堂にはいる。
この食堂はお昼には弐組や参組の生徒も使うためそこそこの広さの空間に長机と丸椅子がずらりと並んでいる。まー使うのは10席だけなんだけども。
ごはんはメニューが決まっていた。
きょうはオムライスだった。味も照じいには劣るものの普通においしかった。
そして何よりも10人という少人数のため全員と仲良くなれた。
「このオムライスうまいなー。あれ、このオムライス誰の?おー村井っす!てか」
村井って誰だよ。ほぼダジャレじゃないだろ、
こいつは坂口奏。能力は念力。
あまりにも重すぎるものは動かせないが大抵のものは動かせるらしい。ムードメーカー的存在になり切れない感じだ。こんなふうにいつもくだらないおやじギャグを言っているようなやつだ。ちなみにこいつは今の警視総監坂口達也の息子である。
「坂口君のだじゃれおもしろいっすねー。」
奏のダジャレで大笑いしているこいつは佐藤弘。能力は火。
栞奈の炎に比べれば焚き火程度だが、そこそこの火力がでる。
普通の容姿にどこにでもいそうな名前。そして、ありふれた火という能力をもつ「The 普通」である。強いて言うなら元野球部ということもあり、動体視力がずば抜けているらしい。
「え、奏。全くうまくもないしおもしろくもないよ」
辛口というか毒舌を笑顔で言うこいつは古河錦。能力は電磁波。
電磁波とは光よりも周波数が低いもので錦はそれを操ることができる。使い方によってはアホほど強い能力だ。みんなにもわかるように身近なことで簡単に言うと、つまり錦は「Wi-Fi人間」ってことだ。
本人に言ったら普通に頭を叩かれた。ボソッと言っただけなのに、、、
「にしきっちは厳しいねー。かなでっち凹んじゃうよ。」
ひょうひょうと話しているのが葛城颯来そら。能力は飛行。
人類が夢見る能力ランキング一位二位を争う能力だ。
鳥人間コンテストに出たら間違いなく優勝するだろう。だって空飛べるんだもん。
「でもおもしろくなかったわ。」
あたたかいのあの字もないこいつは佐々木暦。能力は未来予知。
一週間以内に起きることをある時急に頭の中に情景として流れるといったものらしい。
ちなみにこの子がさっき学校をやめると言い出した張本人である。
「大丈夫だよ!質より量で勝負だよ。」
奏をフォローしているようでできてないこの子は真辺時雨。能力は雨を降らせる。
まさに名前にぴったりな能力だ。真辺家は由緒ある呪術師の家らしくあの弥生時代に邪馬台国を治めていたといわれている女王卑弥呼の末裔らしい。なんでも生まれてくる女の子には何かしらの呪術的能力が発現するらしい。もちろん呪術も使える。
「いやいや時雨ちゃんフォローできてないから。」
栞奈が笑いながらつっこむ。
「ふぇ、ごめんなさい。」
時雨は少し顔を赤くしてあわてている。かわいい。
「愉快だね。」
このやり取りを見て微笑みながらハリスは言う。
「そうだな。」
零はだまってコーヒーをすすっている。
この個性豊かな六人とおれ、零、栞奈、ハリスの合わせた十人で壱組だ。
おれは初めて友達という失いたくないものが増えた。
「平和がいいな」
無意識にぼそりとつぶやいて再び皿の上に乗ったオムライスを口に運んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます