60.魔人
「···あれは、何? 」
最初は単に砂が舞っているだけのように見えた。
この世界の気候は変化が激しいからだ。
1日ごとに気温も大きく違うし風の強さなんて朝夕でかなり違うこと多々もある。
だから本来、砂が舞うなんてことは日常茶飯事なのだ。
でもすぐに今回はそれには該当しないことが分かる。
今は全く風が吹いていないのだ。
「···? なんで風が吹いてないのに砂が···。まさか! 」
そこで気づく。
いや、むしろ気づくのが遅い。
「···はい。恐らくそのまさかです。」
側近も僕の言いたいことを察したらしく、小さく頷きながら答えた。
そう言っているうちに段々と舞う砂の間から人影が見えてくる。
そしてそれは徐々にこちらへと近づいてくる。
「もう攻めてきたってことか···。」
「この様子だと罠を仕掛ける余裕もなさそうですね。」
「うん···。どうしよう···。」
そう言っている間にもその人影は刻一刻と僕らの元へと進行してくる。
目測で1、2、3、4······ん?
たった5人!?
僕らはてっきり大軍で、つまり数の暴力で押してくるものだと思っていた。
ところが今、目の前に見えてとる光景はこれとはかけ離れている。
「ね、ねぇ···。僕にはどうも相手が5人しかいないように見えるんだけど。」
「大丈夫です。私の目にも5人しか写っていません。」
「しかもさ、人にしてはでかくない?」
「えぇ。普通の人の5倍ぐらいあるように見えますね。」
僕も側近も半ば呆然としながら言葉を交わす。
もうどこか呆れ果てて棒読みのような会話になっている。
「お、おい···。ちょっと待て。」
すると突然、バティが声を震わせながら会話に入ってきた。
バティは顔面蒼白、手も小刻みに震えている。
見るとそれはバティだけではなかった。
「今、|5倍ぐらい(・・・・・)って言ったよな···? 」
「う、うん。そう見えるけど···。」
それを聞いてバティはさらに顔を強ばらせていく。
そして諭すように話し始める。
「···いいか、よく聞け。勇者も戦うことになるかもしれんからお前もちゃんと聞いとけよ? 」
「お、おう。」
突然話を振られて隼人は一瞬ビクッとしながら返事をした。
「よし。まず、その例の巨人の正体だがそいつは魔法で人間を巨大化させて作った、言うなれば魔人というやつだな。」
「魔人か···。そいつは一体どのぐらい強いの? 」
「俺も具体的にどの程度、とまではわからん。だがこれだけは言える。魔人相手にサシで勝負して勝つのは不可能だな。だが、幸いにしてここには10人いる。つまり最低でも2人で魔人1人に当たれるってわけだ。まぁ恐らくこれでも相当厳しいとは思うがな。」
魔人の余りの強さに全員が言葉を失った。
今更ながらこの世界はあまりに理不尽だなと思う。
来たらすぐに人間の大軍の侵攻に遭遇し、デグリア山までの過酷な道のりを終えたかと思えばすぐにハヤタとの戦闘があった。
そしてすぐにハヤタは親友の隼人だったことが判明し、そして今、まさに化け物じみた強さを誇る巨大な魔人が刻一刻とこちらへと迫っている。
隼人と彩華にしたってこの世界に来たかと思えばすぐに呪いをかけられ、僕と戦い、今は僕らとともに魔人と戦わねばならない状況へと陥っている。
それでもどこか冷静にことを対処しようとしている自分がいることに自分のことでありながら少し驚いている。
だが今はそれが必要なときだ。
頭が動くならフル回転させないと魔人たちはどんどん迫っている。
そして僕は1つの案へと辿り着く。
「じゃあさ、2つのチームを組まない? 近距離攻撃のチームと魔法で攻撃と支援をするチームの2つ。」
すると側近が2度頷いて答えた。
「私もそれがいいと思いますよ。バティの言う通り、出鱈目に強いなら対抗手段はそれぐらいしかないと思います。」
「他のみんなはどう?」
そう言ってみんなの顔を見回すと誰も異論はなさそうだった。
「じゃあチームを決めてしまおう。とりあえず僕と隼人と側近、それとバティは近距離組でいこうと思う。で、ウィッチと彩華さんは魔法組。あとはレンたちなんだけど···。」
これを受けて隼人も彩華も任せてくれといった雰囲気で良い目をして僕に頷いてくれた。
これで一先ずは安心出来る。
さて、ここからが問題だ。
バティ以外の人間たちがどれほど戦えるのか全くわからない。
バティも直接戦っている姿を見た訳では無いから未知数な部分が大きいがレンたちはそもそもそんな場面にすら遭遇していない。
それで僕がどうしようかと悩んでいるとバティが意見を出してくれた。
「レンたちがどんな戦い方するのかわからんから困ってんだろ? 」
「うん。そうなんだ。」
「俺はブラッドを近距離組に推薦するぜ。ガタイ見たらわかると思うがこいつのパワーは半端じゃねぇ。それに見た目通り不器用なもんだから魔法はほとんど使えなくてよ。」
「そ、そうなんだ···。」
前半はせっかく褒めてたのに後半は少々貶してしまったせいでブラッドは明るくなった顔を暗くしてしまった。
「まぁでもそういうこった。俺はブラッドを推すぜ。」
「じゃあブラッドに近距離組をお願いするよ。」
「おう!」
こう言っては失礼かもしれないが性格は見かけ通り、寡黙なようだ。
「ってことでレンとコウとメヒアには魔法組を任せるけど大丈夫そう? 」
「大丈夫だ。俺たちの中じゃバティとブラッドが断トツで魔法が下手。そして俺たち3人は兵の中でも上位の魔法の使い手なんだ。だから魔法の精度に関しては安心してくれ。」
そう言ってレンは親指をたてた。
それを聞いていたバティとブラッドは揃って不満タラタラな顔をしていたのは言うまでもないことだ。
こうして魔人たちを迎え撃つ準備は整った。
改めて魔人たちの位置を見るとでかさで遠近感が狂って分かりにくいが少なくとも町に着くまであと10分はかかりそうな位置にいた。
「じゃあ町の外であいつらを迎え撃つよ! 」
「「「おう!!! 」」」
みんなの決意が1つになった。
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