56.護衛
息を切らしながら会議室に入ると隊長3人はもう既に集まっていた。
恐らく側近からはただ集まるようにとしか言われていないのだろう。
何事だといった顔をしていた。
ただ、ウィッチだけは大方予想がついているような雰囲気だ。
すると予想通り、質問が飛んでくる。
「魔王様! 何があったのですか!? 側近からはなんの説明もなく集まるように言われたかと思えば民衆は荷物をまとめて家や避難所からどんどん出てくるし我々以外の兵はそれに同行するしでわけが分かりません。説明をしてください! 」
と息付く間もなく言葉を並べて1番隊隊長のドラゴンが捲し立てた。
「なんの説明も出来てなくてごめん。今から端的に説明するから。まず、地下牢にいたはずの魔法使いと戦士が昨夜のうちに逃げ出してた。」
「なっ······。」
これにウィッチ以外は絶句した。
そしてウィッチが口を開く。
「つまり、誰かがその2人を逃がしたということですね? あたいたちの仲間に裏切り者がいると、そういうことですね? 」
「そういうこと。誰なのかもだいたい見当がついてる。」
ここで一旦間を開けて3人の顔を見回すとみんな緊張した面持ちをしている。
それもそのはずだ。
みなで生きるぞと誓い合った仲間の中に裏切り者がいるとは夢にも思わないことだろう。
それがまさか現実に現れたのだ。
そして僕がゆっくりと口を開く。
「地下牢の管理をしていた三番隊副隊長のゴブリンだ。」
それに1番驚いていたのは彼の隊長であるゴーレムだった。
「そ、そんな···。何かの間違いと違いやすか? あいつに限ってそげなこと···。」
「僕だって間違いだと思いたい。間違いであってほしい。···でもそう思うには証拠が揃いすぎてるんだ。勇者の話だと2人は昨夜のうちに誰かに鍵を開けてもらって逃げている。」
これにウィッチが疑問を呈する。
「その勇者の言葉が嘘ってことはないんですかい? 」
「仮に嘘だとしてもゴブリンが気づかないはずがない。僕と側近が入った時にゴブリンは地下牢にいたんだ。つまりそれ以前に彼ら2人が逃げ出していたならゴブリンは気づくはずなんだ。それなのに一切の報告がなかった···。これはつまり···そういうことでしょ? 」
そして沈黙が訪れる。
誰しも認めたくない。
されど認める他無いほど証拠が揃っている。
そのせいで誰も口を開けずにいた。
するとその沈黙を破るように扉が勢いよく開いた。
見ると側近が肩で息をしながら部屋に入ってきた。
「はぁ、はぁ。すみません。遅くなりました。魔王様の指示通り、民衆と兵はデグリア山へ向かわせました。サリーとデニスは先行させてあります。」
「ありがとう、側近。···副隊長のゴブリンは行方がわかった? 」
その言葉に側近は大きく首を横に振る。
「いいえ。私の見た限りではどこにもいませんでした。」
「そっか。わかった。そしたらこれからの事を話そうと思う。これは命令じゃなくて相談だから言いたいことがあればどんどん言ってほしい。」
これにみんなが頷く。
「まず、さっき側近が言ってたけど民衆と兵はデグリア山に行かせた。理由はその逃げた2人が今度は人間の大軍を引き連れて攻めてくる可能性があるから。でも今攻めてこられても民衆を守りきれるとは思えない。だから兵を護衛につけて避難してもらってる。で、僕としてはゴーレムとドラゴンには避難先で指揮を執ってほしい。仮にデグリア山まで人間が攻めてきたとしたら籠城を強いられる。その時にみんなを守って欲しい。」
するとドラゴンは大きく頷いた。
「分かりました。その案でいいと思います。ですが魔王様と側近とウィッチはどうするんですか? 3人も来れば守りの面でもより強固になる。」
その問いに僕は首を横に振る。
「それじゃダメなんだ。逃げるためには|殿(しんがり)がいるでしょ? その殿に僕ら3人がつこうと思う。」
「なら俺も殿につきます!殿も人数ができるだけ多い方がいいんじゃないですか!? 」
「いや、今大事なのは民衆の命だと思う。それが今の最優先事項だ。それを守るためにも殿は最低限の人数でいかなきゃダメだと思う。そしてデグリア山の護衛には最大限の人数を割きたい。その大事な役目を2人には任せたい。」
「ですがそれでは魔王様が···。」
ここでドラゴンの言葉をゴーレムが手で遮った。
「分かりました。おらとドラゴンの2人はデグリア山で指揮をとります。」
そしてゴーレムはドラゴンの方を向き直す。
「魔王様のお覚悟を無駄にするんじゃない。おらたちにもするべきことがあるんだ。なら早く行くのがええだよ。」
この言葉に納得したのかドラゴンは何か言おうとしたのを飲み込んだ。
「っ! いや···そうだな。魔王様、殿はお任せ致します。ですが、命は大事にしてください。側近もウィッチもだぞ。頼むから死なないでください。」
「うん。もちろんだ。必ず生きて合流するから。2人もみんなのことをよろしくね。」
「はい! 」
そう言って2人は立ち上がり、敬礼をした。
そして急いでデグリア山を目指す民衆の元へと向かった。
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