57.三人だけの作戦会議

 2人が部屋を去り、再び訪れた沈黙をウィッチが破った。


「それで、|殿(しんがり)と言ってもあたいらは何をすればいいんですか? 」

「うん。まずそもそもの話なんだけど人間が来るかもって言ったけどいつ来るのかすら分からない。でもできるだけ長くここに人間を留めておく必要がある。だからまずは準備として町の色んなとこに罠を仕掛けようと思う。」


 その言葉に側近は驚いたように声を上げた。


「罠···ですか···? 」

「うん。罠。」

「しかし罠と言っても一体どんなものを仕掛けるおつもりですか? 私たち3人だけでは大掛かりなものはとてもじゃないですが準備できないと思いますが···。それにいつ攻めてくるかも分からないので時間も無いですし···。」


 ここで僕と2人との間に罠という言葉の意味に相違があったことに気付いた。


「あ、ごめん。言葉が足りてなかった。罠って言っても落とし穴みたいな派手なやつじゃない。僕が言いたかったのは相手にこっちにはたくさん人がいるぞって思わせたいってことなんだ。」


 その言葉にますます分からないと言った様子で側近は首を傾げた。

 それはウィッチも同じらしくこちらもよく分からないと言った風に腕を組んでいる。


「もし、遠目から見た時点で既にここには人がほとんどいないとわかったら人間たちはここを素通りするんじゃない? 彼らが求めているのは労働力だと思う。ってことは人がいない場所にわざわざ立ち寄る必要が無い。だから人間にはここにはちゃんと人がいるぞってことを知らせてあげる必要があると思うんだ。」


 これには半ば納得、半ば疑問という感じで側近も腕を組んだ。


「なるほど···。たしかにそうかもしれないですね。ですが先日のハヤタの行動はそれとは真逆のものでは無かったですか? もし魔王様の言った通りだとすればこれが私にはどうにも腑に落ちないのですが···。」


 たしかにこれは僕も腑に落ちていない部分ではある。


「そこまでは僕にもわからない。呪われていたからの一言で済ますにも情報が少なすぎる。もしかしたら人間の王とは別に女神にも意思があってハヤタはそれに従って動いただけかもしれないし···。とにかくそこは判断材料が少ないから今は考えない方がいいかも。」

「女神の意思···ですか。たしかに私たちは人間について知らないことが多すぎますね。では今はとりあえずハヤタがイレギュラーな存在だった程度に留めておきます。」


 こちらの世界に来ておよそ10日、そんな僕が人間についての知識があまり無いのは当然のことだと思うが、側近ですら知らないことが多いとなると余程人間と魔物の交流が無かったのだろう。

 人間の街へ潜入するときはもっと情報を集めながらじゃないとボロを出しそうだな、なんてことを考えていると今度はウィッチが質問をした。


「ではその人がいるかのように見せるためにどんなことをするんですかい? それはあたいら3人だけでできることなんですか?」

「そのことでウィッチに1つ相談なんだけどね。魔法を応用して泥人形とか作れたりしない? 」


 ウィッチはこの一言で僕が何をしたいのか察したらしくすぐに返事が返ってきた。


「そのぐらいだったらお安い御用です。どのくらい必要ですか? 」

「そんなにたくさんは必要ないかな。30体ほどあれば十分だと思う。それに僕の闇魔法も使うから数はこれで足りると思うよ。」


 すると闇魔法という言葉に側近が反応した。


「闇魔法···ですか? 一体どうやって使うおつもりで? 」

「これはまだできるのか否かやって見なきゃわかんないんだけどね、闇魔法で出した腕は色んな形に変えられたでしょ? 」


 そこで側近が気付いた。

 側近にしてもウィッチにしても本当に頭の回転が速いなとつくづく思う。


「闇魔法で人の形を作ってさらに動かして敵を欺くということですか。」

「うん。そういうこと。」

「ですが···。」


 ここで一旦側近が言葉を切った。


「それは本当に魔王様の体力が持つのでしょうか? 」


 核心を突いてくる。

 その通りなのだ。

 やってみなくちゃ分からないとは言え、これまで僕が闇魔法を使ったのは隼人との戦いが最長でしかもせいぜい目で見れる範囲でのコントロールでしかなかった。

 しかし今回僕がやろうとしていることはこの城下町一帯の影がある場所という広大な範囲で基本の腕の形ではなく複雑な人型で自然な動きをするという操作が必要となる。

 要するにかなり体力も神経も使う作業なのだ。

 しかも敵はいつ来るかさえ分からない。


「さっきも言ったけど正直やってみなくちゃわからない。でも僕が心配してるのは精神面だけ。体力はなんとかなると思うよ。」

「何故です? 」


 今から言うことは恐らくウィッチには少々突拍子の無い事かもしれないなと思いつつ僕は口を開いた。


「彩華にもこれを手伝ってもらおうと思ってるから。」

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