47.いつもの天井
目が覚めた。
ぼんやりとしていた視界が次第にはっきりし始める。
目の前にはもうすっかり見慣れた天井があった。
「おはようございます。魔王様。」
声がした方向に目をやると側近がいた。
「おはよう。」
そう言って僕は起き上がろうとした所を側近にとめられた。
「まだ動いてはダメです。外傷はエルフの魔法で治りましたが疲労まで治せるものじゃありません。それに内臓もかなりやられてましたからとにかく許可が降りるまでは安静でお願いします。」
「え? 外傷? ···なんの? ······!」
そこまで言って昨日の出来事をやっと思い出した。
そこで気付く。
「左腕が···ある···。」
握ったり開いたりしてもなんの違和感もない。
昨日までついていた僕の腕と何も変わらない。
「大変だったみたいですよ。ボロボロになってた私が言うのもなんですが。」
「そうだったんだね。あとでみんなにお礼を言っとかなきゃ。」
そこでやっと寝ぼけた頭が起き始めて大事なことに気付く。
「···他のみんなはどうだったの?」
その質問に側近の顔がくもったように見えた。
「まず、城下町の建物のおよそ8割が建物としての原型をとどめてないほど壊されておりました。そしてそこに住む民のうち7割が···死にました。残りの3割もほとんどが重症を負っており未だに治療が行われています。これでも魔王様が老ドラゴンとゴーレムに応急処置を命じて下さったお陰でたくさんの命が救われました。兵はみな勇敢に戦ってくれましたがおよそ9割が死去、残りの1割が今は復興のために働いています。二番隊隊長、五番隊隊長も死闘の末、亡くなったようです。また、城に仕えているエルフも10人ほどしか生き残れず治療も手間取っているのが現状です···。」
もはや言葉なんて出るはずもなかった。
自分でもわかるほど顔が青ざめていく。
人ってそんなに簡単に死んでいいんだろうか。
いや、いいはずがない。
次第に目眩がしてきて吐き気も感じる。
僕の様子の変化に気づいて側近が口を開いた。
「魔王様がそこまで思い詰める必要はありません。魔王様は自分の役目を全うしてくださいました。老ドラゴンたちに治療に当たらせて民を救い、勇者一行を討ち、サリーたちにエルフを探させて私のことも救ってくださいました。」
「でも僕が城を開けてなかったらもっと救えたかもしれないのに···。」
「それも民を救うためにしていたことでしょう? 仕方がなかったのです。それに今更後悔しても手遅れです。過去は戻ってきてはくれません。今できることをやりましょう。」
そうやって側近は僕を慰めるように言葉をかけてくれた。
たしかに側近の言う通りだ。
後悔してもどうしようもない。
「そうだね。ありがとう、側近。ちょっとスッキリしたよ。」
この言葉に側近は優しく頷いてくれた。
「この安静に、ってどのくらいの間なの?」
「医者の話だと今日いっぱいはということでした。」
「そっか···。じゃあここで安静にしててもできることとかってない?」
この一言がいけなかった。
側近が軽くため息をつく。
「じゃあ魔王様は寝ててください。回復して明日から働いてもらいますから。そのためにも今日のお仕事は寝ることです。いいですね?」
そう言う側近の口元は笑顔だったが目元は全く笑ってなかった。
それが僕には返事は“はい”か“イエス”しかないぞと言っているようにしか見えなかった。
「···はい。」
「よろしい。ではこの辺りで私も作業に向かいます。」
こうして僕は今日という一日を全て寝て過ごすこととなった。
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