32.影

「うめぇ! ほんとこの味は店出しても大繁盛だぜ。」


 バティたちが来たことで僕らの食事はとても賑やかなものとなった。

 本当に美味しそうに食べてくれるので一緒に食べてる僕らも楽しくなる。


「なぁ、これ誰が作ってるんだ? 話をしてみたい。」

「かしこまりました。呼んで参ります。」


 そう言って側近が厨房の中に入っていった。

 そう言えば僕も料理人の顔を見るのは初めてのことだ。


「こちらが料理長です。」


 そう言って側近は1人のデーモンを連れて出てきた。


「おぉ! 料理長さん。ほんと毎回美味しい料理をありがとう。この味なら戦争が終わってから人間の街で店を出しても絶対繁盛するよ。このスープなんてほんと美味い。どうやって作ってんだ? 」


 そう言って立て続けに褒めちぎった。

 それに照れたのか少し顔を赤らめながら料理長は答えた。


「褒めて下さりありがとうございます。こちらのスープはオリバ池でとれた魚介類のアラを中心に出汁をとって作りました。煮込みを昨日からしてあるのでよく味が出てると思います。また、それに合うようにパンに少し塩を混ぜて作りました。」

「なるほどなぁ。ところでその魚介類のアラじゃない所、つまり身はどこいったんだ? もしかして明日出てくるのか? 」

「あ、いえ。身は城下町で売られております。普通ならゴミになるところを町の魚屋から譲り受けました。とはいえ魚介類も少し値の張るものですから市場に出回ることが珍しいものではありますのでこのような料理は滅多にご用意することはできません。」

「魔王に出す夕食なのにゴミになるもので作ったのか? お前はそれでなんとも思わんのか? 」


 バティは少し驚いた様子で僕に尋ねてきた。


「うん。僕がお願いしたことだから。みんなが我慢して生活してるのに僕だけいい思いをするのは間違ってると思うから。せめて食事だけでもみんなと同じようにしたいなと思って。」

「なるほどなぁ。それをうちの王様にも聞かせてやりたいよ。じゃあ料理長さん。ご馳走様。」


 夕食をそれぞれが食べ終わり、ぞろぞろと解散していった。

 僕と側近も食べ終わり側近に連れられて城を出た。

 僕が魔法を使えるのか確認するためだ。

 門番には食後の散歩と言っておいた。

 魔法を使っても周りには害が出ず、かつ城から見えないように少し行った林の中にある湖のほとりで確認をすることにした。


「じゃあ理。さっそくやるぞ。」

「うん。」

「まずは火属性魔法だ。頭の中で炎をイメージして手に力を込めてみろ。」

「わかった。いくよ! 」


 そこで僕は言われた通り頭に炎を強くイメージして手に力を込めた。


 ······が、何も変化がない。

 何度もやってみるがさっぱりだった。


「火はダメか···。じゃあ次は水属性魔法だ。これもやり方は同じだ。イメージして手に力を込めろ。」

「うん。はっ! 」


 少し気合を入れる意味も込めて声を出しながらやってみた。

 でも結果は変わらなかった。

 何もない。

 続けてほかの魔法も側近に言われた通りイメージをして力を手に込めてやってみる。

 でも土属性魔法も風属性魔法も何も起きなかった。


「やっぱり僕じゃ魔法なんて使えないんだね···。分かってはいたけど。」

「何を言ってる。まだ最後に最大の魔法が残ってるではないか。最後だ。やってみろ。」

「···うん。」


 しかし闇って何をイメージしていいのかイマイチわからない。

 闇といえば暗いもので、暗いものといえば···なんだろう。


「ねぇ側近。闇魔法ってなにをイメージすればいいの? 」

「そうだなぁ···。自分で魔法が使えるわけじゃないからなんとも言えない。」

「やっぱそうだよね。闇かぁ···。闇といえば影とか? 」


 その時だった。

 |僕にもできる(・・・・・・)。

 そんな感覚があった。

 思った通り影をイメージして力を込めてみる。

 すると僕の背後から無数の黒い腕が伸びてきた。

 サイズは僕の腕と同じぐらい。

 その腕は僕が思うままに動かせるし形も変えることができた。


「これが···闇魔法? 」

「私も目にしたことがないからわからんが恐らく間違いないだろう。どうだ? 扱えそうか? 」

「うん。なんか僕の体の一部みたいに動かせるよ。」


 僕以外の影にも同じことが出来るだろうか。

 ふとそんな考えが頭をよぎった。


「側近。ちょっと見てて。」

「ん? なんだ?」


 そこで僕は側近の月明かりに照らされた影に向かって力を込める。

 すると側近の影からも無数の黒い腕が出てきた。

 僕の影と同じように動かせる。

 側近に触れると自分の手と同じような感覚がある。

 力はどれぐらいのものだろうと思い近くにある木を殴ってみた。

 1本の腕のみで殴ったのにその木はメキメキと音を立てて倒れた。

 触れた感覚はあるが痛みは全くない。


「どうやら闇魔法は使えるようだな。」

「そうみたい。」

「最低限これが使えれば十分戦えるぞ。今日はもう遅いし鍛錬はまた後日だな。帰るぞ。」

「うん。側近、色々教えてくれてありがとね。」

「あぁ。」


 側近は照れたのかぶっきらぼうな返事だけした。

 力を抜くと影は元の形に戻っていった。

 時計を見るともう既に日付が変わっていた。

 少し急ぎ足で帰ることにした。


 このとき僕らのことをじっと見ていた者がいることに気付いていれば良かったんだけど···。

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