25.フーガ村の人間

 出発してから1時間ほど経った。

 現在城から5kmほど進んだ地点まで来ている。

 そこで僕らは廃墟と化した村を見つけた。

 老ドラゴンの話だとここはフーガ村と言うらしい。

 人間との戦いで壊滅に追いやられた村の一つだそうだ。

 とりあえずここで一回目の休憩をとることにした。


「水がまだ出るならそれを飲んだ方が良いと思います。旅において水は貴重なものですからのぉ。」


 そう老ドラゴンが言ったので僕らは井戸探しをすることになった。

 村はそれほど広くはなかった。

 5分程探すと井戸をひとつ見つけることが出来た。

 これは手柄だ。

 そう思ってみんなを呼ぼうと振り返ったその時だった。


「おいっ!人がいるぞ!助かるぞぉ!」


 そんな声が左手にある民家から聞こえてきた。

 その声とともに5人ほど家から出てきた。

 服装から判断すると間違いなく人間兵である。

 よく見るとみんな包帯に血が滲んでいたり足を引きずっていたりとどこかしら怪我を負っていた。


「おい坊主。どこの所属だ? 近くに仲間はいるか?」


 そのうちの1人が期待の色を目に輝かせながら問いかけてきた。

 どうしよう。

 見た目は人間なんだけど僕は一応魔王なんだよなぁ···。

 少し返答に困っていると向こうからウィッチがやって来た。


「魔王様ー。井戸はありまし···。貴様ら! 何者だい!? 」


 ものすごい剣幕でこちらに走ってくる。

 人間たちもこの様子から察したかのように僕から少し離れた。


「ウィッチ、待って! この人たちは僕らに危害を加えるつもりはないよ。怪我してるんだ。」


 そう言うとウィッチは少し顔を和らげた。


「本当かい? 」

「あぁ。本当だ。俺たちは2週間前にこの村を人間の進軍拠点にするために派遣されたんだ。ところが到着するなりすぐにあんたら魔物の奇襲を受けて部隊は撤退、怪我した俺らは取り残されちまったってわけだ。もう今更あんたらと戦う体力も気力も残っちゃないよ。せっかく助かると思ったんだがな···。いいぞ俺らのことは煮るなり焼くなり好きにしな。」


 そう言って少し悲しそうな顔をした。

 ウィッチもこれには少し困ったような顔をした。


「別にこっちに何もしてこないならあたいらも何もしやしないよ。」

「それより君たち怪我してるんでしょ? なら治療しなきゃ。荷物の中に治療道具ってあったっけ?」

「たしかあったと思いますわ。」


 すると老ドラゴンとゴーレムたちが騒ぎを聞きつけてこちらにやって来た。

 ちょうどゴーレムはリヤカーも一緒に持ってきていた。


「何事ですか? 」


 老ドラゴンの質問に僕が手短に今あったことを答える。


「それでしたら治療は引き受けますわ。訓練所に長年おりますからこの手の怪我の治療は慣れとります。」

「助かる。ならお願いね。手伝うことがあれば遠慮なく言ってね。」

「ありがとうございます。そしたら井戸も見つけれたことですし水を汲んでいただけませんか?こちらは傷の具合を一通り見ておきます。」

「了解! 」


 幸いなことに井戸は枯れておらず綺麗な水を汲むことが出来た。

 汲んで戻るとそこからの老ドラゴンの手際はとても良いものだった。

 30分かからず5人全員の応急処置を終えた。


「これでとりあえずはなんとかなると思うぞ。」

「本当かい? ありがとう! まさか魔物にお礼を言う日が来るとは思わなかったよ。恩に着る。本当にありがとう。」

「ほっほっ。困った時はお互い様じゃよ。でも今したことは本当に応急処置でしかないからはやいうちにエルフの魔法なりちゃんとした医療なりを受けんといかんぞ。」

「ならこの人たちを城に連れていこう。今が9時半だから引き返す時間はまだあるし。」


 その言葉に1番驚いていたのは人間たちだった。


「そんな、俺たちは敵だぜ? それを自分たちの本拠地まで連れて行ってしかも治療までしてくれるって言うのか? そいつはちょっと出来すぎじゃねぇか? あんたら何か企んでんだろ? 」

「天地神明に誓ってそんなことはないと断言出来るよ。そもそも僕らは出来ることなら人間とも仲良くしていきたいんだ。君たちとの交流がその第一歩になればと思ってる。絶対に君たちに悪い思いはさせない。」


 そう言って僕は彼らをまっすぐ見つめた。


「そ···そこまで言ってくれるなら少しは信用してもいいのかもな。お前らどう思う? 」


 そこで少しの間、人間たちの間で会議がなされた。

 数分で決着がついたようだった。


「俺たちもあんたらを少しは信用しようと思う。治療のほうよろしくお願いします。」


 そう言って5人は深く頭を下げた。


「よし。じゃあ一旦城に戻ろう。」


 こうして僕らの旅は人間との初めての交流という大きな収穫を持って振り出しに戻ることとなった。

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