意味もない研究・二
「………」
僕は起きた早々に唖然とした。いや、だって、横で寝てるんだもん。美少女が。
まあ、彼女なんだけどさ、最近やたらと僕の結界魔法を解いて部屋に居座る彼女だよ。お陰でもう結界魔法を貼る気すら無くなって来たけど、それはそれで後々困りそうだからちゃんと貼っとく。
でも、何で、彼女が僕の横で寝ているんだ………? それが理解出来なかった。
「う、うーん。ふあ~」
身体を起き上がらせ、大きく口を開けて欠伸をする彼女。その後、袖で目を擦る仕草をする。あー、可愛い。何でこんな可愛い生き物のが存在するんだ………。
「ん。起きた?」
「うん。ティア? 何で横で寝てるの?」
「看病してたらいつの間にか寝てた」
「看病?」
あ、そうか。僕はあの時倒れて………。そこで、嫌な事が頭を過る。
「なあ! 僕が倒れて何れぐらい経ったかな?」
「え。あー、一週間ぐらい?」
「一週間!?」
僕は叫びを上げて驚愕した。
一週間………か。何で、そんなに寝てるんだよ、僕は。
「煩い!」
頭に冷たくとても硬い鈍器が降ってきて俺はベッドに倒れ込む。
「痛い………何すんだよ」
「間近くで叫んだユクムが悪い」
「それは、ごめん」
それから、沈黙の時間が続く。何故か僕と彼女は一言も喋ろうとはしなかった。
先に口を開いたのは彼女だ。
「ねえ、もう止めて」
その言葉にピクリと眉を動かす。なんだよそれ、僕に研究を辞めろって言いたいのか? 誰が辞めるか。やっと、研究の目処が立ってきたんだ。辞める訳がない。
「言っとくが研究は辞めないぞ。それにお前に指図される覚えはない」
少し喧嘩口調で言う。彼女は困惑気味の顔になる。俺はそんなの気にせず強く睨み着ける。
「いや、その、私は、また倒れて欲しくないなら、今は止めて休んだらって」
「え。あー、………ごめんなさい」
「ううん。私の言い方が悪かったから。ごめんなさい」
また、沈黙が続く。お互いに目を逸らし気不味い空気が流れる。
いや、マジでごめん。勘違いして。
「分かった。暫く休む」
「ほんとに!?」
「うん。あ、でも薬を少し作りたいんだけど」
「駄目。休むって決めたんでしょ」
「うっ………はい」
うーん、何か彼女に言われると逆らえないと言うか、尻に敷かれてるのか、僕は。いやいや、まずそんな関係じゃないし、これは多分彼女にどうやっても勝てないと分かってるから従ってるだけだ。ちっ、精霊術とか反則にも程があるだろ。
「なら、早速出掛けましょ」
「良いけど、何処に?」
「王城」
「はあ?」
***
広い。家の応接室の三倍、いや、五倍はありそうな王城の応接室。調度品も逸品物が多い。
「で、その、何で僕はここに居るの?」
隣に座る彼女に訊く。
「ん。私も知らない。お父様が呼んでって言われただけだし」
え、ルムさんが? 嫌な予感しかしない。あの人が僕を呼ぶ時なんて大抵魔物討伐の時だし。まあ、今はそんなのやってないから断るけど。
そして、応接室のドアが開いた。そこから、マントを羽織ったルムさんと………何で、こいつが。
端正な顔立ちで金髪をきちんと揃えている男、何で、ナバルがここに居るんだよ。
ルムさんとナバルは目の前の椅子に座る。するとナバルは目を細めて鋭い視線を僕に送ってくる。
「変わったな。ユクム」
「………まあね」
「お前がそんな喋り方をすると虫唾が走る。止めろ」
「無理だね。今の喋り方は変える気はない。僕は昔の僕じゃないよ、ナバル」
「っ………何でだよ、お前は───いや、良い。お前を諦めた訳じゃないが、今は止めておく。父上、すみません。どうぞ」
そこは諦め………え、何て言った? ナバルは今、ルムさんに向かって父上って………。
彼女を見る。次にナバルを見る。最後にルムさんを見る。彼女とルムさんは目付きが少し似てるから家族だなって分かるけど、ルムさんとナバルは髪も顔立ちとかも全然違うから親子に見えない。いや、母親似ってのもあるよな、彼女も目付きだけが似てるだけで後は全然似てないし。でも、ええ、知らなかった、ナバルとは学院時代から付き合いだが、王族だったとは。
「ふっ、その顔だとやっぱり俺の事を知らなかったんだな」
「ああ、知らなかったよ。お前、王子様だったのか。ごめんなさい、王子様、今までタメ口利いてしまって」
「お前にそう言われると本当に虫唾が走るから止めろ!」
「うん。知ってる」
「なら止めろ!」
肩を擦りながら此方を睨みながら言うナバル。
ナバル、よーーっく考えるんだ、僕がお前が嫌がる事を一度でも辞めたと思うか?
そこで、ルムさんが咳払いをして俺とナバルを睨む様に見てくる。
「ユクム君、ナバル、茶番は後でやってくれ。今はそれより───ユクム君、君の薬を国で買わせて貰えないだろうか?」
「ん? え、買う?」
ルムさんが言った事が今一理解出来なかった。だって、薬を買うだなんて常識に考えて有り得ない。それも国王のルムさんがだぞ、もしかして、回復魔法が使える者が減り過ぎたのか?
「そうだ、君が作った薬を買いたいんだ」
「………何故?」
「それは、中級魔法士の回復魔法に匹敵するからと言えば良いか?」
「………」
ちら、と彼女に目を向ける。そうすると一瞬目が合ったが直ぐに逸らされた。はあ、言ったのか、仕方ない。口止めしてなかった僕が悪い。
中級魔法士にも匹敵するか………確かに匹敵するかもしれない。骨折の様な重傷を治せるんだ、このまま研究を続ければ不治の病、回復魔法でも治せない傷や病をも治せる様にはなると思う。そこは、僕の寿命と身体が持てばだけど。
「ごめんなさい。売れません」
「そうか。理由を聞いても?」
彼女とナバルが驚いている中、冷静な態度で言うルムさん。おお、そこは王様と言うべきか動揺をしないとは。
「理由としては、まだ『未完成』だからと、絶対に貴族には売らないと言う事ですかね」
「絶対に貴族には売らない? それはどういう意味かね?」
「それは国王様ならご理解頂けると」
僕が言いたい事は、
でも、口を先に開いたのはナバルだった。
「それは、確かに国自体にも問題があるが、聖国が」
「分かってる。まあ、売らない理由は私怨もあるからたけどな」
「私怨?」
「僕をバカにしたからね。意味もない研究をしているバカだって」
僕は意地悪だ。それはそれはとても意地悪だよ。何れだけバカにもされ、罵倒もされたと思っているんだ。そんなので今さら手の平を返されても困る。
断る理由は私怨だけと言っても良いかも知れない。あー、思い出すだけで腸が煮え繰り返りそうだ。
「………はあ。で、聖国は何て言っているんですか?」
三人共、今の言葉を聞いて目を見開いて驚愕した。
「!? た、単的に言えばもっと金を出せだ」
「そうですか」
回復魔法が使える者は聖国と言う聖魔法や光魔法に長けた者達が多い場所から派遣されて来る。回復魔法は聖魔法の一つだ。
そして、聖国との同盟で一つ協定がある。
“他国で回復魔法に就いて勉強をするのは禁止する、代わりに聖国から回復魔法が使える者を派遣する”と言うものだ。バカバカしい。と僕は思うが、それでも昔は回復魔法が使える者が少なかったかと言うし、聖国から援助を受けなければ死人が増大してたとも聞く。
ん? まさか、ルムさんが家にティアを連れて来た理由って。
「その、話は変わるんですけど、ティアが家に来た理由ってそれと関係ありますか?」
「それは、ちが」
「うん。半分はそうだよ」
ルムさんの言葉を遮り、言う彼女。半分? どういう意味だろう。
「半分ってどういう意味?」
「確かにユクムの薬目当てで婚約の話を持っていったけど、私がユクムを好きなのは変わらないから」
「自分の意志で話を受けたと」
縦に首を振るう彼女。少し残念だと思うけど、今さらって感じもある。僕に近づいて来る女性はどうせ、僕自身が好きではなくただ僕の力が欲しかっただけだろうし。それは分かり切っている事。
「で、やはり受けてくれないだろうか?」
「先に言いますけど、婚約はもう受けませんよ?」
「それは今は良い」
ルムさん………今は良いって、諦めてないのかよ。たっく、この人は。
「薬に関しては少し待って貰いたいです」
「てことは受けてくれるのか!」
「いや、受けるとは言ってません」
「そ、そうか。じゃあ───良い返事を期待している」
「はは、期待はしないで下さいよ?」
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