部屋に来る彼女

可笑しい。絶対に可笑しい。何がそんなに可笑しいって? 王女が僕の部屋に居る事だよ。


ルーティア・ユア・ファスト。この国の第二王女にして“氷姫” と言う異名を持つ者だ。確かに彼女は氷の魔法を使ってきた。それに見た目も昔話の一つ『氷河の国』に出てくる女王に似ている。




「その、何で居るんですか?」


気になって仕方ないので、椅子に座ってこっちをじっと見ている彼女に訊いた。


「………」


無言か。いや、こう言う時は無視か。まあ、何でも良いが、早く出て行ってくれないかなあ。研究に集中したい。と言うか、また結界魔法が解けているし……………なんなんだよ、ほんとに。


「答えてくれないと、追い出しますよ」

「………ユクム様、ご飯は食べましたか?」

「え? 食べてないけど、今はそうじゃなくて、答えて下さい」


一瞬にして足と腕が氷で椅子とくっ付けられてしまった。可笑しい、発動の瞬間が見えない。


魔法は発動をする前に魔方陣が浮き出るのに、そんな前兆が無く突然魔法が発動させられる。もしかして、彼女は………。


「ちょっと待ってて」


そう言うと彼女は部屋を出て行ってしまった。


「ん? え、待って! これ解いて! これじゃあ、研究すら出来ない!」


だが、彼女は既に居ない。はあ、仕方ないなあ、自分で解くか。


「?」


そうか、分かった。本当に『氷河の国』に出てくる女王様って訳か。



**


「お待たせ」


彼女が帰って来たと思ったら、両手でお盆を持ってきた。お盆の上には美味しそうな匂いを漂わせているクリームシチューとパンがあった。香ばしい匂いもするからパンも焼き立ての様だ。


思わず、唾を飲み込む。お腹もぐぅぅ~と音を立ててしまう。えっと、前に食事をしたのは何時だっけ、確かモンク草の栽培をしようとした時に外に出たから次いでにと言う事で………………あ、三週間前だ。まあ、自分で開発した薬があるから別に一ヶ月は飲まず食わずで行けるけどね。


「はい、あーん」

「は?」


スプーンでシチューをすくい俺に差し出してくる。言葉に全く感情が込もってないのは気にしては駄目なのか?


「それ食べないと解いてくれないんですか?」

「………まず、敬語止めて」

「え。いや、でも」


流石に王女様にタメ口は利けないだろ。


「じゃあ、次、敬語使ったら国家反逆罪って事で」

「はあ!? いやいや! そんなの成立しませんからね!?」

「ふーん。王女の私に逆らってる時点で国家反逆だと思うけど?」

「うっ、確かに………」


いやいや、待て待て、何納得しているんだ。そんな横暴が通る訳がない。


「食べてくれないの?」

「………はあ、分かりました。食べますからこれ外して下さい」

「駄目。逃げるでしょ?」

「僕はこの部屋から出る気はありません」


じっっと彼女に見つめられる。やっぱり、綺麗な肌してるなあ。


暫くすると拘束は解かれた。固まった手首を回し凝りを取る。そしたら、視線を彼女に移し、手を差し伸ばす。


「何?」

「いや、くださいよ」

「敬語禁止」

「ええ………」


面倒くさい王女様だなあ、仕方ないか。


「くれ」

「私が食べさせるのは?」

「それは流石に無理だ」

「そう、なら、はい」


彼女はやっと俺にお盆を渡してくれた。俺はお盆を膝の上に乗せる。机に置場所がないんだから仕方ない。


「あの、王女様に訊きたい事があります」

「………」

「王女様?」

「………」


何でまた無視なんだよ。うーん、何か気に触る事したかな。いいや、してない。じゃあ、何で───まさか、いやいや、ないない。そんなの有り得る訳がない。でも、試してみる価値はあるよな。


「ル、。一つ訊きたい事があるんだが」

「何? あ、私はティアで良いよ。皆そう呼ぶから」

「分かった」


マジかよ、有り得る訳がないと思ってたのに。この王女は何を考えているのか分からん。


「で、何? 訊きたい事って」

「ああ、?」


その瞬間、彼女の顔が険しくなる。やはり、そうなのか。


「答えなくていいよ。もう」

「え。どうして?」

「その返しは合ってない。答える気なんてないだろ?」

「………」

「俺はって事だけか分かれば良いし」


精霊は普通の人には見えない。見えるのは“霊力”を持った者だけ。霊力と魔力では大きな違いがあり魔力が高くても霊力が無ければ精霊は見えない。それに、精霊が見える人は指で数える程しか居ないと言われている。まあ、喋りたくないわな、もしそれを目当で近寄られても嫌だろうし、僕の事を知っているなら更に喋るのは嫌だろうな。


昔、精霊と契約がしたくて精霊を探した。でも、見つからなくて俺は諦めた。いや、見つからないじゃなくて見えなかったが正しいか。

精霊と契約出来るなら今でもしたい。どんな手を使ってでも。


対面的に座る彼女に手を伸ばそうとする。彼女は身体をビクッとさせて竦めさせる。


「はあ。言っても信じて貰えないだろうけど、俺は別に君をどうこうする気はない。ただ無駄に精霊術を使いまくるじゃないと言いたいだけだ」


さっきの拘束も精霊術だ。それなら納得が行く。精霊術は術式が要らない為、想像をするだけで使えるとか。僕自身が使えないから良く知らないから何とも言えない。だから解除魔法が効かなかった。


「信じます」


ほお、驚いた。これで帰ってくれても良かったのに信じると来たか。


「その理由は?」

「んー。ユクム様───ユクムが好きだから」

「ぶふぉ!!」


いきなりのカミングアウトでびっくりして椅子から転げ落ちそうになった。膝の上に乗っていたシチューやパンは重力魔法で何とか落とさず居られた。あぶねぇ、てか何て言った、この王女様………………。


「お、………僕が好きだって?」


顔を朱色に染め、手を膝の間に挟みもじもじしながら小さく頷く彼女。なんだ、この可愛い生き物は。


「………ごめん。それには答えられない」

「うん。知ってる」

「そ、そうか」


理解してくれてるなら良かった。俺は大バカ者だ、こんな機会なんて一生無いだろうに。でも、そんな事より僕は研究を優先してしまう。


「でも、帰る気はないよ。貴方が私に振り向くまでここに居る」

「え」

「ユクム、貴方は私と絶対に結ばれる」

「確証がない言葉だな。有り得ん」

「ふふ、今はね。でも、ユクムはきっと私の虜になるよ」


またそんな確証が無さ過ぎる言い方を。でも、彼女は不敵な笑みを浮かべている。何で、そんな笑みが出来るのか僕は理解出来なかった。



それから、彼女は『また来るね』とだけ言って帰ってしまった。流石にずっと居る事はなかったな。


僕はシチューだけ炎魔法で温め直す。パンは焼き立てだから良いので、温めず、冷めたまま食べる。


「うん。どっちも美味しい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る