第6話 秋だ 新学期だ

 照りつける日差し。


 金色の髪は背中まであって、両脇にちょっこんと白いリボンで結んだ房が垂れる、茶目っ気のあるヘアスタイル。


 真っ白なブラウスを突き破りそうな、豪快な膨らみに目を奪われる。

歩くたびに揺れるGカップのオッパイ。


 はだけた胸元。


 豊満な乳房を包むブラがチラリと見え。


 しっかと深い谷間に、キレイなブラウジングをしているな。


 スクールウェア風のブラウスは、ワイシャツに比べて素材が柔らかく、形がゆったりしているからあんなキレイなたるみができるんだろうな。


 脚はスラリと長く、膝の上まである黒のロングソックス。


 白く肉感のあるムチムチした太もも。


 スカートの丈は短くて、今にも下着が見えそうで、それでいて見えない絶対領域を見つめ、ゴクリッと喉を鳴らしてしまう。


 ちなみに『朝飯』のメニューは、白米に焼きのり、鮭のみりん漬けに味噌汁とほうれん草のおひたしだ。


 すべて理沙の手作りだ。


 俺の彼女は家庭的でしかも料理上手だからな。


 そしてクラションが派手に響いた。


 なんだこのけたたましい音わ。


「龍一、危ない。あぶなぃいいっ」 


 理沙の悲鳴に重なって、タイヤのきしむ音が聞こえ。


 白いセダンが土煙を蹴り立てて、迫ってきていた。


 よ、避け……っ……ない……と……このままだと確実に死ぬ。


 もしここで死んだら、それで終わりだ。


 漫画やラノベ、ゲームのようにやり直すことなんてできないんだ。


 そう頭では『理解』できていても、カラダが竦んで動かない。


 足腰に……まったく、力が入らない……。


 困惑ていると襟首を掴まれた瞬間、すぐ真横をセダンが猛スピードで通り抜けいった。


 窓から大音量でジャズが流れていた。  


「た、たすかった」 


「ほ、本当に間一髪だったわね。

 間に合って良かったわ。

 ケガとかしていない。

 どこか? 痛いところとかない」


 理沙は目尻から一滴の涙をこぼし。

 ホッと胸を撫で下し。

 柔らかな口元から紡がれる優しい声。


「ああ、大丈夫だけど……っ……マジで…っ……ハァハァ……し、死ぬかった思ったぜぇ……っ……ハァハァ、ハァハァ……っ……」


「もう、気をつけてよね」


 大声で怒鳴られ、強引に両頬をてのひらで挟みこんでくる。


 彼女は無理やりに、ぐいっと自分を見るように仕向けた。


「返す言葉もないとは、こんな時に使うんだろうな。

 どんくさくてごめんな」


 理沙は組んでいた腕をほどいて、大仰なため息をついた。


「仕方ないわよ。

 突然車が飛び出して来たら、誰だってビックリして動けなくなっちゃうわよ」


「でも理沙なら、どんな不測の事態でも瞬時に対応できるんじゃない。

 例えば高層マンションのベランダから『植木鉢』が、大量に落ちてきても、その 全てをキャッチするみたいな。

 芸当も朝飯前だろう」


「私はそんな完璧超人じゃないわよ。バカァアアア!?」


「うぎゃああああ」


 鋭い回し蹴りがわき腹にクリーンヒットし。


 スカートの奥から薄い桃色のパンツが見えた。


「バカなこと言ってないで、さっさといくわよ」


 まあ、理沙のツンデレぶりはいつものことなので、俺は素早く起き上がり。


「ま、待ってくれよぉ」


 理沙の後を追いかける。


 背筋をビシと伸ばして金色の髪を翻し、颯爽さっそうと歩く姿には、凛々しさと可愛らしさが共存していた。




++++++++++++++++++++++




「おはようございます、ルリエール先生。

 今日もお綺麗ですね」


 学園の玄関口でルリちゃんに向かって、理沙は元気よく挨拶をする。


「おはよう、姫川さん。

 今日も仲良く一緒に登校なんて、本当に仲が良いわね。

 恋愛もいいけど、学生の本分は勉強よ」


「はい。ラブラブです」


「コラ、抱きつきなよ。

 おはようございます、ルリちゃん。

 寝ぼけて寝間着姿まま学校に来たんじゃないですよね」


 右腕に抱きついてきた理沙を引きはがし、俺もルリちゃんに挨拶をする。


「もう、学校ではビクトエール先生、でしょ。

 りゅーくんったら。

 それにルリたんは、そんなにそそかしくないよ。

 ちゃんとスーツに着替えてきたもん」


「じゃあ、その格好はなんだ。

 あと、無理してお姉さんぶらなくてもいいぞ」


 彼女の名は『ルリエール・ド・ビクトエール』。


 担任の小林先生が育休に入ってしまい。


 その代わりに新しく赴任した新米教師だ。


 だが、まったく教師らしくない教師で、担当は『英語』だ。


 眠たげな眼差しに小学生としか思えないほどの低身長。


 そこまでまだいい……問題はその格好だ!?


 ナイトキャップを被り寝間着姿で、しまいには枕まで抱えている。


 まったく教師っぽくない服装だ。


「りゅーくんの目は節穴なの!?

 これは寝間着じゃなくて、スーツなの。

 どんな場所でも快眠できるようにと研究・開発された世界に1着しかないオーダーメイドのスーツなんだよ」


「その説明は前にも聞きましたけど。

 つまり寝るための服ってことですよね」


「ええ、そうよ」


「学校に何しに来てるんだ」


「もちろん寝るためよ。

 睡眠不足は、美容の大敵ですもの。

 だって、ほら、屋敷だとねぇ。

 使用人がこうるさくて、おちおち寝ていられないもの。

 机に向かって書類仕事をしていると、眠たくなるのよね。

 どうしてかしら」


「当主の言葉とは思えないほど、無責任な言葉だ。

 よくそれで当主が務まるな」


「……どうせ、ルリは……扱いやすい……『操り人形』みたいなものだから……いても、いなくても……いいの……」


「こんなところで長話してたら、遅刻しちゃうわよ、龍一。

 そろそろ教室に行きましょう」


「それもそうだな」


 俺たちは早足でその場を後にする。


 あのまま……あそこに居たら、底なし沼に引き込まれるところだった。


 永遠と『愚痴』を聞かされるという地獄の沼にーーーーーー。

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