第5話 この屋敷の住人はだらしないヒトが多い

 この屋敷の住人はだらしないヒトが多く。


 食べかけのお菓子の袋や空袋、飲みかけのペットボトルといった一目でわかるゴミから。


 着衣済みの衣服や下着類やバスタオルといった思春期真っ盛り男子には刺激が強いもの。


 はたまたダンベルやバランスボールといった健康器具など、散乱さしていた。


 この散らかり様は、目に余るものがあった。


 ゴミはちゃんと分別してから『ゴミ箱』に入れ。


 脱ぎっぱなしの洗濯物は『洗濯籠』に入れ、脱衣所の前で待機していたメイドさんに渡す。


 健康器具は『フィットネスルーム』の返却する。


「それにしても汚いな」


 一拭きしただけで雑巾が真っ黒になる。


 そこらじゅう髪の毛やら、靴から落ちた泥やらで汚れているな。


 隅の方には、ホコリの塊がいくつも落ちていた。


 気づけば夢中になって掃除をしていた。


「きゃあっ」


 朝の清掃を終えて、朝食の準備をする少女たちのミニスカートを捲り、バストタッチを繰り返すのは、このお屋敷に来てからの日課だ。


「破廉恥極まりない男ですね。

 お姉サマはこんなクズの、どこに惹かれたのかしら」


 まゆを寄せた不機嫌そうな表情で階段を下りてきたのは、セーラー服の真愛美まなみちゃんだった。


 いつもこんな感じでケンカ腰というか。


 当たり前のように悪口まじりで、もう反論する気にもならないほどだ。


「まあ、いいわ。

 お姉サマと黎さんを呼んできてください。

 朝食の準備ができましたから」


「かしこまりました」


 真愛美ちゃんに向かって一礼をした後。


 俺は素早く理沙の部屋に向かった。


 赤い絨毯じゅうたんがしかれた幅広の廊下を歩き。


 重厚な鈍い輝きを放っているドアの前へ立ち、ノックする。


「理沙、もう朝だよ。起きて!? みんな食堂で待ってるよ。

 早く起きないと遅刻しちゃうよ」


 高級なドアに見合った重たいノックの音が響いただけで、返事はなかった。


 どうやら、まだ寝ているみたいだな。


 これは、また部屋に入って直接起こすしかないパターンか?


 部屋に入ってすぐに目に留まったのは、原型をとどめていない目覚まし時計の残骸だった。


 一応……起きる努力はしたみたいだな、偉い偉い。


 天蓋付きのベッドで寝ている理沙の頭を軽く撫でる。


「うぅっ……んぅ……」


 理沙は寝返りをうった。


 枕の上で乱れた髪、横になっていても目立つふたつの乳丘にゅうきゅう、なだらかな腹のライン。


 ルーズな上着とカラダとの間に開いた空間がよく見える。


 豊満な胸の谷間。


 俺や真愛美ちゃんがいくら言ってもブラを着けようとしないのだ。


「理沙、朝だよ!? 起きて。起きてください。

 早く起きないと朝食を食べている時間がなくなっちゃうよ」


 そう叫びながら俺は、厚手だがまるで重さを感じさせない窓のカーテンを開ける。


「ほら、とてもキレイな朝日ですよ。そろそろ起きてください」


 これもダメか? なら、仕方がない。


 俺はベッドの横に片膝をつき、耳の裏側を舐める。


 理沙はくすぐったそうにした後、寝返りを打つ。


 さらに首筋も舐める。


「もう龍一、くすぐったいよ」


「おはよう理沙。

 もう朝食はできてるみたいだから、着替えたら食堂にきて」


「うん。わかった」


 続いてレイの部屋をノックする。


「レイ、朝食の時間だよ」


「は~い」


 返事があった後。


 ドアが開き、白いタンクトップ姿の幼女が、目を擦りながら現れた。


「パパ、朝の挨拶」


 抱きついてきたレイの腰辺りを掴み持ち上げる。


「レイは甘えん坊だな」


レイの額にキスをする。


「ありがとう、パパ」


 レイはニコニコして階段を下りていった。


++++++++++++++++++++++


「ルリエール。口を開けてください。

 あ~ん、って……」


「……むしゃむしゃ……美味い……。

 もう一切れ!? プリーズ」


「もうしょうがないわね。

 はい、口を開けて」


「……むしゃむしゃ……やっぱりピザはネクストだな」


「ああ。口の周りをこんなにも汚しちゃって」


 食堂を訪れた俺は驚きの光景を目の当たりにした。


 なんと真愛美ちゃんが甲斐甲斐しくルリちゃんにご飯を食べさせていた。


 俺の存在に気が付いた真愛美ちゃんは、顔真っ赤に染めて!


「勘違いしないでよね。

 これはメイド長の職務をはたしているだけだから」


「でも真愛美ちゃんって、理沙専属メイドじゃなかったかな」


「ええ、そうよ。

 でも、当主の補佐をするのもメイド長の務めよ。

 それにお姉サマから直々に頼まれた仕事だもん。

 責任を持って務めるのは当然でしょ」


「コーラ、コーラが飲みたい」


「はいはい、コーラですね」


 口移しでコーラを飲ませていく真愛美ちゃん。


「まなまなとルリルリは仲良しなんだね」


「龍一、早く食べないと遅刻しちゃわよ」


 理沙の蹴りが飛んできた。


 まるで学校内でのストレスを発散するように、家の中では自由奔放に振る舞っていることが多い。


「あっ!? もうそんな時間か」


 理沙とレイが食堂に入って来た。


 そして朝食を済ませ。


「いってらっしゃい、パパ」


「いってきます」。


 レイにお留守番を頼み、理沙と並んで登校する。


 さすがに学校には連れていけないので、真愛美ちゃんのお仕事のお手伝いを頼んである。



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